男の沽券を支える女

  前回書いた、「男の沽券」の妻の話である。

彼女と私の母が、私のドイツ在住時代に旅行に来たことがある。私もそのとき一時帰国していたので、一緒に旅行することになった。そのときのお話である。





成田にて

チェックインも終えて、さて二階でお茶でも飲もう、とエスカレータで上がっていると…

「うぉ〜っ!」
謎の声。
ふと振り返ると、すぐ後ろにいたはずの沽券妻が、はるか下のほうで転がっていた。それも、荷物ごと。





フランクフルト・アム・マイン空港にて

さて、捻挫もせず、無事に飛行機に乗り、フランクフルトに到着。さっそく入国審査を受ける。誰もいなかったので、みなそれぞれ別の窓口にパスポートを差し出した。
すると隣で

「ハロ、ハローッ?」
係員のおじさんの慌てた声。
(ちなみにドイツ語で「Hallo」は挨拶ではなくて「もしもし」という呼びかけである)
見ると、彼女が窓口から離れて、戻っていくではないか!

入国しないで、どうするつもりだったんだ?





ローテンブルクにて

ローテンブルクで楽しく観光。我が家のビデオカメラを持参していたので、「取ってあげるよ!」と彼女。いろんな名所でポーズを取り、録画してもらった。ところが…

帰宅して再生してみると、肝心な、ポーズをとったりしたはずのところが何一つ取れていない。取れているのはなぜか地面と人の足。

そう、彼女は「ON/OFF」ボタンを間違えていたのである。ONにしたつもりのときは、OFF。OFFのつもりのときは、しっかり録画。映っていた足は、彼女の足だったのだった。
おかげで声も彼女のものばかりが音が大きい。そんな彼女、ビデオの中で散々人の悪口を言ってから、
「まったく、クソの役にも立ちゃしない!」
そりゃアンタだよ!






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