― いつも、いつでも ―
うるせーんだよ、いい加減にしろ。・・・だから・・・・・・
「連れてってやるよ・・・仕方ねーから」
「さんぞ?」
呼びかけられて、目が覚めた。
(迂闊・・・)
八戒が悟浄を連れ、街の偵察に行く間、ジープに残っていた俺はいつの間にか眠りに落ちていたようだ。
居眠りはいつものことだが、寝言を言うとは・・・しかもこいつに聞かれていたらしい。
悟空は助手席から身を乗り出すようにして、後部座席の俺を覗き込んでいる。
(相変わらず、でかい目)
こいつの外見は、始めて見たときから変わっていない。
それが、妖怪だからなのかは判らない。八戒は3年前まで人間だったから例外としても、悟浄はほぼ人間と同等の成長をしているらしい(とは言っても、こいつも人間の血が混ざっているから参考にはならないかもしれんが)。
記録によれば500年、五行山の麓に封じられていたとのことだ。
誰によって、何のために封じられたのか、そこまでは判らないが、本人に言わせると『何かすげェとんでもないこと』をしでかしたらしい。一体何をやったら、それだけの大罪になるのか。僧侶とは言っても所詮現世の人間には理解できない事なのかもしれない。
「三蔵?」
悟空が再び俺の名前を呼ぶ。
思えばこいつには、名前を呼ばれてばっかりだ。
出会う前も、出会ってからも。
始めは声にならない声で。
今では現実の声として。
悟空はいつでも俺の名前を呼び続けている。
(あんまりうるさいから、勝手に連れて来ちゃいました)
俺を拾ってくれた師匠は、そう言っていた。
人は誰でも、『誰か』の名前を呼び続ける。
輪廻だの縁だの、抹香臭いことに興味はないが、『出会うため』に呼び続けるのならば解らなくもない気がする。
師匠と俺のように、八戒と悟浄のように・・・・・・俺と、悟空のように。
「なぁ、三蔵ってば」
返事をしない俺に業を煮やしたのか、更に身を乗り出した悟空の唇が、俺に触れた。
「起きたのかと思えばずーっと黙り込んで、どうしたんだよ?」
眉間にしわまで寄せてさ、と僅かに笑いながら不安定な姿勢を保っている。
(少しでもバランスを崩してやれば、転がるな)
考える前に手が動いてしまったのは、もはや慣れか。
俺は悟空の頭を鷲掴みにすると、思いっきり手前に引いた。
「うわぁっ!」
思った通りに悟空はジープの後部座席に倒れ込んできた。
「もうっ、いきなりなにすんだよ」
どうにかシートの上に座ることに成功した悟空が文句を言っているが、無視して肩に頭を預ける。
「さ、さんぞう?」
目を閉じてしまえば、僅かに伝わる体温と悟空の声だけが世界の全てになる。
「さんぞ?」
「三蔵??」
「さ〜んぞっ」
「なぁ、三蔵〜」
「やかましい」
放っとけばいつまでもやっているだろうバカ猿に、俺は懐から取り出したあめ玉を投げつける。
いつも腹を空かしているこいつのために、食い物を持ち歩くようになったのはいつからだろう。
俺も随分丸くなったもんだ、と思いながら再び目を閉じる。
「それでも喰って、大人しく枕になってろ」
お前の声なんて、いつでも聞こえてるんだから。
ずっと、ずっと。
「置いてってなんか、やらねぇよ」
カスミさんに捧ぐ。
遅くなって申し訳ない。この二人って難しいです(T-T)
何か中途半端な話になってしまいました。でも意地で空×三(笑)
またの機会があったら今度はライトでポップなお話を・・・嘘。書けねぇよ(--;)