2000年度 |
2001年6月 各省大臣 殿 石綿対策全国連絡会議 代表委員 加藤 忠由 (全建総連委員長) 佐藤 晴男 (自治労副委員長) 富山 洋子 (日本消費者連盟運営委員長) 広瀬 弘忠 (東京女子大学教授) 〒136-0071 東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル5階 PHONE(03)3636-3882 FAX(03)3636-3881 URL: http://homepage2.nifty.com/banjan/ Email: banjan@nifty.com アスベスト(クリソタイル)の早期禁止の実現および アスベスト対策の一層の強化に向けた要請 日頃の貴職の御活躍に敬意を表します。 さる3月12日、世界貿易機関(WTO)の上訴機関は、アスベストの全面禁止が自由貿易に反する技術的貿易障壁にあたるかどうかをめぐる貿易紛争に対して、最終的な結論を下しました。この貿易紛争は、自国民の健康と環境を守る国家の主権に対してWTOがどのような判断を下すかという点でも国際的に注目を集めてきましたが、結果は、WTOの紛争解決のルールが定められて以来、WTOが何らかの貿易制限措置を容認した史上初のケースとなりました。 この貿易紛争は、フランスが1997年1月1日からのアスベストの全面禁止を決定・実行したことに端を発します。フランスは、世界初のアスベスト全面禁止国というわけではなく、EU(欧州連合)加盟15か国の中でもアスベスト全面禁止を導入した9番目の国でしたが、アスベスト生産=輸出国を代表するかたちでカナダが、この問題を初めてWTOの場に持ち込みました。フランスを含めて禁止を導入した諸国の市場としての価値はすでにごく低いものになっていましたが、アスベスト全面禁止が世界中に、とりわけ、最大のお得意様である日本や今後の市場拡大を狙っているアジアをはじめ開発途上諸国に広がることを恐れたからに他なりません。 1999年8月にEUは、WTOの結論を待たずに、というよりもヨーロッパ全体でフランスの立場を支持することを鮮明にして、2005年までに加盟各国がアスベスト全面禁止を導入することを求めた新指令(1999/77EC)を採択しました。同年11月にはイギリスがEU10番目の国として、アスベスト全面禁止に踏み切っています。 昨(2000)年9月に、WTO紛争解決機関のパネルがカナダの訴えを却下するレポートをまとめましたが、カナダはこれを不服として上訴していました。 このような状況の中で、世界中の、また国際的な、専門家・学術団体、労働組合、市民団体、アスベスト被災者(支援)団体や労働安全衛生団体が、地球規模でのアスベスト全面禁止を要求するに至っています。 同じく昨年9月には、アスベスト輸出国の5本の指に入るブラジルのオザスコ市(サンパウロ市の隣)で世界アスベスト会議が開催されました。この世界会議は、科学者、アスベスト疾患被災者、労働者、市民、政府当局者等々、様々な立場の人々が一堂に会し、しかも、アスベストの輸出国と輸入国、いわゆる先進国と開発途上国、すでにアスベストを禁止している国と禁止していない国―五大陸のすべてから35か国以上300名をこす―の代表が顔をそろえて、アスベスト問題の過去と現在を検証し、未来に向けた解決策を探ろうという、初めての画期的な試みでした。 日本からも私たちの代表4名が参加しましたが、世界的なアスベスト被害の実情と問題点、アスベスト産業が規制の強化を妨害する一方でより規制の少ない国へシフトさせてきていることが再確認されるとともに、世界的なアスベスト全面禁止が唯一の解決の道であること、それと同時に、禁止は問題解決の第一歩であって、その後にも世界共通に解決していかなければならない課題が山積みしていること、などが明らかにされました。会議の主催地であるオザスコ市長、政府の代表が参加した南アフリカやアンゴラの代表は、禁止の導入を図っていく決意を表明しています。 今回のWTO上訴機関の決定によりアスベスト禁止をめぐる国際貿易紛争が決着をみたことによって、各国が禁止措置を導入する障害はなくなりました。一番最近の例では今年1月にチリが禁止を導入し、すでに禁止を導入した国は世界中で21か国にのぼると伝えられています*。オーストラリア連邦の職場関係大臣評議会もこの5月に、2003年からの禁止を発表しました。ブラジルでは、オザスコ市を筆頭にサンパウロ州、リオデジャネイロ州等すでに3州・8市が禁止法を採択して連邦政府としての禁止も不可避、アルゼンチンとどちらが早く禁止を決定するかと言われています。ペルシャ湾岸諸国やアフリカ諸国でも同様の検討が進められています。アジアでも、マレーシアが今年中には禁止を導入する見込みという情報もあります。 いまや地球規模でのアスベストの全面禁止が焦点となっているのです。アスベスト輸出国や国際的なアスベスト産業が、いわゆる先進工業国の中で唯一アスベストを大量に使用し続けている日本を「イチジクの葉」として使っている現状は実に不幸な事態と言わざるを得ません。 各国が全面禁止の導入に踏み切っているのは、アスベストが証明済みの発がん物質であるばかりでなく、現実に多大な被害を引き起こしており、いわゆる「管理使用」等によっては被害の拡大を防ぐことができないという共通認識が確立されてきているからにほかなりません。 世界労働機関(ILO)によると、毎年、世界で労働災害・職業病によって約110万人が死亡しているうち、アスベストだけで毎年10万人以上殺しているとしています。 日本でも、アスベスト曝露の指標疾患と言われる中皮腫による死亡者数が、厚生省の人口動態統計(死亡診断書の記載内容に基づく死亡原因調査)によって1995年分からわかるようになりました。これによると、1995年500人、1996年576人、1997年597人、1998年570人、1999年647人、1995-1999年の5年間の増加率が約30%、年間の累計2,890人となっています。アスベストによる中皮腫1件に対して、アスベストによる肺がんが、少なく見積もるもので同数、通常2倍から数倍と言われているので、2倍だとしても、アスベストによる中皮腫と肺がんの死亡の合計が、すでに毎年約2千、5年間で1万発生しているものと考えることができます。 中皮腫は初めてアスベストに曝露してから発症するまでの潜伏期間が40-50年と言われているので、現在顕在化してきている被害は、1950-60年代の曝露を反映しているものと考えられます。現実の中皮腫の増加傾向は、まさに過去のアスベスト使用量増大のカーブに一致しており、そこからしても、今後のアスベスト疾患の増大は必至と言わざるを得ません。過去のアスベスト使用の累積効果を考えればなおさらのことでしょう。(人口100万人当たりの中皮腫による年間死亡者数は、日本は現在6人強。欧米では、比較的少ないアメリカや北欧諸国が15人前後、多い方のオランダやイギリスが25人前後です。欧米諸国の数字は過去の単位人口当たりアスベスト消費量との相関関係がきれいな直線関係を描くものの、日本の数字はかなりかけ離れて低く、これは、使用開始が遅れたこととそれに伴う累積効果を反映したものと考えられています。)アスベスト疾患は「静かな時限爆弾」とも呼ばれており、抜本的な対策の樹立が一刻も早く望まれます。 にもかかわらず、日本の原料アスベスト(現在輸入しているのはクリソタイルのみ)輸入量は、1974年に352,110トンでピークに達しその後漸次減少しているとはいうものの、20万トンを超す状態が長く続き、1995年に191,475トン、1996年177,869トン、1997年176,021トン、1998年120,813トン、1999年117,143トンと、最大の生産国でもあるロシア、中国に次いで世界第3位、先進工業国の中では唯一突出したアスベスト使用大国であり続けています。 2000年の輸入量は、初めて10万トン台を割って98,595トンになりました。また、新聞報道されたように、日本における主要なアスベスト製品製造メーカーで、合計で日本の使用量の約4割を占めると思われるクボタ、松下電工の2社がアスベスト使用の中止を決定したと伝えられています。 私たちはこうした動きを歓迎し、関係他社も後に続くことによって、日本のアスベスト使用量がゼロになることを期待しつつも、楽観することはできないと考えています。なぜなら、関係業界としての使用中止の決定をという私たちの要請に対して、(社)日本石綿協会は、「協会としては、管理して使用すれば安全というポジションに変更はなく、(使用中止についての)議論も決定もししていない」と明言していること、仮に同協会が禁止を決定したとしても同協会に所属しないアスベスト輸入・使用業者も多数いること、あまり知られていないものの原料アスベスト以外にもアスベスト含有製品の輸入が年間1万トン以上もあり(日本企業による海外生産も含めて)、中には増加傾向を示しているものさえあること、等々があるからです。(オーストラリアは原料アスベストの年間輸入量が現在わずか1,500トンにもかかわらず、禁止の導入を発表しています。) 国内の人々の健康と環境を守るため、また、国際的な信義・責任を果たすためにも、企業による自主的使用中止に依存するのではなく、一日も早く日本政府として、アスベストの全面禁止を導入するとともに、要請内容を含めた抜本的な対策を樹立することが急務であると考えます。 なお、「飛散性のアスベストが健康に影響を与えるのであって、非飛散性のアスベスト製品は『管理』した使用が可能である」という意見について付言しておきます。アスベストの健康影響が広く知られ、吹き付けアスベストが原則禁止された以降、アスベスト含有建材の使用を正当化する際によく言われてきた考え方です。この考え方は、「吹き付けアスベストのみが飛散性アスベスト」、「アスベスト含有ボード等は非飛散性」という誤解を生みました。 1980年代ドイツの研究は、「アスベスト・スレートが経年的に劣化し、特に塗装のないスレート表面からアスベスト繊維が大気中に飛散していく」ことを明らかにし、このことが新規アスベスト使用禁止の一因ともなってきました。日本においてもアスベスト・スレート表面のアスベスト繊維が飛散しやすい状態になっていることを明らかにした研究が散見されています。また、アスベスト含有ボードについては、平成8年の環境庁委託研究は、「石綿けい酸カルシウム板2枚の破砕で3.94-6.76f/ml、石綿含有耐火被覆板2枚の破砕で22.85-31.67f/mlと高濃度であり、破砕地点から15メートルの地点でも0.5-2.46f/mlと飛散している」ことを報告しています。1989年建設省建築研究所は、「フレキシブル板の手ばらし解体で0.09-0.20f/ml、2分間散水後のハンマーでの破壊で0.09-0.23f/ml、石綿けい酸カルシウム板の手ばらし解体で0.13-0.21f/ml、2分間散水後のハンマーでの破壊で0.25-0.37f/ml」と報告しています。現状の規制濃度からみればこの濃度ですら問題です。 こうした研究が行われてきたにもかかわらずその事実は広く伝えられず、対策が極めて不十分な実状があります。すでにボード等の飛散性に気づいている関係者からは、「非飛散性アスベスト含有建材も、飛散性アスベストに準じた対策をすることが望ましい」というような矛盾した表現が認められる場合もあります。実際には手で少しずつばらす手ばらし解体でなく、まして2分間十分散水することなどない中で建築物の改修・解体の多くが行われているのが実状です。多くのアスベスト含有建材がすでに使用され、研修や解体の機会におけるアスベスト飛散が増加する日本の建設業で今後の飛散防止対策は急務です。 * ドイツ、オランダ、スイス、イタリア、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、フィンランド、デンマーク、フランス、ベルギー、チェコ、スロヴェニア、オーストリア、ポーランド、ルクセンブルグ、イギリス、チリ、ニュージーランド(1999年繊維の形状でのクロシドライト、クリソタイル、アモサイトの輸入禁止)、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(昨年8月の発表、実施したかどうかは未確認)―以上で21か国。他に、シリア(飲料水供給用アスベスト・セメント管の使用禁止)、シンガポール(1989年以降建築物へのアスベスト使用禁止?)等、部分的に禁止している諸国もある。 環境省 厚生労働省 国土交通省 参考:非飛散性アスベスト含有建材の取扱いについて(通知) 経済産業省 |