■ 秘密戦隊カミサマンEX ■ ザッ!と砂煙を上げて悟浄は立ち止まった。 「ここか・・・」 視線の先にあるのは、これでもかというくらいに怪しげな洞窟。 どれくらい怪しいかというと、周囲が鬱蒼と茂る密林なのに対し、その洞窟の前だけがぽっかりと1本の草も生えない空き地になっており、更には何かを引き摺ったような跡が無数についている。 「・・・これ、何の跡なんだろうなぁ・・・」 悟浄の疑問も尤もで、車に使われる車輪のような跡もあれば、大蛇が這いずり回ったような蛇行する溝のようなものもある。それが全て、洞窟の中へと消えているのだ。 「ま、いっか」 この結論が弾き出されるまでの時間が0.2秒。常人ならば『ちょっと待て!』と叫びたくなるくらいの即決力だが、これでも悟浄にしては深く悩んだ方だった。何しろ彼の普段の結論誘導時間は0.05秒。実に今回の4分の1の時間で処理されているのだ。但し、その結論は98%同一の結論・・・『ま、いっか』で統一されているのは、彼と付き合いの長いものにしか知られていない事実なのだが。 話がずれたようなので、戻そう。 今、悟浄が足を踏み入れようとしている洞窟は、とある秘密結社のアジトだと推察される場所だった。 ここ数日のうちに近隣の町を襲った怪事件の、首謀者と思われる人物がいる・・・筈の場所だ。 何故確定ではなく推論で言われるのかといえば、確たる証拠を掴んでいない為に他ならない。何しろその首謀者が潜伏していると思われるアジトはその町だけでも数十箇所。近隣を含めれば3桁を下らないという噂だったのだ。 とりあえず7人に増えたカミサマン達は手分けをし、虱潰しにアジトを当たった。数々のガセや誤認、はたまた退去跡を経て、悟浄が手にしたリストの最後を飾ったのが・・・この洞窟なのである。 「は〜ずれてるとイイのになぁ〜〜」 悟浄はのんびりとした口調で呟くと、周囲に気を配りながら洞窟に足を踏み入れる。ちなみに心のBGMは懐かしの『ゆけ!ゆけ!川●浩』だ。実は悟浄は、無意味なまでに過剰な煽り文句の『水●スペシャル』の大ファンだった。彼の自宅のクローゼットには、第1話からの録画ビデオ(勿論標準・CMカット済)が並んでいることは、本人の他には同居人の八戒しか知らない。 それにしてもこれだけ人の入った形跡があるのだから、ここが無関係な場所だとは流石の悟浄も思っていなかった。運良く使用済みなんてことがあったとしても、そこにどんなトラップが残されているか知れたもんじゃない。 何しろ相手はあの・・・ニィ健一博士なのだから!! 油断は禁物。無造作に見える足運びも、この時ばかりは緊張している。 「さ〜て、鬼が出るか蛇が出るか・・・・・・ってか?」 茶化しながらも悟浄は進む。 進まないと今日の任務が終らないからだ。終らなければ宿にも帰れない。それだけは避けたかった。 さて、どれだけ進んだことだろう。 今、悟浄の目の前には、これまた怪しげな鉄の扉が立ちはだかっていた。 可愛らしい兎のイラスト入りの札が、ここは『研究室よ』とハートマーク付きで教えてくれる。 「いや〜ん、ビンゴ?」 耳を澄ませば微かに漏れ聞こえるモーター音。それだけ確認すれば、残る行動は決まっている。 悟浄はくるりと踵を返すと、一目散に出口へと駆け出した。 彼の名誉のために言うのならば、これは別に敵前逃亡とか単に面倒だからとりあえず宿に帰ろうだとかいう事情からの行動ではない。 『複数の得体の知れない敵にたった一人で向かうのは愚か者のすること』というれっきとした信条の下に裏付けされた行動だった。 だが・・・・・・ ビタンっ!! 「ぎゃっ!!」 見事な脚払いによってその行動は阻止された。 「うぅ・・・鼻打った・・・・・・」 「や〜だな〜。折角来てくれたのに、挨拶もなしに帰っちゃうなんて」 「げっ・・・」 絶妙なタイミングで現れたのは、白い白衣をはためかせ、小脇にウサギのぬいぐるみを抱えた人物。疑いようもなくニィ博士その人だ。 悟浄は少々赤くなってしまった鼻を擦りながら、それでも博士から目を離さないよう気を付けつつ起き上がろうとした。 「ちゃんと歓迎してあげようと思って、準備もしていたのにぃ♪」 「うぎゃっ!」 しかし、それもいつの間にか近付いていた複数の手によって遮られてしまう。 「なっ・・・」 じかに地面に押さえ付けられている為、唯一自由になる首を持ち上げれば、そこにいたのは・・・ 「紅孩児!!・・・・・・が、何で5人も・・・・・・」 そう。敵の総大将とも言える紅孩児が5人もいたのだ! 彼らは全く同じような無表情で悟浄を力任せに押さえ付けていた。 「こいつ・・・五つ子ちゃんだったの・・・?な〜んてワケないか」 まぁ、悟浄とて紅孩児の家庭事情なんて知らないのだから正確なことは言えないが、彼らの体に付いたバーコードを見れば本人でないことくらいは容易に推察できる。 「やっぱり麓のバーコード事件もお前のせいか・・・」 「あぁ、あれ。もしかしてそんなことでここまで遊びに来てくれたの?」 「テメェ・・・・・・」 博士の巫山戯た物言いに、悟浄は怒りを露わにして呻く。 何しろ自分がこんな面倒なことをする羽目になったのも、町中に溢れたバーコードのせいだったのだ。 ただ単に店に並んだ商品にバーコードがついているのならば、誰も気にも留めなかっただろう。しかし正体不明のバーコードは、ありとあらゆるところ・・・路地裏でゴミ箱を漁る野良猫や、電信柱。はたまた酒場のオヤジのハゲ頭にまであったのだ! その異常事態に、自称リーダーの焔が喜々として原因追及に乗り出したのは想像に難くない。 「アレのせいで、この数日無駄に歩き回らされたんだぞ!悪事を働くなら働くで、もっと判り易いようにやれよ!」 問題が違うような気もするが、悟浄にとってはこれで正論なのだ。やりたくもない正義の味方業で無駄な労力を使いたくない。 「あはは・・・ゴメンね〜」 しかし素直に謝ってしまう博士も、何か違っていた。 「でもねぇ、とりあえず・・・」 紅孩児達に目配せすると、博士は悟浄の前に座り込み、その顔を覗き込んだ。 「約束があるんで、暫く大人しく縛られててくれる?」 その言葉が終らないうちに、悟浄の意識は・・・暗い縁へと沈んでいった・・・・・・。 「う・・・ぐぅ・・・・・・」 ヒタリと頬に触れる冷たさに、悟浄の意識は現世へと引き摺り戻された。だが、その口唇から零れるのは、意味をなさない呻きばかり。まるで、体中の水分を奪われたかの如く、舌先が麻痺していた。硬い診察台から降りようと身動げば、それは手足についた無粋な拘束帯によって遮られる。 だが、それ以上に悟浄を苛んでいたのは・・・全く力が入らないという恐怖だった。 (ちき・・・しょ・・・・・・) どんな薬物を使われたのか。こうもあっさりと自分が意識を奪われたことを考えれば、一般的なものではありえない筈だ。それがもしも、目の前の男によって作られたものなら・・・どんな副作用があるか解ったもんじゃない。 (っつ〜か、なんで俺・・・変身スーツ着てんの?) そう。そして何よりの恐怖は、着た覚えのない変身スーツがちゃっかり着用されていることだった!かつて八戒が絶賛したカミサマンピンクのスーツは、悟浄の生足を惜しげもなく見せ付けている。無機質な診察台に横たわる、腹出し・超ミニスカート。その様は・・・はっきり言ってムチャクチャエロかった。 「あ、お目覚め?」 横から覗き込む博士の顔を、悟浄は精一杯の意地でもって睨みつけた。 「・・・ぁ・・・・・・くぁ・・・」 どういうつもりだと問おうにも、言葉がうまく作れない。だが、その悟浄の様子を見て博士は彼の問いたいことを察したのか、自分から口を開いた。 「ちょっとね、君には研究に御協力頂こうと思って。場所提供さえすれば、サンプリングしても良いってお許しを貰ったんだ」 平然と言ってのけるが、相変わらず主語をつけない博士に、悟浄の苛立ちは倍増する。そもそも誰の許しを貰ってこんなことをするのか。だがその疑問も、新たに現れた影によって氷解してしまう。 「っっぁ・・・!!」 (八戒っ!!) 今まで博士の死角にいて見えなかった八戒が、やや離れたところからこちらを満足そうに眺めている。その様子は、どう見ても操られている可能性など微塵も感じられない・・・素の八戒のものだった。 「素敵な恰好ですねぇ、悟浄。・・・あ、血液採取は跡が残らないように気を付けて下さいね」 「はいはい。心得てますって」 「・・・っ!!!」 博士の後ろから指示を出す八戒は実に手馴れたもので、彼が今までにも博士と接触があった事を窺わせるには十分だった。 そういえば、変身スーツに関しても博士は何も言わない。こんな奇妙な恰好なのに・・・。始めは常軌を逸した変人だからかとも思ったのだが、もしや・・・。 悟浄の頭の中には当たって欲しくない想像ばかりが広がっていく。 (うぅ・・・八戒とコイツが繋がりがあるなんて・・・考えたくないけど、考えたくないけど・・・・・・) 以前八戒は言っていたではないか。『このスーツは自分がデザインした』と。 「そういやこの変身セットの使い心地はどうでした?結構自信作なんだけど」 (やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜) 決定打。 どこでどう知り合ったのかは知らないが、妙なところで八戒とこの変態研究者はウマが合ってしまったらしい。 (ってことは・・・) 「八戒!てめぇ、焔のことがなくても俺にこれを着せるつもりだったな!!」 「あ、舌根の麻痺がとれたようですね」 「流石だね〜」 「無視すんなっ!!」 怒りが麻痺を退けたのか。漸くマトモに喋れるようになった悟浄は憤りのままに捲くし立てる。 「大体おかしいと思ってたんだ。変身ベルトなんてあったら面白がって真っ先にやりそうな悟空が変身しやがらないし。そもそもお前らが変身してるところを見たことがねぇ!」 カミサマンとしての活動自体、殆どやっていないのだからこれは仕方がないだろう。ただし、変身前に八戒が故意に敵を全滅させていたことは・・・事実なのだが。 「やだなぁ、そんなに怒らないで下さいよ」 「騙されてこんなところで拉致られたら、いくら温厚な俺だって怒るわ!」 「だって・・・スーツのバージョンアップがしたいって言ったら、絶対に一緒に来てくれないでしょ?」 「当然だ!!」 「そういうと思ったんで、自分から出向いてくれるように博士にも色々と協力していただいたんですよ」 「あ、僕は自分の趣味も兼ねてるんで。丁度良く実験が最終段階にあったしね」 博士の言う実験とは、例のバーコード事件のことである。詳細を語ると長くなるので割愛するが、博士のやることだからイカガワシイ事に変わりない。 だがそれも、悟浄の怒りに油を注ぐ結果にしかならない。 「喜んでください、悟浄。今度の変身スーツは状況に応じてタイプが選べるんですよ。勿論、白衣の天使バージョンは欠かせませんよね♪」 心の底から楽しそうな八戒の脳裏には、これまた超ミニ白衣姿の悟浄が鮮明に描き出されているに違いなかった。 傷付いた身体を優しく膝枕かなんかで癒してくれる白衣の天使。そりゃもう、男の浪漫だ。憧れだ。 しかし、当然それが悟浄に通じる筈もなく・・・。 ブツッ・・・ 「こんっっっの・・・・・・いい加減にしやがれ、腐れ変態野郎〜〜〜っ!!!!!」 切れた悟浄がスーツで十二分に強化され捲くった力で診察台をぶち壊し、研究所を二度と使用できないまでに破壊する。いつの間にか消えた博士と紅孩児たちに気付かずに暴走する悟浄を、八戒は飛び交う謎の破片を避けながら微笑ましく眺めていた。 「全くもう、悟浄ってば我侭なんですから」 「どっちがだ!!てめぇなんざ、いっそ悪役になっちまえ!」 「あぁ、それも面白そうですねぇ・・・あははは・・・・・・」 とりあえず、桃源郷は今日も平和だ。 なんなんでしょうか、これは・・・。え〜、ごまにゃん様からリクエストいただきました50000HIT記念作品で御座います。 懐かしの『秘密戦隊カミサマン』。『ピンチに陥ったカミサマンピンクを助け出すカミサマンブラック』というリクエストだったのは、ワタクシの気のせいでしょうか・・・(<オイ)。八戒さんがカミサマンブラックに変身しないのはこういう理由があったからなんです、なんて言い訳は通用しませんか?(汗) なにはともあれ、ヘタレイラストと共に捧げますので、どうぞ受け取って下さいませ(平伏) |