<秘密戦隊カミサマン(仮)・第2話『危うしカミサマン!!』>




『見付けたぞ、さん・・・』
ドォォォォォオォン!!!!
 崖上から叫ぶ妖怪の声に重なるように鳴り響く爆音。
 その一瞬後には辺りを砂煙が覆い隠し、一陣の風が吹けば何事も無かったような景色を取り戻す。
 先程と違うところといえば、僅かに立ち上るナニモノかが燃える煙くらいか。
 その様を眺めながら、焔は1つ、溜息を吐く。
 もう何回、この光景を眺めたことか。
 こいつらと・・・否、この男と行動を共にするようになってから。


「じゃ、帰りましょうか」
 にっこりと笑って振り向くのは猪八戒・・・もとい『カミサマンブラック』の名を持つ男。
 ただし姿はいつもと変わりない。
 三蔵一行を仲間に迎えることに成功したカミサマンは、今や7人の大所帯となっていた。
 全員の腕には何処で手に入れてきたのか判らない謎の変身バンドが嵌められているが、それが機能を果たしたことはまだ一度もない。
(それどころか・・・)
 焔は悲しげに己の腕に目をやる。
 変身するどころか、彼らはまだ一度たりとて正義の名乗りをあげたことがない。
 そう。あろうことか、彼らが『秘密戦隊カミサマン』だということを知るものは、本人以外誰もいないのだ。
 一度や二度なら間違いだと諦めもつく。
 彼らも非力な妖怪の身(約一名人間がいるが)ながら、死線ともいえる戦いの中に身を投じてきたのだから。
 だが、ここまで度重なると最早態とだとしか思えない。
 焔は震える拳を握り締め、今日こそはと意を決し八戒の前へと進み出た。
「天蓬・・・いや、カミサマンブラック!」
「・・・・・・八戒、と呼んでもらえませんか?」
 凄みのある笑顔で返されて、流石の焔も一瞬怯む。
 だがここで引き下がってはいけない。頑張れ焔、負けるな焔!そう言い聞かせたわけでもないが、焔は気を取り直して再び口を開く。
「何故お前は、いきなり敵を吹き飛ばしてしまうのだ・・・」
 良い子の皆にも判り易いように説明しよう。
 正義の味方の常識として、3つのことが上げられる。
 そのいち、変身中に攻撃してはいけない。
 そのに、名乗っている最中に攻撃してはいけない。
 そのさん、技名を叫んでいる最中に・・・(以下同文)
 しかし八戒はそのどれをもすっ飛ばし、敵の姿を見ると同時に消し炭になるまで気で吹き飛ばしてしまうのだ。しかも、一人も残すことなく。
 これでは自分たちがカミサマンだということを世に知らしめることも出来ない。
 折角・・・折角徹夜で変身ポーズも考えたというのに・・・!!
 焔の心の叫びを感じ取ってか、後ろに控えた紫鴛と是音がそっと涙を拭う。
 しかしその彼らも、心の隅の方では八戒のおかげで恥ずかしい思いをしないで済むことに、密かに安堵していたのだが。
 そんな彼らの心を知ってか知らずか、八戒はほんの少しだけ申し訳なさそうな顔を作る。
「すみません。つい、癖で・・・」
(癖で敵を消し炭にするのかお前は)
 八戒のことを良く知る悟浄などは心の中で突っ込みつつも、余計なことを口にすれば後の報復が怖いので黙って立っている。
 そんな彼らを横目で確認し、八戒はまた焔へと例の顔で向き直った。
「僕だって、カミサマンだと名乗りたくないわけではないんです」
(嘘を吐け!)
 またもや3人の心の声がハミングする。
「ただ、条件反射のように体が動いてしまうんです・・・」
 しおらしく顔を伏せ、眉を寄せる八戒の姿は本気で後悔してるように見える。
 世間知らずな焔が騙されるのも無理はないだろう。
「そうか、お前も辛かったのだな・・・」
 などと言いながら、焔は八戒の両肩を叩く。
 ほんの少しだけ心配していたのだが、八戒がここまで本気で正義の味方になってくれようとしているとは、焔にとっては喜ばしいことだった。
 何しろこの話を持ち出した時、嫌そうな顔をする3人を説き伏せてくれたのも八戒だったのだから。
 何故かは判らないが、他の3人は八戒の言葉に逆らえないようなのだ。だからこそ、八戒がやる気になってくれるのなら怖いものはない。
 心強い味方を得たことに、焔は心躍る思いだったのだ。
「えぇ。僕も・・・是非あのスーツを身に纏った悟浄の姿を見てみたかったんです・・・!」
 思い・・・だった・・・。
「て・・・天蓬?」
「おりしも悟浄に与えられたのは、少年の夢と憧れのピンク!ピンクといえば戦隊物における、一輪の華!!そして当然の如く衣装はミニスカートっ!!」
 熱く拳を握る八戒の姿に、その場にいた誰もが凍る。
「生足を曝しつつ、敵にやられてはチラリズムを提供し、果てはちょっぴりエッチな必殺技まで完備した究極の理想像!悟浄のそんな姿を見るためなら、僕は悪魔にも魂を売り渡すでしょう!!」
「いや、俺たちは正義の味方であって・・・」
 焔が小さく突っ込みをいれるが、八戒はまったく聞いていない。
 聞いていないどころか話は益々エスカレートしていく。
「悟浄の色香に迷わされる敵に容赦は出来ません。でも、悟浄はちょっぴりお間抜けさんなので、時には敵の罠に掛かってピンチに陥ることでしょう。そんな時に彼を救い出せるのは、僕だけです。というか、誰に譲る気もありませんけどね」
 さり気に酷いことを言われていようが、当の悟浄はこの話を聞く気も失せている。偶に八戒の妄想に付き合わされている三蔵・悟空も然り。
 しかし免疫のない焔達は次第に青褪めていった。
 身内に変態のいるこの恐怖。
 正義の味方のつもりが、性犯罪者一歩手前な妖怪を味方にしてしまったのだ。
「それに・・・」
 まだあるのか、と誰もが思った。
「あんな恥ずかしい全身タイツな衣装なんて、僕は死んでもゴメンですけどね♪」
 実に爽やかな五月の風が吹く。
 いや、それも錯覚だ。
「う・・・っ」
 焔の喉が鳴る。
(天蓬だ)
 どこをどう間違おうとも、この男は天蓬以外のナニモノでもない。
 笑顔で他人の心を踏み躙る、悪魔のような天界軍最強の軍師。
「お・・・お前らなんてっ」
「焔?」
 珍しく声を荒げる焔に驚いたのは、紫鴛と是音の方だった。
「お前らなんて、だいっ嫌いだ〜〜〜っっ!!!」
「焔っ!!」
 徐に踵を返して走り出す焔の後を、紫鴛と是音の二人が慌てて追う。
「あらあら、泣いちゃいましたねぇ」
 それを実に楽しそうに見送る八戒。
 その顔は優しそうに微笑んではいても、瞳が全てを裏切っていた。
 例えるならば苛めっ子の瞳。
 この目こそ、八戒が『カミサマンブラック』たる由縁だった事を、今更ながらに思い知らされる三蔵一行であった。


 頑張れ焔、負けるな焔!
 3人だけでも立派に戦隊物には出来るぞ!!
 秘密戦隊カミサマン、次なる登場の時には何人なのか。待て次号!!



誰も待っていなかったろう、カミサマン第2話です。
八戒のブラックぶりは如何だったでしょうか?ってか、焔様が憐れだ(涙)
ちなみに次号が本当に書かれる保証は全くありませんので、あしからず(苦笑)



モドル?