So,Happy Happy Birthday Another Vr.
 幸せの鐘の音




(だって、あなたは自分の誕生日を祝うなと言うし、僕は貴男の誕生日を祝いたいし。だから、貴男には今日は『誕生日以外の記念日』ということにしてもらおうと、決めたんですよ)


「と、いう事で〜。悟浄、受け取って下さいね」
 はい、とばかりに大きさの割に厚さの少ない箱を、八戒は悟浄の両手に乗せた。
 この箱の形は、悟浄も見た事がある。スーツなどを入れておく箱だ。
 悟浄は嫌な予感に眉間に皺を寄せながらも、そっと箱の中を覗い見た。そして・・・。
「・・・・・・・・・・」
パタン。
 再び蓋を閉めたときには、眉間の皺は更に深くなり、こめかみには青筋まで浮いていた。
「結構、苦労したんですよ。気に入ってくれましたか?」
「はっかいぃぃぃいぃぃ!!」
 にこやかに問い掛ける八戒の言葉の後を、地を這うような悟浄の唸り声が追う。
「はい?」
「こりゃぁ、な・ん・の・つもりだ!あぁ?!」
「プレゼントですよ♪」
 怒り心頭の悟浄に対し、いかにも楽しそうな顔の八戒。
 実はこの男、人の神経を逆撫でる天才じゃなかろうか。いや、絶対そうに違いない。
 悟浄は己を落ち着かせるために、深く息を吐き出した。
「で?なんでコレが、そのプレゼントな訳?」
 未だ悟浄の手に乗ったままの箱の中には、純白のレースをこれでもかと言う程にふんだんにあしらった『ウェディングドレス』。
 今、自分が見たものは幻だったと無理矢理思い込もうとしたが、目の前の八戒の笑顔がそうさせてくれない。
「なぁ、何かの手違いだよな?」
 最後の希望を込めて、八戒に上目遣いで訊ねるが、
「いいえ?」
 あっさりと打ち砕かれる。
「先日、街に買い出しに行ったときに飾られているのを見ましてね。悟浄に似合いそうだな〜と、思ったんですけど」
 言いながら、八戒の手が再び箱の蓋を開ける。
「それはさすがに女性用でして。でも、どうしても諦めきれなくて」
(諦めてくれ!)
 悟浄は心の底から、切実に思った。が、八戒には通じなかったらしい。
「お店で聞いてみたら、快く布を分けて下さったので、見よう見真似で作ってみたんですよ。悟浄にぴったり合うように、パターンから作り直して」
オマエが縫ったんかい!
 心の突っ込みは、恐ろしくて口にまでは上がって来ない。
 ひらり、と八戒の手によって広げられたドレスは、ラインも美しい上品な仕上がりで、とても素人が作ったようには見えない。
 確かに、『ドレスとしては』最高の出来であろう。
 だが、これを自分が着るとなると話は別だ。
「まさかお前、『これを着て嫁に来い』とか言うつもりじゃねぇよな?」
 恐る恐るという感じで問うた悟浄に、八戒は満面の笑みを向ける。
「それも良いですね」
(裏目った・・・)
 後悔は先に出来ないから後悔と言うのだと、誰の言葉だったろうか・・・。
 悟浄は眩暈を堪えながら手近な椅子を引き寄せた。
「男同士で結婚もナニもねぇだろぉ・・・」
「意外と常識派なんですね」
 力無く呟けば、驚きの表情と共に返される。
「あ〜の〜な〜〜〜」
「冗談ですよ」
 忍び笑いを零しながら、八戒は悟浄の頭に手を乗せる。
「本当はね、貴方が自分の誕生日を嫌っていることくらい分かってはいるんです。でも、貴方が生まれなければ、僕もこうしてここには居なかったでしょうから・・・」
 感謝の意を込めて祝いたかったのだと。
 優しく撫でられる感触が心の棘を溶かしていく様で、悟浄は大人しく目を閉じる。
 あそこまで意固地になっていた自分が、滑稽に思えてきた。
 本当にこの男は、人を言いくるめるのが上手いのだ。
「このドレスも、ちょっとした悪戯心と言うか・・・これくらいインパクトがあった方が、面白いでしょ?」
「お前ねぇ〜」
「でも、作るのは、本当に苦労したんですよ?」
「はいはい」
 茶化すような八戒の言葉に、悟浄は苦笑を漏らしながらも顔を上げた。
「まったく・・・お前にゃ敵わねぇなぁ」
 当然でしょ?という顔をした八戒に、伸び上がって触れるだけの口付けを一つ。
 まだ、素直に自分の誕生日を祝う事は出来ないが、ここまで考えてくれたお前に免じて。
「ま、何の祝いだかは置いといて、とりあえず飲もうぜ」
 悟浄はグラスを目の前に掲げた。
 グラスの触れ合う音色を、祝福の鐘代わりに。
 今夜はこの訳の解からない『記念日』を祝おう。


「大体ねぇ、結婚なんて約束事、既成事実の一つも作れば済し崩しにイケるでしょ」
「おまえって、結構ぉサイテーな・・・」
「誉められついでに、後であのドレス、着て見せて下さいね。折角の僕の力作なんですから。勿論、脱がすのも楽しみにしてるんですけど」
「ホンット、さいてぇ・・・」
 酔っ払いの口論は、まだまだ続く・・・。



悟浄の誕生日限定小説の、異種版です。
あちらは贈り物が指輪だったので、直接的にウェディングドレスだったら・・・ということで書いてみたのですが(^^;)
まぁ、深くは突っ込まないで下さい。ちょっとしたお遊びという事で流して下さると嬉しい・・・かな?




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