懐かしのレーシングカー:My Dear Old Racing Cars

ティレルP34

Tyrrell P34

*常識外れの革命児・ティレルP34*

Tyrrell P34
-* Tyrrell P34 *-
(プロジェクト発表時)


1975年9月、衝撃的なマシンがロンドン市ヒーローズ・ホテルで発表されました。発表の日、マシンに掛けられていたカバーが外された時、会場全体が一瞬、静まり返ったそうです。現れたのが、フロントタイヤが異常に小さい、フロント2軸の6輪車だったからです。4輪のフロントタイヤは、スポーツカーノーズとボデーモノコックの間にすっぽりと収まっていて、リヤタイヤとのアンバランスさに、驚かずにはいられなかったのでしょう。

Tyrrell P34
D・ガードナーによるラフスケッチ

ティレル(タイレル)のデザイナーだったガードナーは、F1の最大の問題の1つは空気抵抗だと考えていました。タイヤがすべて露出しているフォーミュラーカーは、他のレーシングカーより空気抵抗の占める割合が多いのです。日本のマキエンジニアリングの小野氏ともフロントタイヤ周りの空気抵抗について話し合ったことがあるそうです。

Tyrrell P34

フロンと周りの空気抵抗を小さくするために考え出されたのがフロント4輪でした。フロントタイヤをボデーとスポーツカーノーズの中に収めると、空気抵抗は飛躍的に小さく出来ます。ただ収めただけでは、ブレーキ性能やコーナリング性能は悪化してしまいます。そこで、小径のタイヤにして4輪にしてしまったのです。4輪にすることで、タイヤの接地面積を増やし、トレッドが小さくなったことで悪化するブレーキ性能、コーナリング性能を補うだけでなく向上させようと考えました。

前4輪の車は、トラック等で実用化されていますから、レイアウトは比較的順調に進んだと思いますが、旋回中心の設定、ブレーキバランス等、複雑な設定に対する苦労があったことは想像は容易いでしょう。

Tyrrell P34
アップライト一体式のブレーキキャリパー

この車の型式がP34で、プロジェクトを意味し、前のマシンが007、後のマシンが008であることを考えると、このマシンがいかに特殊で、ガードナー自身の悩みもあったのでしょう。

フロントタイヤは10インチの専用タイヤで、グッドイヤーが開発しました。

P34は、デビューしたこの年、大成功を収めたといっていいのではないでしょうか。デビュー戦にあたるスペインGPで、いきなり予選3位に入り、このマシンが冗談やアイデアだけのものではないことを証明しました。つずくベルギーGPではシェクターが本戦5位、次のモナコGPでは本戦で2位、3位、スウェーデンGPではワン・ツー・フィニッシュで優勝しました。これは、デビューしてから4戦目の出来事です。まだ、経験の薄い2人のドライバー、J・シェクター、P・デパイエをシリーズ3位、4位に導きました。

目論見と違ったのは、空力特性よりもブレーキ性能の向上が大きかったことでしょう。P34は急激な減速を必要とされるモナコGPやスウェーデンGPを得意としました。

2年目にあたる1997年は、ティレル(タイレル)・チームにとって苦悩の年となってしまいました。P34のフロントタイヤを開発しているグッドイヤーがP34用のタイヤの開発を縮小したのです。グッドイヤーはすべてのチームにタイヤを供給していました。そのため、ティレル(タイレル)チームだけのためのタイヤに開発を集中することはできないのです。ティレル(タイレル)であっても、数あるF1チームの1つにすぎないのです。その結果、P34は、フロントのバランスを崩してしまいました。フロントのワイドトレッド化等いろいろ試しましたが、効果的な結論を導くことのないままシーズンを終えてしまいました。P・デパイエがシリーズ8位、R・ピーターソンが14位と不本意な結果でした。

Tyrrell P34
-* Tyrrell P34 *-
(77年モデル)


Ferrari
March
Williams
上から、マーチ、フェラーリ、ウイリアムズの6輪F1。

D・ガードナーの設計したこのマシンは、F1の世界にさまざまな影響を与えました。写真が在るだけでも、フェラーリ、マーチ、ウイリアムズ等がさまざまな形で6輪を試みています。マーチとウイリアムズは後輪2軸の4輪、フェラーリは後輪1軸の4輪を試みました。

6
-* 元祖6輪車:パット・クランシーSpl. *-
(1948、インディカー)


 P34(プロジェクト34発表時データ)
全体レイアウト3車軸方式6輪(前2軸タンデム4輪)
ホイールベース2453mm(前側車軸まで)1993mm(後側車軸まで)
トレッド(フロント)1161mm
トレッド(リヤ)1499mm
全長4318mm
全高1203mm
ホイール(フロント)リム幅9インチx10インチ径
ホイール(リヤ)リム幅17〜20インチx13インチ径
エンジンフォード・コスワースDFV製
 エンジン型式90°V型8気筒
 バルブ型式DOHC 4バルブ
 総排気量2993cc
 ボアxストローク85.6x64.8mm
 圧縮比11.0
 出力490PS
 燃料供給装置ルーカス間接噴射
 点火装置ルーカス
ギヤボックスヒューランドFG400
ブレーキAPレーシング(ロッキード)共同開発、分割油圧方式、全6輪作動
 フロントディスク径203mm
 リヤディスク径265mmベンチレーション式