―パジャマのままで貴男と モーニングコーヒー飲みたい
      パジャマのままで貴男と おはようKISSをしてみたい―




「綺麗な赤ですね、悟浄」
「・・・おう」


 死んだと思っていた男が、生きていた。
 死にたがっていた悟能は、新しい名前と共にもう消えた。
 こいつはもう、生きることを決めてきた。
 だからこそ、俺の前に立っている・・・らしい。


「で、八戒、ね」
「えぇ。しかし『八つの戒め』ってなんでしょうかね〜。今までの行動で戒められるとしても、3つ位しか思い付きませんけどね、僕」
「・・・お前、名前と一緒に性格まで変わったのか?」
「やだなぁ、元からこうですよ」
 くだらない話を交えながら、市場を抜ける。
 所々で立ち止まり、悟浄はいくつかの食料を買い込んでいく。
 八戒はその横で、やはり品定めをしながら近況を軽く告げる。
 古い友人同士が久振りに会って、これから呑むためにつまみを物色している。そんな表現がしっくりとくる二人の様子に、市場の女主人の目が暖かい。
 しかし、それが4件目になったとき、さすがに八戒が気がついた。
「悟浄・・・見たところ、肴の類しかありませんけど、食事はどうするんですか?」
 この時、悟浄の手には最初の店で買ったりんごの他に、チーズ・サラミ・ソーセージ・薫製肉・ナッツにさきいか・・・・といった、宴会御用達のつまみしかなかったのである。
「え?何か喰うのか?つっても、俺んち、酒と肴以外は殆どないぞ?」」
 心底不思議そうな声を出した悟浄に、八戒が脱力する。
「あなた、今までどういう食生活をしてきたんですか」
「ん〜、仕事のついでに女が喰わしてくれてた」
「わかりました。今日は僕が作りますから」
「え、いいのか?じゃ、俺唐揚げな」
「悟浄・・・それもつまみですって」
 酒飲みに付ける薬なし。
 結局八戒は大きな紙袋二つ分の食材を持って、悟浄の家へと向かうのだった。


「っと、こんなもんですかね」
 ダイニングテーブルに並べられた料理の数々。
「すげぇ・・・」
 二人が家に着いてから小一時間。その間に八戒はテーブルに乗せきれないほどの料理を作ってしまった。勿論、唐揚げも忘れない。
「しかも美味いときたもんだ」
 唐揚げを一つ、口にしながら悟浄は感心の声を上げる。
「料理が趣味ですからね。でも、悟浄だって上手だったじゃありませんか」
 八戒が初めてこの家に来たとき、悟浄は意外なほどこまめに世話をしてくれた。
 勿論食事の方も、怪我をしている八戒を気遣ってかあっさりとしたものを自ら用意してくれたのだった。
 一人暮らしの長い悟浄は、一通りの家事をこなすことが出来る。特に料理はプロには及ばないものの、店を開けるくらいの腕を持っていた。
「いや、最近やってねぇから腕が落ちてるかもしれねぇ」
 基本的に面倒くさがりなんだ、と続けた悟浄の言葉に、なるほど、と八戒は納得をした。
 先程使わせて貰った台所は、男の一人暮らしと言うには器具も、調味料も揃いすぎていた。
 しかしここ最近、それらを使用した形跡がなかった。
 台所にあったのは、大量の空いた酒瓶・・・
 それがこの数日――自分がこの家を去ってから――の彼の心理を表しているようで、八戒は言及することを止める。お互い、自分の心を他人に見せることはしたくない。
 一度見せてしまったら、もう二度と相手を離すことは出来ない。きっと、離れるくらいなら、相手を殺してしまう。そんな暗い激情が、自分の中を染めている。多分、彼も・・・
「じゃぁ、これからは僕が作ってあげますよ」
 言葉もなく目を見開いて自分の顔をみつめる悟浄に、何でもないことのように告げる。
「僕、これから何処に住もうか悩んでいたところだったんですよ。食事は僕が作るということで、手を打ちませんか」
 住む場所を探していたのは、本当。だけどここに来るまでは、誰かと暮らす事なんて考えていなかった。
 会ってしまったら、何だか離れたくなくなった。それだけのこと。
 先のことは判らない。だから言ってしまおう。
 『一緒に暮らしましょう』と。
「・・・OK」
 ニヤリと笑って右手を差し出す。
「んじゃ、歓迎会といきますか」
 その手を握り返す。
「僕の作った料理で?」
「それもアリだろ」
 笑って、笑いあって。
 今夜は一晩呑み明かそう。
 明日起きたら、三蔵に顔を見せに行こう。
 あれだけ世話になったんだから、所在証明くらいはしておいた方が良いだろう。
 何だか長い付き合いになる予感がする。
 『八戒』の人生は始まったばかりだ。
 最初に出会った人たちがこれじゃ、これから退屈だけは出来そうにない。
「じゃ、始めますか」
「言っておきますが、僕は強いですよ」
「よ〜し!勝負すっか」
 ・・・今夜は眠れそうにない。


―――翌朝 
「悟浄、ここのゴミ捨てってどうなってます?」
「・・・知らねぇ」
「はい?」
「いや、今まで出入りしてた女共が勝手にやってくれてたから」
「・・・・・・・その方達とは当然切れて下さいますよね」
 青筋たてながらにっこり笑った八戒の顔に、悟浄はほんの少し後悔を覚えたことは死ぬまで秘密である。





タイトル(?)は某アニソンから。懐かしいと思った人は同類ですね(笑)
その後二人はタイトル通りの生活をする予定・・・だったのにそこまで書けなかった(T-T)
ちなみにベッドは一つ
(爆)



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