● ごじょうと豆の木 ●



 あるところに悟浄という名前の男の子がいました。
「オトコノコって歳かよ。しっかし、まだこのシリーズやるのね」
 ・・・それなりに好評なんで、管理人も止められないそうですよ。
「どっかの芸人みたいだねぇ。ま、今回は少なくとも女装じゃないから我慢すっか」
 そうですね。素直なのが一番ですよ。では、気を取り直して。
 悟浄はお母さんと二人で暮らしていました。その暮らしは決して楽なものではありませんでしたが、悟浄はお母さんを大切に思っていました。
「悟浄・・・」
「あ、お母・・・・・・ぶっ!」
 悟浄さん、思いっきり吹き出さないで下さいよ。
「だって・・・さんちゃんが・・・・・・」
「黙りやがれ」
 お母さん、もとい三蔵様がお怒りですよ?それにしても三蔵様、意外と似合っているじゃないですか、その衣装。
「貴様も死ぬか?」
 いえ、遠慮しておきます。身の危険に陥る前にとりあえず話を進めましょう。
 悟浄の家には1頭の牝牛がいました。悟浄はこの牝牛の牛乳を売って暮らしていたのですが、ある日牝牛は乳を出さなくなってしまいます。悟浄の家に乳を出さない牛を飼えるほどの余裕は、残念ながらありません。悟浄はお母さんの命令で、泣く泣く牝牛を売りに行くのでした。
「なんつ〜か」
 はい?
「切実なお話ね」
 そうですねぇ。でもこの時代は皆そんなものですよ。あ、市場が見えてきましたね。
 悟浄は市場の中を、牛を引いて歩きます。しかし牝牛は年老いていて、買い手が誰もありません。お肉屋さんも難色を示す始末です。
 日も暮れようかとしてきた頃、途方に暮れた悟浄に声を掛ける者がありました。
「ちょっとそこの坊ちゃん」
「ん?」
 振り向けばそこにいたのは、ドジョウ髭のおじいさんでした。
「しっ失礼な!私はこう見えてもまだ若い・・・」
 はいはい。お話の進行の邪魔になるんで、さっさと進めて下さいね二郎神様。
「う・・・あとで覚えておれよ・・・・・・少年よ」
「結構立ち直りの早いおっさんね。はいはい、なんでしょ?」
「その牛と、この豆を交換しないかい?」
 おじいさんが差し出したのは、数粒の豆が入った皮袋でした。
「・・・誰がこんなのと取り替えるかよ。相場考えろって、おっさん」
 尤もな意見ですが、そこで引き下がったらこのお話が成立しません。さ、二郎神様・・・GO!
「お前も神を何だと思っているんだ・・・まぁ、よい。この豆はただの豆じゃない。地面に植えればたちまち天に届くが如く成長し、その実は普通の豆なんかと比べ物にならない代物だ」
 暗記していた台詞を立て板に水というカンジで捲くし立てます。
「そこまで言われると、すっげ怪しいんですけど・・・」
 しかし悟浄はこれ以上牝牛の買取先を探すのも面倒で、この豆を手に入れて家路へと急ぎました。


 さて、家に帰るとお母さんが扉の前で待ち構えていました。
「悟浄、牛は売れたのか?」
 意気揚々と帰ってきた悟浄に、お母さんも心なしか嬉しそうです。
「あぁ。これ」
 悟浄はポケットから小さな皮袋を取り出して、お母さんに渡しました。
 それを受け取ったお母さんは、思いの外軽いことに不思議な顔をしましたが、中を開けた途端今度は怒りで真っ赤な顔になってしまいました。
「おい!何だこれは!」
「へ?豆だよ、豆」
「俺は牛を売って来いと言ったんだぞ!金貨ならともかく、こんな豆が数粒あったところでこれからどう暮らせって言うんだ!」
「いや、話を聞けって。その豆はただの豆じゃねぇんだぞ」
 必死に悟浄は豆の素晴らしさを伝えようと口を開きますが、お母さんは全く聞いてくれません。しまいにはお母さんは豆を投げ捨ててしまいました。
「バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだったとはな!明日っから食うもんもねぇんだ。さっさと寝るぞ!」
 そうして悟浄とお母さんは、空腹を耐えるためにそのまま寝てしまいました。
 そして翌日。悟浄が目を覚ますと、家の中が真っ暗でした。はじめはまだ夜なのかとも思ったのですが、耳を澄ますと小鳥の声が聞こえてきます。不思議に思って窓を開けるとそこには・・・
「げ・・・」
 天に届くほどに成長した、豆の木が生えていたのでした。
「・・・なんつ〜か、この景色はふぁんたじぃね・・・」
 呆れてないで下さいよ。元々このお話自体、ファンタジーですって。
「あぁ、そうね」
 とりあえず悟浄は外に出て、豆の木を観察することに決めました。
 近くで見上げてみると、豆の木の先は雲の中へと消えていて、本当に天に届いていそうです。そう思うと、なんだか確かめてみたくなるのが人情という物でしょう。
「そっか?」
 そうなんです!悟浄はさっそく豆の木を登り始めました。
「うぅ・・・嫌な予感がするよぅ・・・」
 泣き言を言っても、もう遅いです♪さて、疲れるほどに登り尽くすとようやく雲の上に出ました。
 辺りを見回せば、何故か立派な家があります。ふらふらとつられるように近付くと、それはそれは大きな家でした。
「この大きさは、きっと巨人の家に違いない」
 ・・・棒読みでセリフ言うの止めてください。さて、悟浄はどうしたものかとその家を眺めていると、勝手口らしい扉から、女の人が出てきました。幸いにして普通の人間と変わらないようです。悟浄は思い切って声を掛けてみることにしました。
「お〜い」
「あ、悟浄さん」
「誰かと思ったら八百鼡ちゃんか。珍しいじゃん、ココに出てくるの」
「そうなんですよねぇ」
 和やかに談笑している場合じゃないでしょう、お二人さん。
「あぁ、そうでした!スミマセン、悟浄さんっ!私急いでますので行きますけど・・・頑張って下さいね。この城に住む巨人が大切にしている金のガチョウは、この扉から真っ直ぐ行った最後の扉の奥にいますから」
 八百鼡は上目遣いにもう一度、頑張って下さいねといって立ち去ってしまいました。
「・・・なんだろうなぁ。ま、教えてもらったからには行かないとなんだろ?」
 そうでしょうね。とりあえず巨人に会わないように気を付けて、奥の部屋まで行きましょう。
 悟浄は注意深く、勝手口の扉を開けました。


 さて、時間もないので展開も早いです(笑)。悟浄は無事に最後の扉の前まで来ました。
「・・・俺、無茶苦茶イヤな予感がするんだけど・・・ここで引き返してもいい?」
 そんな訳にはいきませんって。さ、開けて下さい。
「うぅ・・・イヤだなぁ」
 悟浄がその扉を開けると、眩いほどの黄金の羽根を持ったガチョウが・・・・・・
「八戒!!」
 ガチョウがいました。
「あはははは・・・」
「ガチョウじゃねぇだろ、ガチョウじゃ。ってか、なんでお前がここにいるんだよ」
 悟浄は頭を抱えます。しかし八戒さんは真面目な顔で応えました。
「悟浄・・・実は僕、ガチョウなんです」
「マテ!!」
 焦る悟浄を余所に、八戒はゆっくりと立ち上がりました。
「嘘じゃないんです。正確にはガチョウの役なんですけど・・・話の展開上、悟浄に攫われなくてはならないんです」
 言うが早いか、八戒は徐に悟浄を横抱きにすると、走り始めました。
「違う!これじゃ攫われてんの、お前じゃなくてオレっ!!」
「あはは、不用意に喋ると舌を噛みますよ〜」
 少年を小脇に抱えて走るガチョウ。まるで猟奇かギャグか判別の付き難いところですが、所詮このシリーズのことなので深くは考えない方がいいでしょう。
「いぃぃいぃやぁぁぁぁぁあああああぁ!!!!」
 悟浄の絶叫があたりに響きます。
「なんだっ!」
 その声に驚いた巨人が飛び出てきました。
「あっ、兄貴!!」
「悟浄?!」
 巨人はガチョウが攫われていることに気が付くと、慌てて悟浄を追い駆けます。
「アニキ〜〜っ!たすけてぇぇぇええぇ!!」
「悟浄〜〜っ!!」
「あはは・・・イヤですねぇ、僕が人攫いみたいに」
 傍目から見るとそれ以外の何者でもないのですが、本筋とは関係がないので放っておきましょう。
 八戒は全力で巨人から逃げ、豆の木をするすると降りました。
 巨人はなおも追ってきます。
「アニキぃぃぃぃ!」
「悟浄・・・それ以上いらない口を開いていると、後が酷いですよ♪」
 あっという間に地上に降り立った八戒は、まだ豆の木の中ほどにしがみついている巨人を見上げました。
「独角さん。貴方に恨みはないんですが・・・これもお話のためだと思って諦めてくださいね」
 そしてにっこりと笑うと、手の中に限界まで溜めた気を、巨人へと向かって放ったのでした。
「あぁああにきぃぃぃぃぃ!!!」
「ご愁傷様です」


 さて、悟浄は無事にお母さんの元に戻ることが出来ました。その手には巨人の家で手に入れた金のガチョウと、何故か様々な宝物がありました。お母さんは悟浄の無事を喜び、そして見せられた宝物に驚きの声をあげました。
「・・・アノ状況で盗んでくるとはな」
「いや、半分以上は八戒が・・・」
「イヤですねぇ、人のせいにしないで下さいよ♪僕はたんなるガチョウなんですから」
「あくまでもガチョウを名乗るか!」
 拳を握る悟浄の声にも、もう元気がありません。
 そんな悟浄を労わるかのように、八戒は悟浄の肩を抱き寄せました。
「三蔵・・・」
「わかった。とりあえず裏の納屋を使え」
「ありがとうございます♪後で改築しても構いませんよね」
「好きにしろ」
「はい」
「ってか、なんの話?!」
 話についていけないまま、悟浄は八戒によって納屋まで運ばれてしまいました。
 そして、枯草の上にそっと降ろされると・・・
「僕を攫った責任をとって、幸せになりましょうね」
 八戒に口付けられたのでした。
「うぅ・・・これって獣姦?それとも鳥姦って言うの?」
 半泣きで遠い目をしている隙に、悟浄はどんどん脱がされてしまいます。
「所詮この話でマトモな方向性を求めても無駄ですよ」
「折角今回は女装も免れたのにぃぃぃ!!」
 こうして悟浄はいつまでも、お母さんと金のガチョウと一緒に幸せに暮らしましたとさ。
「納得できねぇぇ!!」
 どっとはらい。



相変わらずなカンジの童話シリーズ。新作はジャックと豆の木でございます。
今回はちょっと思いつきで始めてしまったので、原作を読み返す暇がなかったのですが・・・ま、確かこんな話じゃなかったかと。
いつもにまして八戒さんが壊れてますが、それも1つの味と思ってお許しくださいませ。
ちなみに八戒さん、ビジュアル的には普通の格好です。間違ってもガチョウの着ぐるみなんて着てません(笑)。




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