はその堂室を出て、風の通る院子まで行く。辿り着くと、兜を脱いだ。
 思わず、安堵の溜め息がもれる。儀式用の甲冑は、ひとつひとつに意味が込められた、たくさんの装飾で彩られている。しかし、当然実用性などは考えられていない。放熱はしない。飾りが壊れないかと気を遣って、動作が抑制される。幾らこれが祭祀だと言っても、こんな格好で鎗を持ち、舞踊させられた日には……。
 そんなぼやきを胸に収めて、ひとり、甲冑の中に風を入れながら、火照った身体を休めていた。

 その耳に、珊珊と鳴る玉の音が届いて、桓はそちらに首を巡らせる。音の主は両手を身体の前で組み、こちらへ向かって来るところだ。弓を手挟み、これも儀式用の装束に身を包んだ浩瀚だった。黒を基調とした絹に、華食鳥の鮮やかな刺繍。弓は漆で黒く艶を放ち、螺鈿の象嵌が時折煌めく。

 ――次は冢宰の弓射だったか……。
 桓は浩瀚の姿を眺めながら、ぼんやりと思う。

 近付き、すれ違う直前――。浩瀚の左手が、さらりと落ちた。追った桓の視界に、浩瀚の指に挟まれた手巾が映る。
 無音の労いの言葉と共に、桓はそれを受けた。
 ――本来ならば、上位の者と会えば拱手なり会釈なり、一定の敬意を表すのが当然である。しかし、桓はそれをせず、ただぼんやりと浩瀚を見ていた。その様子に、浩瀚は彼の困憊を知ったのだろう。
 漸く働きはじめた思考に桓は苦笑し、手巾で汗を拭う。

 ……おそらく浩瀚は微笑っていただろうと、心の隅で思った。

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「雨下燈楼」様から1000hit記念のフリー作品をいただいて参りました
タイトルが「儀式の合間」ということで、の剣舞から浩瀚様の弓射へと移る舞台裏の一時ですね
この二人の間には言葉は必要ないのですね〜
それにしても浩瀚様、見目麗しいだけでなく優しくて思いやりがあって・・・(言い出すときりがない^^;)
もう私は失神寸前ですよ...((((ノ^^)ノ ウフフフフ・・・(o_ _)o ドテッ
(///∇//)テレテレ・・・こ・このように素晴らしい作品をいただけるなんて夢のようです