いよいよ披露宴のハイライト「両親への花束贈呈」である!
実はここで、彼には内緒だったが、新婦からの「手紙の朗読」があるのだ!
両親が後ろのステージに上がる。さあ、どうか?!
新婦の感動的な手紙が読まれる。内容は「お父さん、お母さんの娘で本当によかった」というようなことであるが、非常に感動を誘う表現がされている。
彼の顔が神妙になる。やがて、崩れる、と思いきや、顔が固まる。固まる。固まる。
表情のなくなった顔で、目だけが涙を湛えはじめる。瞬きでこらえる。鼻をすする。こらえる。こらえる。
…しかし、ここまでだった。
その後の「花束贈呈」でも、大泣きする母親を尻目に、彼は平静に戻っていた。
結局、「特捜班」は、彼が涙を流す場面を捉えることができなかったのである。
しかし、我々は彼が心で涙を滂沱と流しているのを、たしかに見た。
それは「男の沽券」の勝利だったかもしれない。でも、非常に美しい勝利だった。
「男の沽券」を座右の銘にし続けるためには、かくも意志が強くなければならない、
これぞ、男だ!……この中年男の姿に、そんなことを改めて学んだわたしであった。
Back