<秘密戦隊カミサマン(仮)・第1話『カミサマン結成』>




「よし!ここは一つ、正義の味方らしく戦隊物にしてみよう!」
 突如切り出された言葉に、いくら長年の付き合いとはいえ是音は流石に驚きを隠せなかった。尤も、驚いていたのは是音だけで、その横にいた紫鴛は『またか』と呆れ顔をしたに過ぎなかったのだが。
 何はともあれ、焔が言い出したのならそれに付き合わなければなるまい。それがこの男を主君と選んでしまった者の宿命。・・・なんて、すっぱり割り切れいながらも、ついつい一緒に行動してしまう。存外人の良い是音さんと紫鴛さんなのであった。

「で、戦隊物にするのは良いとして、具体的にはどうするんですか?」
 とりあえず冷静な紫鴛が今後の展開を促す。あまりに無軌道では話にならない。焔にそれなりのビジョンがあるならそれを可能な限り叶え、且つ無駄なく遂行するのが自分達の役目だろう。
 そう思い問い掛けた紫鴛に対し、焔は自信満々にソレを掲げた。
「そう言うと思って、資料を用意した。これを見ろ!」
 ババーン!という擬音がしそうな勢いで取り出されたのはなんと・・・対象年齢6〜7歳と書かれた某有名低年齢向け雑誌であった!
「焔・・・・・・」
「この資料の素晴らしいところは、基地内部の詳細から正義の味方の極意まで事細かに記されているところだ。さあ、お前達も見てくれ」
 見てくれと言われても、正直紫鴛も是音も目を逸らしたかった。自分達の大将は、これを一体どんな顔で買って来たと言うのだろうか。いや、今の状態を見る限り、きっと喜色満面でレジまで行ったに違いない。
 齢500も疾うに過ぎ、外見年齢で言えば二十代半ば。一見美青年とも言えよう大将が、喜び勇んで幼児向け雑誌を購入する・・・。
 その様を想像した二人の脳裏に浮かんだ言葉はただ一つ。
『ちきしょう、可愛いじゃねぇか!』
 ・・・・・・所詮馬鹿の子分も馬鹿であった・・・・・・。
 閑話休題。
 とりあえず大のオトナ3人雁首揃えてその雑誌を覗き込んだ。客観的に見てこれほど可笑しな図もないのだが、残念ながらそれを指摘する者はここにはいない。
「まぁ、秘密基地とやらはこの城で代用するとして・・・」
 紫鴛は先日妖怪から取り上げた城を見渡す。本に描かれている秘密基地とは多少様相が異なるが、神様である自分達に不可能はない。要は気の持ちようだ。
 幸いにして雑務をこなしてくれる準隊員(本当は元是音の部下)もいる。とりあえずの敵は紅孩児一行を含めた吠登城の面々で十分だろう。なんだか大ボスみたいな玉面公主もいるし、もしかしたら例の牛魔王が巨大ロボットさながらに動いてくれるかもしれない。ま、動いてくれずともこちらから動かしてしまえばノープロブレム。
 ・・・と、随分と身勝手な考察を紫鴛は繰り返し、結論を出す。多少身勝手なのは神様のご愛嬌だ。
「で、次に隊員か・・・」
 是音が次のページに目をやる。そこにはぴっちぴちの全身タイツを着けた5人の青年の姿。
 こんな衣装を着なくてはならないのかと、冷や汗を流しながら是音は焔を窺い見た。
「ふむ。これには5人とあるが・・・残念なことに俺達は3人しかいない。ならば戦力になる者を引き入れるのが上策だろう」
 態となのか、焔も衣装に関しては触れてこなかったことに、紫鴛と是音は胸を撫で下ろした。その実、焔があの衣装を着たくても手枷が邪魔をして着れないということに気が付くのはまた後の事なのだが。
 さて・・・と3人は真剣な面持ちで考えた。
 戦力になるという点では、焔が以前から手に入れたがっていた悟空を引き入れるのが順当だろう。彼の戦闘能力は是音でさえも驚かされるものが有る。すると残るもう1人だが・・・。
 焔が気に入っているという基準でなら紅孩児なのだが、生憎彼は敵として目標設定されている。ならば最後の1人も三蔵一行の中から選ぶ方が無難だ。しかし。
 しかし三蔵一行は4人である。悟空を除いても3人。その中から1人を選べと言うのは中々に酷だ。
 大技を持つ三蔵・・・彼はキャラ的にも焔と被ってしまうので却下。
 回復系も使える八戒・・・本来なら真っ先に入れたい気もするが、何を考えているのか解らない男のうえ、どうにも性格が腹黒そうで正義の味方としては疑問を覚える。
 そして、肉体労働派で人も良さそうな悟浄・・・。戦力としては先の2人に若干劣る気もするが、一番害がなさそうで仲間としても引き入れやすそうだ。なんとなく悟浄のポジションは『カレーの好きなイエロー』な気がするのも、焔は気に入ったようだ。
「よし!それでは孫悟空と捲簾を我が戦隊に迎えよう!」
 拳を握り締め立ち上がった焔を、2人は微笑ましく見守った。
「そういや、戦隊の名前はどうするんだ?」
 まるで父親が幼い子供の空想に付き合うような口調で、是音が尋ねる。だがそれに気付くことも無く、焔は誇らしげに叫んだ。
「秘密戦隊・カミサマンだ!!」
 どこから出した、そのネーミング・・・。
 しかし熱く燃える焔の前に、2人の心の声が届くことは無かった・・・。



 ところ変わって、とある村の三蔵一行。
 相も変わらず馬鹿騒ぎをしながら、いつになく平和な道中を楽しんでいる最中である。
「は〜、こうも何にもないと退屈だねぇ」
 悟浄が煙を吐き出しながら、上機嫌で呟く。
「そうですねぇ。久し振りにどなたもいらっしゃらないし、このまま順調に進めば今夜も野宿は免れそうですよ」
 あまりにのどかな風景に八戒もにこやかに返せば、ジープの楽しげな声が重なる
。小動物とは言え、やはり野宿は有り難くないのだろう。
 しかし三蔵だけは、よりいっそう眉間の皺を深くした。
「迂闊にそんなことを言うんじゃねぇ。来ねぇと言ってる時に限って邪魔が・・・」
「あ、焔!!」
「来やがったか」
 悟空の指摘通り前方に現れた焔の姿に、三蔵のこめかみがひくりと振るえる。
「三蔵様、予感的中?」
「死ぬか、貴様」
「ま、いずれにせよ今夜の野宿の可能性が高まったことには、変わりないみたいですねぇ」
 のほほん、と八戒が不吉な台詞を吐きながら、とりあえずジープを止める。心の底ではこのまま直進して焔達を轢き逃げしてしまいたいとも思ったのだが、流石に神様相手ではジープも無事に済まないだろうと諦めた末の行動だ。
「げ・・・マジ?」
「しかも食料も底をついてますので、大問題です」
「んじゃ、何が何でも次の街に着かなきゃじゃん」
「えぇ、そういうことなので・・・頑張ってくださいね、悟空」
「俺?!俺なの?!うぅ〜〜〜・・・焔!」
 びしぃ!と焔を指差し、悟空が叫ぶ。
「俺の夕飯の為に、さっさと帰れ!!」
 現れてからまだ一言も喋っていないのに、あまりな扱いである。
 ほんのりぐれそうになりながらも、焔は紫鴛に突つかれて本来の目的を思い出した。
「焔・・・」
「あぁ、そうだな」
 すっかり自分を取り戻した焔は、何故だか意気揚々と4人の前に進み出た。
「孫悟空。そして・・・捲簾!」
「へ?俺??」
 普段なら見向きもされない自分に矛先を向けられ、悟浄は焦った声を出す。しかし、焔はそんなことを気にしはしない。
「この度我らは正義の味方として、戦隊を結成することに決めた。ついてはお前達を隊員として迎えたいと思ってな」
 断られることなど微塵も考えていない様子で、焔は宣告する。だが、それを見る三蔵一行の目は冷たかった。
「正義の味方って・・・本気でしょうかね」
「エロ河童なら『性技の味方』って所だろうけどな」
「三ちゃん、鋭いね!」
「死ぬか、馬鹿」
「なぁ・・・それであいつ、何が言いたいの?」
 各々言いたいことを言いまくりである。しかしここで話し込んでも先には進めない。気を取りなおして八戒が、焔へと向き直った。
「正義の味方云々はまだイイとして、どうして悟浄をメンバーに?」
 背後で悟空と悟浄が揃って首を縦に振る。正義の味方という思考も解らないが、人選も納得できない。
 だが、焔は自信満万に言い切った。
「それはな・・・戦隊物は5人組と相場が決まっているからだ!」
「いや、そうじゃなく・・・」
「金蝉は大技を持っているが、チームとしてはバランスが悪い。そして天蓬は・・・」
「僕は・・・?」
「腹黒そうだから、正義の味方にはできん!」
「へぇ・・・・・・」
 突如吹き荒れた冷気に、その場が凍りつく。
「僕のどこが、腹黒いですって?」
 にっこりと笑いながら焔に一歩近づく八戒を止められる者はいない。
「しかもそんなふざけた理由で、悟浄を仲間に入れようですって?」
 にこにこと笑い続ける八戒の右手に、確実に気が溜まって行く。
 悟空はイイのかとか、何故いきなり正義の味方などと言い出したのか・・・などということは八戒の頭には全く無い。そう本能で知った悟空と悟浄はただただ息を殺してその場を見守る。
「残念ながら僕らも先を急いでいるんで、貴方の戯言に付き合っていられる時間は無いんですよ」
 相手が神様だろうと、この男には関係ないのか。
 焔はうろたえながらも、例の『資料』を取り出す。
「待て、これを見ろ!」
「その、幼児向け雑誌がどうかしましたか?」
 これが悟浄なら怯んでくれそうだが、八戒に対して効力を発揮する筈もない。
「きちんと秘密基地もあるし、戦隊名も決まっているんだぞ!その名も『秘密戦隊カミサマン』だ!!」
(ダサ・・・・・・)
 八戒を除く3名の心に、同時にその言葉が浮かぶ。ある意味ここまで気が合ったのは初めてではなかろうか。
 思わず哀れみの目を焔の背後に向けてしまうが、彼らの表情も諦めきったものだった。可哀想にと思っても、あぁいう大将を選んでしまったのは彼らの方なのだから、どうしようもない。
 三蔵達がそんなことを考えている最中にも、八戒の気は益々大きくなっていた。
「あのですね」
「なんだ」
 やはり笑みは崩さないが、その鬼気迫る気配に焔も押され気味となる。
「そういう遊びのお誘いは、一昨日来て下さいね」
 丁寧な言葉と共に、八戒の気が解き放たれる。
 それは的を外さず、確実に焔へと迫っていった。
「ちっ・・・俺は諦めんぞ!」
 まるで某ゲームの悪役のような捨て台詞と共に焔と紫鴛・是音は消え、後には八戒の気に薙ぎ払われた無残な荒地が広がるのみ。
「しつこい男は嫌われますよ♪」
 何も無かったように、平然と返す八戒が恐ろしい。
 悟浄は当分焔達が現れてくれないことを、心の底から願った。己の心の平穏の為に・・・。


「焔、いっそのこと全員仲間に入れてしまうというのはどうでしょうか」
 再び焔の秘密基地。表に筆で『秘密戦隊カミサマン・秘密基地』と記された看板が、何故か微笑ましい。
 そこで肩を寄せ合い、3人はまた作戦会議を開いていた。
「しかし・・・7人になってしまうぞ?」
「いえ、ここに最大7人の正義の味方もいたと書いてあります」
 いつになく紫鴛が熱く語る。呆れながらも本当はこういうことが好きなのではないかと、是音はちらりと己の隣を盗み見た。
「ならば今度は金蝉たち全員を仲間に迎える交渉をしよう。それなら孫悟空も捲簾も文句はあるまい」
 焔は解決策を見付け、またもや嬉しそうである。
 本来の問題はそこではなく、そして歴代ヒーローの中には3人組の正義の味方だっていたことに、彼らが気付くことはない。
 かくして焔様の正義の味方計画は、今始まったばかりなのだった。



 MISSION1.秘密戦隊結成『仲間を集めてみよう』

   ・・・・・・・・・・任務、失敗。



新春第一段がこれですか、ワタクシ。
焔様、好きなんですけどねぇ・・・。そうそう、焔・紫鴛・是音はアニメのみのキャラクターです。原作には出て来てません。
ちなみにこういう人達でもないとは重々承知しているのですが・・・はて?どこで間違ったのやら。
蛇足ながら、八戒がカミサマンの隊員となったら『カミサマンブラック』です(笑)



モドル?