ここ戴で私(玲蘭)は虎叫と逃し屋をしています。

現在、舷水近くの森。
数日降り続いていた雪は上がり、一面銀世界の中。
夜だというのに、下弦の月から零れ落ちた淡い光の所為で視界はさほど悪くはない。
私は虎叫や他の仲間達と森を走っていた。
しんと静まりかえった森の中、雪を踏む音だけが耳につく。

「急げ!ぐずぐずしてるととっ捕まるか妖魔の餌食になるかだぞ!」
隣を走る虎叫が叱咤する。
「言われなくとも」と全員が走るスピードを更に上げる。
もう随分と走り続けているにもかかわらず、誰一人音を上げる者は居ない。
今日の面子は皆足に自信のあるものばかりだった。
難民達も必死についてきている。

今この国には王も麒麟も居ない。
王が居ない国は例外なく荒れる。
土地は災厄と妖魔に蹂躙され、民は圧政を強いられている。
そのため他国へと逃げ出す者も多い。
それが”逃がし屋”という仕事が生まれた理由だった。
だが妖魔が溢れ偽王軍が目を光らせている中での脱国は困難であり、相当な覚悟を以て臨まなければならない。
生半可な気持ちでいると失敗する、失敗は即ち死を意味する。

暫く走っていると突然紅いものがキラリと光った。
虎叫がチッと舌打ちをする。
「お出ましか。妖魔ってのはな、退治されるのが役どころなんだぜ」
どんな役どころなんだ!と突っ込みたいのを押さえ、剣を抜き放つ。
巨体を揺すりながら突進してくるのは・・・牛?・・・「牛君?」「なんだいカエル君?」パペマペかよ!
いや、そんな冗談を言っている場合ではなかった、犀渠だ。
ぎりぎりまで引き付けてかわすと横っ腹に一撃くれてやる。
その一撃が効いたのか犀渠は咆哮を上げながら走り去っていった。

間もなく夜が明ける。
空が白み始めるその時間帯は妖魔も少なく軍の追っ手も来ない、逃避行にはもってこいだ。
私達はまた港に向けて走り出した。

無事に港に辿り着き、雁の白都へ脱国を成功させ、再び次の仕事のために舷水へと戻る。
次の仕事は大がかりなものになるらしい、私達は依頼先の井行へと向かった。

街道を歩いていると誰かが叫んだ。
「妖魔だっ!」
熊のようなその姿はセキセキだ。
テディベアだったら良かったのに・・・と私は泰麒の真似をして呟いてみたが・・・やはりテディベアにはなってくれなかった(ガックリ)。
虎叫と息を合わせ立ち向かう。
怪我人が出る事もなく無事に仕留める事が出来た。

「食えねえしな、これ」ボソッと虎叫が言う。
食おうと思ってたのかよっ!と突っ込みたかったが、ぐっと飲み込む。
気持ちはわからなくもない、皆それほど飢えているのだ、まともな食事をしたのは一体どれくらい前の事だろう。
だが妖魔などどんなに飢えていても食べられるような代物ではない、諦めるしかなかった。

逃がし屋同士が同盟を結んで大きな船団を形成し、大人数を雁国へ逃がすという大規模な戴国脱出の計画が立てられ、呼びかけのため国のあちこちを回っていると・・・脱国に参加したいという青年と母親が。
しかし母親の方は余命幾ばくもなく虎叫は足手まといになるから連れて行けないと言い切る。
母親も既にその事を悟っているようで自ら辞退する。
「足手まといになる者は連れていけねえ。脱国の成功にはな、人の構成も大事なんだ。因果な商売だよな、ったく・・・」
確かのその通りだった、虎叫が正しいのだ。
それに虎叫だって本当は連れて行きたいに違いない。
一緒に連れて行きたい・・・だが今の状況ではそれは言ってはいけない事なのだ、やりきれない思いにぐっと唇を噛む。
虎叫は頼れるし言う事も正論なんだけど率直にものを言いすぎて「うっ、きついのでは・・・」と思うことも多々ある。
だけどこういう人が官吏に向いてるのかな。。。


「おい玲蘭、ぼけっとしてるなよ。次のお客は山北の近くだ、行くぞ」
虎叫に言われ我に返った私は頷くと井行の村を後にした。

山北近くの村へ着くと村人達は安堵の表情を浮かべた。
村人は路銀、穀物、家畜、酒などの残った物資を報酬として差し出してくる。
「渡し賃としては少ないかも知れんが、村中から集めた最期の金と作物じゃ」
そう言ったのは半年程前に知り合い、今回の依頼を取り次いできた老人だった。
・・・とそこへ、「お前達そこで何をしている!」と”でかい女”(虎叫曰く)登場!(ジャーンッ!
虎叫、でかい女って・・・^^; 確かにでかいけど(爆)

「でもよく見るとべっぴんだな」
そうか、虎叫の好みのタイプはこういう女性か・・・いや、誰が見ても文句なしの美人だな。。。
どうやら李斎という役人らしい。
私達が村人を脅して盗みをしていると思ったらしい。
それに対し虎叫が怒りをぶつける。
「人様の物を横取りしてるのは、王の留守にやりたい放題のお前ら役人どもじゃねえか!」
「ふざけるな!私は断じて・・・」と李斎が言いかけた時、近くで咆哮が轟いた。
今は言い争っている場合ではない、李斎と虎叫は妖魔に向かっていった。
猗即だよ、猗即!キャーッ!これ捕まえて使令にしようよ!だって班渠好きなんだも〜ん!くつくつって笑うところ見たいよ〜!
私は瞳をウルウルさせて訴えてみたが虎叫と李斎が全部倒しちゃった。「捕まえたって使令になんかならねえよ、麒麟じゃあるまいし」と尤もな事を言われ、張り倒された。

妖魔を倒すと李斎は瑞州師の将軍だと名乗った。
虎叫もまた隠さずに逃がし屋だと打ち明けた。
それを聞いた李斎は俯き「そうか、逃がし屋か」と呟く。
「実は将軍と呼ばれたのは昔の事、今では反逆者だ。いつかこの国に福音をもたらすため、私の手で戴を救いたい」
「福音か、その逆なら手に余る程だけどな」と虎叫は鼻で笑う。

李斎は戴だけではなく他の国にも行こうとしているらしい。
不在の王と台輔を探すためだ。
今では偽王軍が実権を握っており逆らう者は悉く処刑されてきた。
やはり王と台輔を見つけ出す必要があるだろう。
逃がしにも限界がある、早く以前のように安心して暮らせる国に戻って欲しいものだ。

「機会があればどこかで会う事もあるかも知れない。お前達のような心を持つ者が増える事を期待している」
そう言って李斎は立ち去った。

かつて無い大規模な脱国計画が迫っている。
数多の民の命がかかっている重みに押し潰されそうになり、李斎が玉座に就いてくれれば今の偽王よりましになると思ってしまう。
寝付けずに外に出て考え事をしていると虎叫が隣に立った。
虎叫も眠れないのかな?
「どうした、玲蘭。怖気づいたのか。何事も逃げ出さず最後までやり遂げれば必ず報われるさ」
まるで私の心を見透かしているかのように、また自分に言い聞かせるかのように虎叫は言った。
国からは逃げられても自分からは逃げられない。
私は頷くと虎叫に最後までやり遂げると誓う。
虎叫は「俺たちの仕事は逃げる事だ、だが逃げる事も戦いの内だ」と言う。
最後まで戦ってやる、と私は改めて決心した。

あと数日で舷水へ着かなければいけない、そんなある日、船団長から手紙が届いた。

親愛なる玲蘭へ
近々、大規模な逃がしが行なわれる。場所は戴国、舷水(ゲンスイ)。
雁へ渡る大船団を組むこととなる。大勢の民を逃がすため、ひとりでも人手が欲しい。
貴殿の協力を請う。                       舷水 船団長
(。-_-。 )ノハ〜イ、人手は無いけど「キキの足」とか「欽原の尾」ならありま〜す、それと「壊れた鎧」誰かいりませんか〜?
こんな所で商売してどうするのよゞ( ̄∇ ̄;)ヲイヲイ

一行は無事に舷水へ到着。
虎叫は真剣な表情でてきぱきと要領よく指示を出していき、皆がそれに従って船へと荷を運び込む。
虎叫って口が悪くなければかっこいいのにな。。。
そして船へ荷を積み込む作業を終え出航準備完了、・・・とそこへ李斎が訪ねてきた。
戴を駆けずり回ったものの結局王と麒麟を見つけ出せなかったとかなり落ち込んでいる様子。
「いいじゃないか、また探せば。 一人でやれることには、おのずと限界ってのがあるもんだぜ。一人で全部を背負えるわけがないんだ。肩くらいは、いつでも貸してやれるぞ」
虎叫に激され李斎もどうにか立ち直ったようだ。
虎叫、なんでそんなに悟ってるのよ。
貴方は本当にえらい!頼りになる!尊敬するよ!

出航準備が全て整い、いよいよ出航。
甲板は難民で埋め尽くされています。難民のほとんどが身一つで襤褸を纏っている状態、何故なら偽王軍に財産を押収されているから・・・(涙)
危険な旅路となる事を想定して、逃がし屋の頭目達の話し合いで誰かが騎獣で囮になることが決定。
空路での囮、海路での先導、どちらも危険だが騎獣を駆りながらの戦闘に不慣れな私は海路で皆を先導する方に名乗りを上げた。
航海は順調、空路組が陽動しているおかげで偽王軍の追っ手もない様子だ。
穏やかな海に釣り糸を垂れ「大漁にならないかなぁ」と呟く虎叫。

しかし夕暮れ時に突然の嵐が・・・! 
「こいつぁ大漁だ、こんなもんが釣れるとは・・・」なんて暢気な事を言ってる場合じゃないよ、虎叫。
出たよ!海竜だよ!條庸だよ!!
條庸の雷光が船を襲う、難民を避難させながら戦闘突入だ。
「倒しても食えねえんだよな、これが・・・」って、虎叫ってばこんな非常時に何言ってるんだ、食えないのは貴方だよ(ボソッ)。
條庸は半端じゃなく強い。。。9人で戦って9人共一発即死(涙)、いやここで死んじゃったらダメじゃんw というよりゲームでは絶対死なない設定だし(爆)。
條庸に負けたのはしょうがない、大きさからして尋常じゃないしね^^; 
難民は別船で逃がしたものの、囮となった虎叫や私たちは悲惨な状態だ。
船上には條庸の雷光にやられて黒焦げになった死体が転がってるし(グロいw)・・・。 
虎叫も剣を支えにしながらやっと立っていられる状態で「こいつが食えりゃぁ、もうちっと力が入るんだけどな」などとほざいている。
こんな状態でもまだそんなこと言える余裕あるのね(呆れ)。 
とにかく船も壊れ海に投げ出されてしまい、後は運に任せてただ流されるだけ・・・行き着く先は・・・天国じゃないことを祈ろう。。。

・・・ん?ここはどこ?私は誰?(オイ)って目覚めたら岸に打ち上げられていた。
どうやら虎叫も無事なようだ。
難民も大多数が無事だったようでほっと安堵する。
一頻り無事を喜び合うと難民達は皆雁の街へと散らばっていった。
「なぁ、関弓まで行かないか?しばらく逃がしの仕事はない。考えてみりゃ雁にはちょくちょく来てるのに都をきちんと見たことがねぇ。本当に民を逃がす価値のある国なのか。鴻基とどう違うのか見てやろうぜ」
それもそうだな、と虎叫に誘われるまま関弓に向けて歩き出した。

関弓に着くと極彩色の建物や舗装された石畳・・・目に入る全てのものに圧倒される。
戴とのあまりの落差にただただ唖然、500年の治世、やはり有能だがでたらめな王は名君だった。。。
虎叫もあんぐりと口を開け「おい、女が化粧してやがるぜ!」「おい、あの着物すんげえ〜!」といちいち驚嘆している。
ところで今夜の宿は・・・と探して見たが、どこも高いっ!手持ちの銭じゃ泊まれないっ!ってことで野宿でも・・・と思っていると、そこへ「おい、あんた達」と可愛らしい少年に声を掛けられた。
「ひょっとして虎叫と玲蘭か?」
そうだけど・・・きみ誰?何故私達のこと知ってるの?と疑問が浮かぶ。
「ったく何で俺が小間使いみたいなことやってるんだ、慈悲と正義の生き物ってのも悲しいね」とぼやいている。
少年は六太と名乗った。
どうも主人にパシリを頼まれたらしい(何も麒麟がみんなパシリしてるわけじゃないだろうに・・・)。
話を聞いてみると、私と虎叫の知り合いが困っていて六太の主人に助けを求めてきたらしく、だが主人は助けたくとも手が出せない状況。そこで私たちに逃がしのような事をやって欲しいとの事だった。
知り合いって誰だろう、と思いつつ、私達は六太に言われたとおり芳陵の桃林園という宿に行く事にした。 


桃林園に着いてみるとそこは庶民が泊まれるような宿ではなく豪奢で贅を尽くした立派な建物だった。
宿に近づくと入り口付近で言い争っている男女の姿(いやよく見ると男が女を口説いているような・・・)があった。
どこかで見た事あるような・・・何と!よく見ると女の方は李斎だった。
李斎が困ってるよ、助けなくちゃ!と思ったが、隣で虎叫は「面白いじゃんか」と傍観を決め込んでいる。
「善意で助けてやったのに下心があるような言い方はよしてくれ」と男が言っている。
私にも完璧に下心あるようにしか見えないんだけど、気のせいなのかな。。。(;一一)
あのぉ〜、そこのお二方、お取り込み中すみませんが・・・と突っ込みを入れそうになっている私たちに男が気付き、「また会おう(ニッコリ)」と去って行ってしまった。
一体何だったのだろう。。。取り敢えず李斎に声を掛けると李斎は驚き、信じられないという顔をした。
「虎叫、それに玲蘭も!ま、まさか・・・」

まさかこんな所で再開できるとは思ってもいなかったのだろう。

李斎は延王の力を借りようとやってきたらしいのだが、覿面の罪に値するので力は貸せないと断られたらしい。
何人も天帝には逆らえない、だが何か矛盾を感じる。
攻め入るわけでもなく民を救おうとしているのにそれの何がいけないと言うのだろうか。
理を知識として理解はしていても納得のいかないもの、わからないものが多いように思う。

李斎も同じ事を思ったのだろうか、これから蓬山にお伺いを立てに行くと言い出した。
そしてその護衛として私達に一緒に来て欲しいということだった。
私は一も二もなく頷いた。
隣では虎叫が「依頼と言うからには仕事、仕事であるからには報酬が必要なわけで・・・」と言っている。
思わず蟀谷を押さえてしまった。
どこまでも冷静でしたたかな男だと呆れと同時に感心する。
そんな虎叫に李斎も「勿論報酬は出す」と当たり前のように言ってのけた。
二人を見ていると、感情に流されてしまう私はまだまだ甘いのだろうか。。。と思い知らされる。


蓬山に向けて起とうとしているところへ一通の手紙が届いた。
親愛なる玲蘭へ
私の古くからの友人であり、我らが船団の理解者でもある李斎将軍が、戴国の惨状を天帝に直訴し、助けを求めるための旅に出ている。将軍は単身、黄海の蓬山(ホウザン)へ向かっているのだ。戴国を救うという将軍の志は、我々逃がし屋と同じである。そこで、だ。信頼がおけて腕がたつ者を護衛にと思い、貴殿に声をかけさせてもらった。李斎将軍はすでに、黄海へ向かっている。追いつき、護衛にあたって欲しい。もし本人から直々に依頼を受けているなら、なおさら力を貸してやってくれ。協力を請う。                               舷水 船団長
読んでビックリ!
どやって李斎の行動を知ったのだろうか、この手紙が届いたってことは私達の居場所は筒抜け?
様々な疑問が浮かんでくるが船団長の気持ちは有り難いので何も言わないでおこう。

令艮門から黄海に入る。
目指すのは蓬山の中腹にある蓬廬宮、だがその前に妖魔の巣窟である黄海を行かなければならない。
ゴウデイや孟極、合踰、猗即・・・獰猛な妖魔達が次々と襲いかかってくる。
そこを見ても山、山・・・同じ景色の中、いくら歩いても前に進んでいる気がしない。
体力は勿論、気力も削がれていく。
聞けば李斎は昇山した事があるらしい。
疲労で愚痴をこぼし始めた虎叫と私を叱咤する。
虎叫も「うるせえ、男女は黙ってやがれ!」と言い返す。
うわっ!男女って・・・それはあんまりでしょう、ほら李斎が青筋立てて怒ってるし・・・^^;。
こんなところで喧嘩はやめて欲しい、と思っているとまた妖魔が現れた。
妖魔を倒して二人の喧嘩もいつの間にか収まって・・・蓬山の入り口まであと少し。
何とか無事に蓬廬宮に着き、女仙の蓉可と禎衛が出迎えてくれた。
明日には玉葉様にもお会いできるらしい。

夜、褥についても李斎は先行きを思い悩んで眠れない様子。
それを見た虎叫は「無駄に心配しても神経すり減らすだけだ、こいつみたにな」と言って私を顎で指した。
うっ、人の事を顎で指すなっ!それにこいつって言うなっ!いつも名前で呼んでくれるのに・・・。
えっ・・・そうだよ、こいつって言い方、初めてされた気がする。
ここは一つ良い方の意味に解釈しておくべきなのかな、うん、きっと虎叫は私を相棒として認めてくれてるって事だよね。

それにしても虎叫ってちょっと良い男だよね、私達の関係って一体どんな関係なんだろう?
ただの逃がし屋仲間?親友?それはそうなんだけど、いっつも二人一緒に行動してるよね、もしかしてウフフな関係??? ねえ虎叫、そこら辺どうなのよ(爆)「そんなくだらねえ事考えてんじゃねえ!」「くだらないとは聞き捨てならない、私は真剣だよ。ねね、教えてよ」「知るかっ!俺に聞くなっ!!」「だって他に聞く人いないじゃんw きっと李斎も知りたがってるよ(ボソ)」


翌日、玉葉と会うことは出来たのだが・・・憤りをぶつける李斎に対して玉葉の答えは「何も出来ぬ」ということだった。
李斎も私達もたちもガックリと肩を落とす。
やはり天理を覆す事など不可能なのだ、禁忌に触れる事は出来ない。
私達は仕方なく蓬廬宮を後にして令艮門へと戻る事にした。

令艮門を抜け港へと向かう。
落ち込む李斎を見かねて虎叫は態と明るく「大将〜、次どこ行くんだ、次〜」と声を掛けるが李斎は「どこへと言われても・・・」と落胆を露わにしたまま。
「やけに弱気だな。もう諦めたのか。あんたの志はその程度だったのか」と虎叫のきつ〜いお説教がw 
「あんたがもう少し頑張っていれば・・・」「あんたは玉座にふんぞり返りたかっただけなのか。それとも救済ごっこで自己満足に浸りたかっただけなのか・・・」等々、遠慮もなく言い放つ。
いくらなんでも言い過ぎだよ虎叫。李斎はそんな虎叫に切れて剣を抜こうとしてるしw 
それに李斎達が偽王軍と奮戦していてくれたから逃がしの仕事も上手くいったんじゃない!と二人の間に割って入ってみた。
でも李斎は「いいんだよ、虎叫のおかげで目が覚めた」って・・・。
うんうん、わかってくれたんだね。
虎叫は李斎を励まそうとして言ってくれたんだよ、こんな所で喧嘩してる場合じゃないよね。
・・・と三人で手を取り合って決意を新たに歩き出そうとした、その時! 「それはできん!」って野太い怒声がした。えっ!だ、誰!?

振り向くと禿頭の巨漢男がガンとばしてきてるじゃないか!
偽王軍の青火というらしい、州師軍を率いていて一騎打ちでは負け知らずだそうだ(スゴイ)。
虎叫は青火のことをハゲ、ハゲって連呼してるし(爆)、李斎も負けじと挑発して・・・。
あぁ、青火ってば完璧に怒っちゃったよ、いや最初から私達を殺す気で追いかけてきたんだから今更だよね。 
こうなったらやってやろうじゃないの!偽王軍は何人くらいいるのかな?って数えてたら一頭の吉量がもの凄い勢いで突っ込んできたよ!戦闘用に飼い慣らされてるの?よく訓練されてるじゃんw大変だったろうな。。。ん?えっ!狙いは私かよっ!?
「わ〜たしの可愛い人形〜〜〜♪」って歌ってみたけど当然大人しくなってくれるはずもなく・・・、しょうがないな。
襲いかかってきた吉量の足を狙い一撃、体勢を崩し倒れたところへとどめを刺した。
そして偽王軍の兵も続けざまに倒してゆく。
一体どれだけの人数が居るのだろう、斬っても斬っても数が減らずきりがない。
それだけ確実に李斎を始末しておきたかったのだろう。
辺り一面は血の海に染まっている。

ふと気がつけば兵達にすっかり囲まれてしまっていた。
体力の消耗も激しく、もはや兵達の猛攻をなんとか防ぐだけで精一杯だ。
全員を倒すなど無理に決まっている、突破は・・・やはりこれでは包囲網を破るのも無理か。
この陣形を崩すには頭を叩くしかないと判断し、青火目掛けて・・・と思ったら、青火の方からこちらに突っ込んできた。
「貴様の常世への旅立ち、わしが後押ししてやる!」 いや、別にあんたに後押しされたくないんだけど・・・。思いながら必死で攻防する。
青火の一瞬の隙をついて渾身の一撃を、と斬りかかった瞬間、兵の一人が青火の前に躍り出た。くっそーっ!もうちょっとだったのに! 怒りにまかせて兵を倒すと既に青火は姿を消していた。 
剣を持つ手が震える、もう体力も限界だ。こんな所で死ぬのか。。。

虎叫が叫んだ「そろそろ潮時だな、玲蘭。二人とも行ってくれ。此処は俺が引き受ける」
(/||| ̄▽)/ゲッ!!! な、なんてことを!一人でなんて絶対に無理だってば! 虎叫をおいて逃げるなんて出来ないよ! 
「いい男ってのは死なないと相場が決まってるんだ」 オイ、自分の事いい男だと思ってるのか!? いや、突っ込むところ違ってるしw 
「ここで皆死んじまったら誰が戴を救うんだ!誰か一人でも生きて戴へ戻るんだ!俺に何かあったら・・・玲蘭を頼む」 
えーーーっ!そんな・・・遺言みたいでやだよ、そんな事言わないで!絶対に死んじゃだめだからね、虎叫。 
敵陣の中に突っ込んでいく虎叫を見つめ、李斎が叫ぶ。「玲蘭、あいつの行為を無駄にするな!生きてここから脱出するぞ!」うぅ〜、虎叫、私は貴方が死んでもきっと忘れないわ(オイ、縁起悪いし、きっとなのかよ、絶対と言ってくれ) 
既に姿の見えない虎叫を思い、ぐっと唇を噛み締め、後ろ髪を引かれる思いで走った。
兵を倒しながらひたすら走る、振り向く事は許されない、立ち止まる事も許されない、虎叫はそれを望んでいないし今自分がしなくてはいけない事は生きて帰る事。
虎叫は大丈夫だ、彼は絶対に死んだりなんかしない。
自分にそう言い聞かせ、李斎と私は必死で港へと戻り烏号へ向かう船に飛び乗った。


なんとか窮地を脱し戴に戻る事が出来た。
人目を避け、舷水から少し離れた入り江より上陸する。
戴の長い冬は厚い雪の下に埋もれ何もかもが凍てついていた。
動く物など皆無だ、膝まで積もった雪に足を取られながら身を切るような冷風の中を私と李斎はひたすら歩き続けていた。
暫く歩くと小高い丘陵の上に小さな村が見えてきた。
人がいるかも知れない、そう思い歩を早める。
農地は荒れ果て、幾つもの墓が放置されている、もう誰もいないのだろうか。
辺りを見回していると、ふと視界の端に灯りが見えたような気がしてそちらへと近寄ってみる。
そこには崩れかけた家があり、中で暖を取っている幼い姉弟がいた。
更に近づくと二人は警戒し、姉が弟を後ろ盾に庇い私達を睨んでいる。
警戒心を呷らないよう注意しながらこちらの身分を明かすと、小蘭と名乗った少女は安堵の表情を浮かべ、ペタンと床に座り込んだ。
余程緊張していたんだろうな、こんな小さな子が気丈に振舞わなければいけないなんて・・・悲しすぎるよ。
話を聞くと此処にはこの姉弟しか残っていないらしい。
親や他の大人達はどうしたんだろう、皆死んでしまったのか、それとも捨てられたのか。。。
家はボロボロで隙間風が容赦なく入り込んでくる。
汚いし寒いが、それでも野宿するよりはましだと思い、私達は今宵はここへ泊めて貰う事にした。

翌日目を覚ますと少年が白湯を持ってきてくれた。
有り難い、ろくに水分すら摂っていなかったのでとても美味しく感じる。
食料と呼べる物は最早残っていない、姉弟は僅かな木の皮を煮て食していたらしいが、それも底をついてしまったと言う。
世話になった礼に持っていた少しばかりの食料を分けてやった。
本当に微量なそれを姉弟は嬉しそうに味わいながら食べている。
これ以上迷惑は掛けられないと、私と李斎は村を出ることにした。
とそこへ、突然幾重もの足音が響き、同時に火矢が飛んできた。
火矢は姉弟と私達の居る家を直撃、あっという間に炎に包まれてしまった。
「外へ急げ!焼き殺すつもりだ!」と李斎が叫び、姉弟を庇いながら外へ飛び出す。
だが家は既に兵に囲まれていた。
そこには青火が居る、追ってきたのだ。
虎叫はどうなったのだろうか、最悪の事態が頭を過ぎる。
まさか・・・虎叫は・・・。
そんなことはあるはずがない!と打ち消すように頭を振る。
今はこの状況を切り抜ける事を考えなければ・・・。

兵達の間に出来た僅かな隙間を縫うように突破しようと試みたが、弟が転んでしまった。
兵が少年を捕らえ「保護しました」と青火の元へ連れて行く。
えっ!?、保護しただって!?何言ってるんだ!
すると青火も少年の頭を撫で「よしよし、もう大丈夫だからな」と頬ずりする。
なんてこった!偽善ぶりやがって!そうゆうのを詐欺って言うんだよ、青火よ。
「貴様!幼い子供を人質に取るとは卑怯!」李斎が叫ぶが「何を言うか!人質を取っていたのはお前達の方だろう!」と青火。
くそっ!狡いぞ、卑怯すぎるぞ、青火。

私は少年を取り返すべく青火に詰め寄ろうとしたが目の前に天馬が立ち塞がる。
またかよっ!妖なんかに頼ってないで自分の手で勝負しやがれっ!
訓練された天馬が私を目掛けて牙をむき、襲いかかってきた。
兵を上手くかわしながらも何とか天馬を倒し、兵と戦っている李斎に加勢する。
次々と兵を倒していき、青火へと詰め寄ると青火は焦りの表情を浮かべ少年に短刀を突きつけた。
下手に手を出せずに青火を睨みつける。
青火に気を取られている僅かな隙をついて兵が弓を放った。
気付いた時には真っ直ぐにこちらへ向かって飛んでくる。
しまった!避けられないか、と思った瞬間、少女が走ってきて私を突き飛ばした。
矢は少女の肩を掠め、それを見た少年が「お姉ちゃんっ!」と叫び、青火の腕を振り払い少女の元へ駆け寄る。
青火は舌打ちをし、「ちっ、どうやら侮りすぎたようだな。ここまでの手練れとは。おい、一旦退散するぞ」と踵を返す。
去り際に青火は一度振り返り「覚えておけ!わしを殺さん限り勝利はないと思え。戦いはまだ終わってはおらん!」と怒号をとばしていった。
私と李斎はほっと安堵の息を漏らす。
何とかこの場は凌げた、姉弟も怪我は負ったものの無事で良かったと胸を撫で下ろす。
だが青火の言葉通り、まだ終わっていないのだ。
辺りを見渡すと焼け落ちた家と偽王軍の兵士達の骸が転がっている。
「民に罪はないのに・・・。玲蘭、井行まで撤退して体勢を立て直そう」
私は少女の手当をしながら李斎の言葉に頷いた。
それから舷水にいる知り合いの逃がし屋への親書を姉弟に持たせる。
子供の足でも日暮れまでには舷水へ着く事が出来るだろう。
姉弟を見送りながら自分の無力さに唇を噛む。
力が欲しい、誰かを守れる力が・・・。
ふと目の前を白い物が過ぎる、いつの間にか雪が降り出していた。
虎叫は・・・、無事なのだろうか。
一人残してきてしまったことを今更ながらに後悔する、あの状況を一人で打破できるとは思えない。
それでも生きていると信じたい、きっとまた会えると。
憎まれ口を叩きながら癖のある笑みを零す虎叫の顔が浮かんでくる。
必ずまた会える、そう自分に言い聞かせ改めて戦い抜く事を胸に誓う。
李斎と私は井行へと向けて歩き出した。


井行へ向かいひたすら走り続けていた。
が、途中で追っ手に見つかってしまう。
雪に足を取られて思うように進めない、このままでは追いつかれてしまう。
ふと自分たちのしてきた行為に一体どれだけの意味があったのだろうかと考えてしまう。
ただ逃げていただけなのでは、国が嫌だからと故郷を捨て国外へ逃亡し、仕事だからと誤魔化していたのではないだろうか。
民を逃がすことで国を救っていたと奢っていたのではないだろうか。
すぐ背後には偽王軍の追っ手が迫っている。
おそらく正規軍ではない、軍に金で雇われた山賊崩れのようだ。
追っ手は間合いにはいると一斉に矢を放ってきた。
必死で回避するが何本かは避けきれずに服を裂き肌を掠めていった。
滴り落ちた血が白い大地に花を咲かせていく。
剣を振りかぶりながら飛びかかってくる男達を躱しながら応戦する。
もう何度も同じような戦いをしてきた、なのに剣を持つ手が震える。
恐怖だろうか、動揺だろうか、焦りを感じているのは確かだ。
そんな私に気付き李斎が「しっかりしろ!情けないぞ!あいつに笑われるぞ!」と叱咤する。
(ああ、そうだ。虎叫と約束したんだ、しっかりしなくては)
よく見ると男達はお尋ね者を捕らえにきた賞金稼ぎのようだ、ならば勝算はある。
フッと短く息を吐き、剣をしっかりと握り直した。

1人また1人と確実に敵を倒していった。
最後の1人を倒すとガクリと膝をつき息を吐いた。
もう戦うための体力も気力も残ってはいなかった。
「何してる、諦めるな!私は最後の1人となっても武器を取り続けるぞ」李斎は気合いを込めて叫んだ。
その瞳は戦力を失ってはいない。
李斎の覚悟に己の甘さを思い知らされる。
愚痴なんかこぼしている暇はない、諦めるもんか!立ち上がり脇目も振らずひたすら前へと走り出した。

「馬鹿が!逃げられると思っているのか」敵はまだいた、いつの間にか回り込まれ行く手を塞がれていた。
「危ない!後ろ!」李斎の叫ぶ声が聞こえ振り向くと、ニヤリと笑いながら剣を振り下ろしてくる男が目に入った。
(避けきれないっ!)周囲の動きがやけに緩慢に見えた。
(駄目だ、やられる)死を覚悟した次の瞬間、悲鳴が上がった。
自分のものではない、見ると目の前の男が血に染まりながら崩れ落ちていく。
(えっ、なに!?)倒れた男の向こう側に見えたのは虎叫の姿だった。
(うそ・・・虎叫?死んだ私のお迎え?)一瞬何が起きたかわからなかった、自分は死んで此処はあの世なのかとさえ思った。
「なに辛気くさい顔してるんだ、これからが暴れどころだろう」虎叫の言葉は耳に入ってこなかった。
吃驚してただ唖然としてしまう。
だが次第に現実に引き戻されていく。
虎叫だ、夢じゃない!生きていたんだ!そう思うと熱い物がこみ上げ目の前が滲んだ。
言いたい事がたくさんあったはずなのに言葉が出てこない。
「おい、何呆けてるんだ。敵さんはまだやる気らしいぜ。一気に片づけるぞ!」虎叫に言われ強く頷くと再び剣を握りしめた。

一丸となり次々に敵を倒していく、みるみる敵の数は減り最後まで残った数名は武器を投げ出し逃げていった。
所詮は寄せ集め集団だった。
「虎叫!」李斎は叫びながら虎叫に走り寄る。
「無事で良かった。さすが逃げる事に関しては天下一品だな」うんうん、同感だよ。虎叫は逃げ足早いからね(笑)
「お前が来なかったら玲蘭は殺られていた、そんなことになったら私は・・・」李斎の瞳が潤む。
李斎が涙するのを初めて見る私と虎叫はちょっとビックリした。
だけどそれだけ精神的にも体力的にも追い詰められているのだ、私だってこの場に座り込んで思い切り泣きたいくらいだ。
さすがにそれは我慢、でもせめてこのくらいはいいよね。
私は虎叫の肩にそっと額を乗せて溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
虎叫は背中に腕をまわして優しく包んでくれた。暖かくてほっとする。

「そうだ玲蘭、こいつぁ業物の武器だ。頼りになる相棒だと思うぞ」虎叫はそう言ってどこからくすねてきたのか緋燕という剣をくれた。
柄に宝玉が埋め込まれていて陽の光を受けてキラキラと輝いている。
刀身は紅く燃えて熱をはらんでいるかのようだ。
有り難う♪綺麗だな。。。しばし緋燕に見惚れていると李斎が言った。
「決着をつけるぞ!敵地に乗り込んでやる!敵もよもやこちらから出向くとは思うまい」
再び三人揃って手を取り合い、新たな決意をする。私達は鴻基へと向かった。

もうすぐ鴻基に着くという時、近くの森に天幕を見つける。
緊張感が走る、暫し佇んで様子を見ていると、どこからともなく現れた敵が月明かりのもとにその姿を晒した。
そこは青火の天幕だった。
以前より減ってはいるものの決して少なくない数の敵が立ちはだかる。
「よもや自分たちから仕掛けてくるとは血迷ったか。手負いのお前達に何が出来るというのだ」と青火は不敵に笑う。
「手負いの獣は凶暴だぞ」と李斎が言い返す。
虎叫も「観念しな、偽王軍さんよ」と青火に剣を向けると青火は「逃がし屋風情に言われたくないな。私達官吏は逃げたりせぬ、祖国のために尽くすだけだ」と言い切る。
ヾ(- -;)オイオイ、聞き捨てならないね、自分が正しいとでも思っているのかい?それとも自分が間違った事をしているって自覚がありながらやってるのかい?だとしたら尚更たち悪いよ。
「民に圧政を敷いている偽王軍が何を言う」と李斎が憤怒すると青火は「阿選様を侮辱するな!確かに正統な王ではないが民の事を思って行動している。だから私も国のために貴様らのような不穏分子を叩くんだ。貴様らは国を捨て逃げ、残された者の事など考えずに一部の者の理想を全体の事だと思いこんでいるだけだ。民を混乱に追い込んでいるのは貴様らの方だ、奢るのもいい加減にしろ!」
そう言われて李斎はあからさまに動揺していた。
うっ・・・と私まで思わず言葉に詰まってしまい何も言い返せない。
そんな李斎を見かねて虎叫が口を挟む。「奴の戯言は気にするな。お前は間違いなく将軍の鑑だ、俺が保証する」
だが虎叫にそう言われても李斎の表情は暗いままだ。「私は正しいと思う事をしてきたつもりだが、それは理想論を押しつけてきたに過ぎないのかも知れない。それに未だに民を救えていないのは事実だ」
李斎の弱音に虎叫は思い切り怒鳴った。「李斎っ!弱気になるな!お前は俺たちの心を動かしたじゃないか!雇われ者の俺たちに金以外の価値を示してくれたのはあんただ!少なくともそこにいる木偶の坊には出来ない芸当だぜ。こんな奴らさっさと片づけちまおうぜ、俺たちにはまだまだやらなくちゃいけない事が山程あるんだ」
青火はふっと笑うと「笑止、貴様らに勝ち目など一片たりとも無いわ!」と合図を出す。
戦いの火蓋は切って落とされた。
私達は素早く武器を構え、一斉に襲いかかってくる兵士達を迎え撃った。
と、その時目の前を巨大な何かが横切った。
すう虞だ、唸り声をあげながらこちらを睨んでいる。
またかよ〜w青火ってば妖獣使いの天才?私はうんざりとしながらもすう虞と対峙した。

覆い被さるように飛びかかってきたすう虞を横に躱し、力一杯腹に剣を叩き込むとすう虞は叫声をあげて横倒しに倒れた。
白銀の毛並みがみるみる紅く染まっていく。
李斎と虎叫も兵士達を相手に戦っている、私もその中へと加わった。
ジリジリと兵を追い込み倒していく、次々に仲間が倒れていく様に恐怖を感じたのか残った数名が堪らず逃げ出した。
その様子に青火が青ざめた顔で叫ぶ、「待て!逃げるとは何事だ!腰抜けどもめが!」
李斎は青火に「諦めて投降したらどうだ」と言うが青火は顔を顰める。
「言ったはずだぞ。わしを屠らない限り勝利はないとな。さあ、この青火に1対1で勝負しようと言う度胸のある奴はいないのか」
青火のあからさまな挑発に李斎と虎叫は動かない、私は2人が止めるのも聞かずに一歩前へと進み出た。
今まで虎叫と李斎に助けて貰ってばかりだ、今こそ2人に何か返したい。
青火は手強い。
緊張と恐怖で剣を持つ手を、額を汗が滲む。
鼓動が速まり破裂しそうだ、肺が痺れて痙攣し上手く呼吸が出来ない。
私が剣を構えたのを見て青火が地を蹴り大剣を振りかざした。
来る! 剣を握る手にぐっと力を込める。

大柄な身体で大剣を振り回す青火は強いが斬撃の合間に僅かな隙が出来る、そこをついて剣を繰り出す。
私は確実に傷を負わせていき、動きの鈍ったところへ留めの一撃を浴びせた。
「ぐはっ!」と青火が倒れ込み大木に背を強かに打ち付けた。
李斎が素早く青火の武器を押さえ込む。
「くっ、不覚。逃がし屋風情にやられるとは・・・」息も絶え絶えに青火が言う。
虎叫は青火に近寄ると「逃がし屋を馬鹿にしてるがあんたのとこの軍隊よりは民の役に立ってると思うぜ。あんたのやり方は強引すぎた。何でも力で押せばいいってもんじゃねえ」と言う。
だが青火は否定する。「力無き正義など無意味だ。王も然り。力無くして国土を治める事など不可能だ」
青火の言に今度は李斎が反論する。「従わない者は悉く力で押さえるのか。それでは本当に民を思いやってるとは言えない」
虎叫も同意する。「あんたは民の立場になってものを考えない。だが李斎は違う」
私が青火の喉元に剣を突きつけると「殺せ!生け捕りになるのは御免だ」と言い捨てた。
だが虎叫が私を制し、「行け!どこでもいいから行っちまえ!」と吐き捨てるのを聞き、私はゆっくりと剣を引いた。
「莫迦がっ!」青火はそう言うと懐から短剣を取り出し自分の首に滑らせた。
鮮血が飛び散り、次いでゴボッと音を立てて地が溢れ出る、瞬く間に地面が血で染まった。
息絶える間際に青火は何か言おうとしたが、僅かに口が動いただけで言葉になる事はなかった。
私達はただその様に驚愕し立ち尽くす。
「自ら命を絶つなんて莫迦だ。たった一度の命を無駄遣いしやがって・・・」虎叫が呟くと李斎が「確かに死んだら何もならないが、こいつにも誇りがあったのだろう」と息を吐いた。
青火は何を思って死んでいったのだろうか。
生きていれば辛い事も数多ある、だが生きている限り負けではない、と思う。

天帝が定める王、それは一体何なのだろうと疑問に思う。
天帝がそうと決めたから?王気を持っていれば、麒麟に選ばれれば王なのか?それはそうなのだが・・・どこか腑に落ちない。
静まりかえった人気の無い廬を項垂れながら歩く。
「私は昇山した時に選ばれなかった。王の器ではない、民を導く事は出来ないのか・・・」李斎がポツリと呟く。
「それは違うぞ。もっと自信持てよ。王は人の心を動かせないといかん。お前は俺たちの心を動かしてくれたじゃないか、お前には王の器があると思うぞ。お前は自分が思っている以上に立派だよ」
虎叫にそう言われ李斎は思わず虎叫の胸に飛び込み泣き崩れた。
エーッ!私の虎叫に何するのよ!・・・でもまあ、身も心もボロボロになって弱気になってる李斎だから大目に見てあげようじゃないの。
それにしても虎叫、役得ね。いつも美味しいところを持っていってくれるよ、まったく・・・。
一頻り泣いて落ち着くと李斎は「最初は王や台輔が居ないと国を救えないと思っていた。だけど虎叫や玲蘭をみてわかったんだ。出来ないとか無理だとかって言葉を並べるのではなく、少しでも努力して事態を改善するべきだと。戴を救うために大規模な組織を作ろうと思う、民による民のための組織を作りたいんだ。虎叫と玲蘭がいるととても心強いんだが。手伝ってくれないだろうか」と言ってきた。
虎叫は「どうする?」と私を見る。
李斎に協力するのもいい、だが逃がし屋を続けるのも1つの方法だ。
戴を救う手段はいくらでもある。 どうしようか。。。

頭の中を今までの出来事が駆けめぐる。
逃がし屋も立派な仕事だし逃げる事も戦い方の一つ、逃がす事で民を救ってきたのも事実、だが・・・。
李斎と出会い戦い、今は真っ向から挑んでみたいと思うようになっていた。
真っ直ぐ李斎を見つめ、一つ頷いた。
「私は李斎と共に戦う」しっかりとした口調に迷いは無い。
虎叫は私の決断に同調してくれた。
ニッと笑い、「よし、決まりだな。引き受けるぜ。だけど俺たちは組織ってものに慣れてねえから不自由な部分も出てくるかもしれねえぞ、それでもいいのか?」
李斎は安堵の表情を浮かべながら「そんなのわかってる。私は虎叫と玲蘭が居てくれればそれだけで充分なんだ」という。
そんな事を言われて虎叫は照れくさかったのか鼻を掻きながら「誰かに必要とされるってのは良い気分だな、玲蘭」と私の顔を見る。
私は「うん、そうだね、頑張らなくちゃ」と微笑み返した。
3人は手を取り合う。
「これからも宜しく頼むぜ、相棒」
こうしてまた1人、新たな相棒が出来た。
これからまた戴を救うために奮闘する事になる、それは長くて険しい道のりかも知れない。
だが明けない夜はないという事を私達は知っている。
どんなに絶望的な状況に追い込まれようと、誰の元にも平等に朝は訪れる。
今は荒れきった戴もいずれ少しずつ良くなっていくだろう。
いつか笑いながら「命がけの旅をした事があったな」と話せる日が来るように・・・。

 玲蘭へ
正直、手紙などあまり書いたことがないのだが。文章でなら、普段言えないことも書けると思い、筆をとってみる。
思えば、すべては自分の自信のなさが要因だったのかもしれない。
私が州師の将軍をやっていたのは、すでに存じてることだろう。
それで民の上に立つことがどういうことか。わかっていたつもりなんだが……
自分の行動に結果が伴わないのが、不安だった。
正直、王になれないと知ったときは、落胆したよ。自分は王の器ではないのだ、と。
だが、玲蘭と虎叫が言ってくれた。私に心を動かされたと。すごく嬉しかった。
人に必要とされることは、気持ちがいいのだな……
少し感傷に浸ったが、とにかく玲蘭たちには感謝の気持ちでいっぱいだ。
それに、私抜きで青火と戦った時の玲蘭は格好良かったぞ。
これからも戴の国のために、一緒にがんばって働こう。
玲蘭と虎叫が傍にいると心強い。
今後とも、よろしく。
                                   李斎


                                   完
  十二国記オンラインゲーム 戴国(李斎編)

本文よりの引用有り、激しくネタバレものにつき御注意下さいませ。 
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