……言われてキモチのイイことば。……
「は〜い、りぴーとあふたーみぃ」
「りぴ〜とあふた〜み〜♪」
「悟浄ぅ、それは違うでしょぉ?」
けらけらと笑い合う大の男が2人、テーブルを挟んで座っている。
彼等の間には乱立するお酒の瓶や缶。
実に久し振りにきちんとした宿屋に辿り付いて、本当に久し振りに柔らかいベッドにありついた。そしてこれまた久し振りに美味い酒に巡り会い・・・酔っ払いが2人、出来あがったという次第である。
そう、悟浄と八戒は珍しく盛大に酔っ払っていた。
酔っ払いには他愛のない話題は尽きなくて、つらつらとどこをどう巡ったのかいつの間にかこんな話になっていた。
『言われたら凄く気分の良くなる言葉って?』
まぁ、こんな事を言出すのは八戒だろうが、何しろ2人とも酔っ払っているのである。
呂律も怪しいながらに悟浄が言った。
「ん〜と、カッコイイとか?」
「カッコイイ〜」
「それから、強いとか?」
「ツヨ〜イ」
「・・・すっごいとか?」
「すっご・・・・・・ぐふっ」
悟浄の後について復唱していた八戒が、流石にそれだけは言い切れずに、盛大に吹き出す。
「にゃ〜んだよぉ〜」
「くくく・・・だって、そんな・・・オヤジみたいな褒め言葉・・・・・・くく・・・本当に嬉しいんですか?」
テーブルに突っ伏して肩を振るわせる八戒に、同じくテーブルに頬をつけた悟浄がジト目で文句を言った。
「嬉しいよ?イイじゃん。褒められるのって、キモチイイもん〜」
ちょっとだけ拗ねてみせながら、ズズ・・・と手の中のウィスキーを啜る。
だが、目の前で笑い続ける八戒の姿を見ているうちに自分にまで笑いが伝染して来たらしい。終いには悟浄までゲラゲラと笑い出した。
意味もなく爆笑できるのは酔っ払いの特権である。
「ん・・・んじゃさ、お前はどうなのよ」
「ぼ・・・・・・僕・・・ですか?」
滲んでしまった涙を拭き拭き、お互いに顔を上げて選手交代とばかりに悟浄が問いかける。
八戒は暫く考え込むと、にっこり笑いながら口を開いた。
「月並みですけど、“好き”とか」
「スキゥ」
「“愛してる”とか」
「愛してるぅ♪」
案の定先ほどの八戒を真似て、後から茶化しながらも復唱する悟浄に、八戒は内心ほくそえむ。
「それから・・・“好きにして”とか?」
「好きにしてぇ〜ゥ・・・・・・って、オヤジはてめぇの方だろ!」
「え〜?悟浄から言われたら、こんなにキモチイイ言葉はないんですけどねぇ」
端から見たらバカ漫才である。しかしこれでも当人達は本気なのだから、酔っ払いとはすごい。
まぁ、ここで本気の喧嘩にならないトコロが悟浄と八戒なのだが。
「あ、そうそう。とっておきがあるんですよ〜♪」
くい、と悟浄の袖を引っ張った八戒が、テーブルに身を乗り出して顔を寄せる。
「んにゃ?」
あまりに嬉しそうに八戒が言おうとするので、悟浄もついつい真剣に聞く気になってしまう。
「あのね、“一生側にいます”って」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
にこにこと告げた八戒に、悟浄は思わず上目遣いに問いかけた。
「それ、言われてホントに嬉しい?」
あまりに真顔で言われたので、かえって八戒のほうが驚いてしまった。
しかしそこは八戒さん。すぐににっこりと微笑むと、
「当然ですよ。特に悟浄から言われたら、コレ以上ないってくらいに嬉しいです」
と、殺し文句かアンタってカンジに返答した。
そのあまりに蕩けそうな微笑みに、酔っ払い悟浄もへらりと笑う。
「そっか〜。嬉しいかぁ〜」
「えぇ、嬉しいですよ。だから言ってくださいね?」
にこにこにこにこ・・・笑顔の大安売りである。
「恥ずかしいなら僕のあとに着いて言えばイイんですから。ね?ほら、りぴーとあふたーみぃ♪」
「うんうん。りぴぃとあふたぁみぃ〜♪」
「悟浄?繰り返すところが違うでしょぅ?」
に〜っこり。
しかし悟浄はぺろりと舌を出すと、再び頬をテーブルにつけてしまう。
「うっそ〜ん。勿体ないから今は言わないも〜ん」
ひゃひゃひゃと笑って、八戒の頬をぺちぺちと叩く。
「悟浄?“今は”ってことは、そのうち言ってくれるって事ですか?」
それでもめげずに悟浄に顔を寄せて、八戒は訊く。
健気っつ〜か、未練たらしいっつ〜か。
思いながらも悟浄は八戒の襟首をぐいと掴むと、掠めるように接吻けた。
「そのうち言ってやるから、聞き逃さない様にず〜っと側にいろよ?」
幸せカップル、バカっプル。世の中酔っ払いなんてそんなものである。
盛大に酔っ払っていた2人が次の日までこの会話を覚えていたかというと・・・・・・神のみぞ知る。
はい、予告通りになってしまいました、バカっプルなお話です。
いや〜11月号の悟浄の愛されっぷりを見て触発されましたよ。
・・・どこが?という突っ込みはなしでお願いします!(爆)