懐かしのレーシングカー:My Dear Old Racing Cars

ホンダ RA302

HONDA RA302

*本田宗一郎が夢見たマシン:RA302*

HONDA RA302(J・シュレッサー in ’68フランスGP)
-* HONDA RA302 *-
(J・シュレッサー in ’68フランスGP)


 1968年、東京で、1台のF1が発表されました。それが、ホンダRA302です。それまでのホンダF1は、重量オーバーに悩まされ続けました。軽量化されたRA301でさえ、ロータスやフェラーリに比べて、40〜50kgも重かったそうです。RA300では110kgオーバー、RA273においては、240kgもオーバーしていました。ところが、RA302は重量制限いっぱいの500kgに抑えられていました。

 その決め手になったのは、ラジエターを無くしたことでした。そのエンジンは、空冷120度V8でした。空冷エンジンといえばポルシェが有名ですが、ポルシェは空冷ファンを持った強制空冷です。RA302は空冷ファンさえも持たない、自然通風式という徹底した軽量化がされていました。出力は430PS以上と、水冷エンジンと同等のパワーを絞り出していました。

 その発想は、『本来エンジンは、水冷であれ空冷であれ、最終的には熱エネルギーを空気中に放出するのだから、途中の水・ラジエターなどは必要ない。現にオートバイは、リッター当たり200馬力を自然通風空冷で成し得ている。』、というものでした。『ドイツのロンメル将軍は、第二次大戦で、アフリカ砂漠でイギリス軍と戦い、リビア戦に勝った。理由は簡単だ。砂漠には水がない。そこでロンメルは、空冷エンジンのVWを、軍用車として採用したからだ。最高の車は、空冷でなくてはならない。』という、本田宗一郎の持論が作らせた、かれの夢のエンジンだったのです。

 また、RA302はシャーシもホンダ製でした。それまでの3リッターF1、RA300,RA301とも制作をしたのは完全にホンダですが、設計に関しては、必ずしもホンダ製とは言えませんでした。RA300のパーツの中には、ローラのパーツをベースにしたものが多くあり、また、設計陣にはトニー・サウスゲート等の名前も見られます。RA301にはデリック・ホワイトという元クーパーの主任設計師を招き、設計に協力してもらってます。RA302のフルモノコックはエンジン部まで伸び、エンジンを吊り下げるタイプでした。フロントカウルに収まるのはオイルクーラーのみで、すっきりとしており、フロントカウルからコクピットにかけ、なだらかな美しい曲線を描いていました。コクピット両サイドには、フレッシュエアをエンジンに導く、エアダクトが装着されていました。あたかも、エアインジェクションスクープのように。ただ、エンジンを冷却するにはあまりにも小さすぎたようです。すぐにオーバーヒートしてしまい、数周走るのがやっとというありさまだったようです。

 そして、事件はフランスGPで起きました。現場の人間は、走らせる気はなかったのですが、現場の知らぬ間にホンダ・フランスがエントリーしてしまったのです。レース3ラップ目、ジョー・シュレッサーの運転するRA302は、ゆるい降りのSベントでコントロールを失い、土手に乗り上げ横転し炎上、ジョー・シュレッサーは帰らぬ人となってしまったのです。

 その後、1度だけ、ジョン・サーティーズのドライブで、イタリアGP(モンツァサーキット)の予選を走りました。しかし、タイムはトップ(ジョン・サーティーズ:RA301)より6秒も遅いものでした。

 本田宗一郎の夢見たマシンは、ほんとの夢のマシンで終わってしまったのです。この年、ホンダは一勝もすることもなくF1を去りました。勝負の世界に、・・たら、・・れば、はない、といいますがRA302が作られていなかったら、RA301の成熟に専念していれば、きっと違った結果になっていたでしょう。

 RA301のエンジンは重すぎました。コンロッドとクランクシャフトを繋ぐ部分がローラーベアリングをつかった組み立て式であったためです。しかし、RA301には新エンジンを積む計画がありました。設計にもとりかっかてたようで、基本設計はほぼ終わり、詳細設計に取り掛かってたそうです。オール転がり軸受け、組み立てクランクをやめ、一体クランクの新V12です。それも、RA302の開発のため中止になったそうです。RA302をエンジン、シャシーとも開発する気力があれば、もしかしたら新エンジン1年目でのGP優勝もあったのでは?と思っています。

HONDA RA302(J・サーチィーズ in ’68イタリアGP)
-* HONDA RA302 *-
(J・サーチィーズ in ’68イタリアGP)


エンジン型式120°V型8気筒ホイールベース2360mm
内径x行程88x61.4mmトレッド(フロント)1500mm
総排気量2987.5ccトレッド(リア)1415mm
点火方式ホンダ式トランジスタ点火全長3780mm
圧縮比11.5全高816mm(ウイング含まず)
潤滑方式ドライサンプ全幅1796mm
クラッチ型式乾式多板最低地上高85mm
バルブ型式DOHC 4バルブボデー型式モノコック構造
燃料供給装置ホンダ式低圧吸入管定時噴射式タイヤ(前)9.00−15(ファイアストン)
燃料ポンプ電動式タイヤ(後)14.00−15(ファイアストン)
冷却方式空冷燃料タンク200L
変速機常時噛合前進5段後進1段ブレーキ方式ディスクブレーキ(ガーリング)
最高出力430PS以上懸架方式ダブルウィッシュボーン
最高速度360km/h以上車輌重量500kg
エンジン重量(乾燥)171kg