パジャマのままで番外編
ゲームの達人



悟浄は後悔していた。
 それはもう、2年前に誤って男を口説き落としそうになったときよりも、更に深く後悔していた。
(何でこんなに強ぇんだよ)
 自分だって、博打で生計を立てている手前、決して弱くはないはずだ。はっきり言ってしまえばかなり自信はある。実際いつも行っている賭場では負け知らずだ(要らぬいざこざを避けるためにわざと負けることはあったが)。
 だが、そんな自分がここまであっさり負けようとは・・・
「じゃ、約束を果たしていただきましょうか」
 茫然自失している悟浄に、八戒はにっこりと笑って見せた。


 事の起こりは朝食後。
 暇をもてあました悟浄が八戒に、一勝負しようと持ちかけたのが原因だ。
 ゲームはポーカー。レートは100円。
 親も悟浄がつとめた。
 この条件で負けるはずがないと、始めは思っていた。
 30分もすると、上がれなくなっている自分に気付く。
 そして小一時間もする頃には、158万7千5百円の負債金が出来上がっていた。
 さすがにその金額には悟浄も信じがたいものがあった。
 普段、この10倍のレートでやってもここまでの金額が付いた経験はない。
 だがしかし、この現状は紛れもない現実。
 自分から持ちかけた勝負だけに、なかったことには出来ない。
 そう悩んでいるところに、八戒から妥協案が出された。
 曰く、あくまでもゲームなのだから、金銭のやりとりはナシにして罰ゲームに留めよう、と。


「で、まじにこれを着けろってか?」
 八戒から提示された罰ゲームは「3つ願いをきくこと」。
 たった3つなら大したことはないと安請け合いをした悟浄だったが、八戒が手にした物を見たときには既に後悔していた。
「えぇ」
 八戒がにっこり笑って差し出した物は、薄い桜色の、縁にフリルをあしらった『エプロン』だった。
「・・・何だってこんなもんをお前が持ってるんだよ」
 もっともな疑問である。
 だが八戒はさらりと「雑貨屋さんの福引きで当たったんですよ」とかわす。
「こんなもん、可愛いお姉ちゃんが着けた方がよっぽどましじゃねぇか。俺が着けたって、気色悪いだけじゃないのか?」
 確かにガタイの良い悟浄にピンクのフリフリエプロンなんて、笑い話である。
「いいじゃないですか。罰ゲームなんだから」
 ちょっとしたお遊びですよ。そう言われれば悟浄に反論する余地はない。
 何しろ原因を作ったのは自分だからだ。
「・・・・・・んじゃまぁ、ヤなことはとっとと終わらせるとしますか」
 投げやりに言った悟浄は、八戒の手からエプロンを奪い取る。
「しっかし、見れば見るほどすげぇセンス。透かしまで入ってるじゃねぇか」
 ひらりひらりと返し見て、悟浄は溜息を一つ付くと再び八戒を見る。
「やっぱり、着なきゃダメ?」
「罰ゲームですから」
「あぁぁぁぁぁ・・・・」
 ものすご〜く情けない気分になりつつも、悟浄は諦めてエプロンを首に掛けようとした。
 が、しかし・・・
「悟浄。僕『服の上から』って、言いましたっけ?」
「はい?」
「エプロンは勿論、素肌に着けて下さいね
 爽やかに言った八戒の言葉に、悟浄の思考はショート寸前であった。


(な・・・何が悲しゅうてこんな昼日中から・・・)
「なぁ、絶対着なきゃダメか?」
 無駄とは思いつつも一応聞いてみる。
 悟浄はエプロンを手に、これまでにないほど情けない顔をしていた。
「158万7千5百円払う気があるなら、それでも良いんですけどね」
 にこやかに言う八戒は、この条件を撤回しそうにない。
「まぁ、何も今日一日と言うことではありませんし。僕のお願いを3つ聞いてくれたらそこでお終いですから」
「・・・・・・わかった、俺も男だ。着てやろうじゃねぇか!」
 ここまでくると自棄である。悟浄は思い切りよくシャツを脱ぎ捨てた。
 エプロンを首に掛け、ズボンのベルトに手をかけたところで、はたと気付く。 
「・・・・・・何見てやがるんだよ」
 そう、悟浄は八戒の前で着替えていたのだ。
 ある意味言いがかり的な苦情にも、八戒は満面の笑みをたたえたまま、
「目の保養と言うことで」
 ・・・・・・・・・・。
「ちっ、物好きめ」
 最早何も言う気力もなくなった悟浄は、そのままズボンを取り去る。
 すると、悟浄の身につけているものは可憐なエプロン一枚になってしまった。
「ほら、これで良いだろ。言っとくけどな、似合わねぇことは俺も十分自覚してるんだからバカ笑いはするなよ」
 開き直って八戒の前に仁王立ちになり、情けないながらも釘を差す。
「いえ、なかなか似合ってますよ」
 八戒はいたって平静だ。僅かに肩が震えているのはこの際仕方がないだろう。
「んじゃ、まず一つはクリアーか。くだらねぇことはとっとと終わらせるぞ」
 早く次の条件を出せ、と悟浄は八戒に詰め寄った。
 悟浄としては1分1秒でもこの恥ずかしい格好を止めたいのだ。
 そんな悟浄を楽しそうに眺めると、八戒はしばし考える振りをした。
「八戒・・・わざとらしく悩んでんじゃねぇ」
「あ、解っちゃいました?」
「てめぇ・・・」
「いや、あんまり早く進めてしまうと罰ゲームにならないかと思って」
「いらん気を使うな」
 こめかみに青筋を立てた悟浄に、内心残念に思いながらも八戒は次の「願い」を提示することに決める。これ以上眺めていると、悟浄の拳が跳んできそうだからだ。
「じゃぁ、次はですねぇ・・・」
「勿体付けてねぇで、早く言え」
「悟浄ってば、せっかちですねぇ」
「いいから」
 悟浄としては一刻も早くエプロンを脱ぎたい一心だ。気も焦るというものだろう。
 しかし、次に提示されら条件は、悟浄を更なる後悔の海に沈めることとなった。
 八戒は穏やかに微笑みながら、次の宣告を下す。
「僕の膝の上に座って、悟浄からキスして下さい」
 膝・・・椅子に腰掛けている八戒の膝に座るとなると、ほぼ直に臀部が接触することになる。何しろ『エプロン』に後ろ布はない。
 その状態を想像して、悟浄は一気に顔を朱に染めた。
「八戒・・・」
「はい?」
「本気か?」
 風俗嬢じゃあるまいし、そんな恥ずかしいことが自分に出来るとは思いたくない。
 しかし八戒はまたもや「罰ゲームですからねぇ」とにこやかに答える。
「すんなり出来ることじゃ、罰ゲームにならないじゃないですか」
 つまり、この男は悟浄が嫌がることを承知の上で、この条件を出しているのだ。
「・・・むっつりすけべ」
「何とでも」
「鬼畜」
「やるんですか、やらないんですか?」
「だ〜〜〜もうっ!!」
 悟浄は意を決すると八戒の右膝に手をかけ、上目遣いに八戒を睨み付ける。
「後で見てろよ」
 恨みがましい言葉を投げると、そのまま八戒の大腿を跨ぐようにして座る。その顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。
 そんな悟浄の様を八戒は実に楽しそうに観察している。
 悟浄はゆっくりと両手を八戒の首に回すと、少しだけ目を伏せ、顔を近づけた。そして、触れるだけの接吻。
 直ぐに離れてしまった口唇に、八戒は目をしばたかせた。
「悟浄?随分と可愛らしい真似をしますね」
 笑いを含めて八戒がそう言えば、悟浄は怯んだように顎を引く。
「だ・・・ダメ?」
 普段は好色一代男みたいな真似をしておきながら、こんな時だけ可愛くなんて・・・
(ゆ・・・許されねぇよなぁ、やっぱり)
 さすがに自分でもそう思う。
 そして八戒を見れば、無言でいつもの笑みを浮かべてはいるが、
(眼が笑ってねぇよ・・・)
 さすがに背筋が寒くなる。
(ここは一つ、恥も外聞も捨てねぇと終われねぇってことかよ)
 目を閉じて、溜息を一つ吐き出すと、悟浄はゆっくりと八戒の首に回した腕に力を込める。
 上体を少しだけ倒すと、八戒の口唇に再び触れる。今度は少しだけ角度を変えて、促すように上唇を舌先でなぞる。
 すると八戒は少しだけ口を開き、悟浄の侵入を許した。
 そのまま歯列を割り、舌に触れる。
 さらりとしたビロードの感触を感じながら、悟浄の舌は躊躇いながらも口腔を犯す。
「・・・んっ・・・・・・」
 時折焦らすように逃げる八戒の舌を追いかけ、絡まし、誘い出す。
 次第に重心を前に移しながら、悟浄は八戒の口腔を侵略し続ける。
(やべ・・・結構ノってきたわ)
 そんなことを思いつつ、何気なく薄目を開ける。すると、八戒と眼があった。
 見つめ合うこと数瞬。
 すっ・・・とその眼が細められ、明らかに笑いの形を取る。
(?・・・・・・・・!?)
 訝しく思ったときにはもう遅かった。
 悟浄の重心は押し戻され、今度は逆に、八戒の舌が侵入してくる。
「ふっ・・・」
 八戒の左手で首の後ろを支えられ、逃げを打つことも出来ずに悟浄は蹂躙されるがままになる。
「んん・・・ぅ・・・」
 息苦しさを感じても、満足に息を吸うことすら許されず、八戒の舌は悟浄を犯し続ける。
 上顎をなぞられ、舌裏をくすぐる。その舌技に悟浄も次第に熱くなっていく。
「ん・・・・・・はぁ・・・あ!」
 不意に悟浄の躰がびくり、と跳ねた。
「ちょっ・・・八戒!てめぇどこ触ってんだよ!!」
 見れば八戒の右手が悟浄の大腿を滑り、エプロンの下まで潜り込んでいる。
「あ・・・やっ・・・ずりぃ・・・」
 八戒の手は際をたどり、悟浄を追い立てようとする。
「キスだけっ・・・て・・・」
 弱いところを的確に探られ、落ちそうになる感覚に悟浄は八戒に縋り付く。
 悟浄にとって、己を支えるものは八戒しかない。
 それが更に、八戒の愉悦を誘う。
「悟浄・・・」
 八戒は這わせていた手を止め、寄せられた悟浄の耳元で囁くように語りかけた。
「それじゃぁ、ここで止めますか?」
 確かにこれ以上は、条件から外れますものね。
 そう告げながら、八戒はほんの少しだけ、悟浄と自分の間に隙間を作る。
「!!」
 不安定になった体勢に、悟浄は慌てて八戒にしがみついた。
「悟浄?」
 明らかに笑いを含んだ声。
 熱くなりかけた躰も、既に勃ち上がりつつある悟浄自身にも、気付いていながらこういうことを言うのだ。
 今も八戒の右手は悟浄の背を、明確な意志を持って辿り続けている。
 なのに・・・
「もう・・・いいから・・・」
 悟浄の声は震え、微かなものではあったが、含まれる艶は隠しようがない。
「ここで止められたら・・・辛すぎ・・・って・・・」
 だから・・・
 続く言葉は声にはならないけれど、八戒にはそれで通じる。
「えぇ、こんな貴男を放り出すのは、僕だって辛いですよ?」
 八戒は嘲笑いながら、右手を下へ滑らせ悟浄の双丘を辿った。
 そして左手は首筋から胸前を這い、乾いた布の上から胸の尖りを掠める。
「・・・くぅっ・・・」
 八戒の手が動く度に、悟浄の躰は活魚の如く跳ねる。
「ふっ・・・・あ・・・」
 そして八戒の手が、再びエプロンの下の悟浄に触れる。
「んん・・・あ・・・あぁ・・・」
 隠された布の下で、八戒の手は悟浄に絡み付き、執拗なまでに追い上げる。
「はっ・・・っん・・・・・・・あぁ!」
 責め立てられるままに、悟浄は己の高ぶりを解放すると、ゆっくりと頽れた。
 しかし、休む間もなく悟浄のもので濡れた手が、今度は後庭へ伸びる。
「やっぱり、少しは慣らしておかないとですよね」
 八戒はそう言うと、ほぐすように辺縁を撫でる。
 その緩やかな動きに、悟浄の腰は我知らずと揺れた。
「んん・・・・・・・・ふぁっ!」
 八戒の長い指が、一本だけ侵入した。それは、悟浄の滑りを借りて容易に奥まで届いたが、確かな質量を悟浄に伝える。
「ん、っく・・・・はぁ・・・あ・・・・・・」
 抜き差しされ、一本、また一本と増やされる指に悟浄の内壁は絡み付き、物欲しそうに蠢く。
「悟浄」
「ん・・・はっかい・・・あ、やぁ・・・」
 ぱさぱさと乾いた音を立てて、赤い髪が視界に散る。
「や・・・もう・・・・」
 これ以上焦らされたくなくて、八戒の熱を身の内で感じたくて、悟浄は潤んだ瞳で懇願する。
「もう、欲しいですか?」
 態と訊ねられても、それに反抗する余地は最早無い。
 一刻も早くソレが欲しくて、悟浄はただ首を縦に振ることしかできなかった。
「それじゃぁ、悟浄。一度、立って下さい」
 このままじゃ何もできないでしょ。
 八戒は悟浄の両脇に手を添えると、僅かに腰を浮かさせた。
 そして、己のモノを取り出すと、 少しだけ躰を前に滑らす。
「悟浄」
 そのまま悟浄の腕を引くと、あっさりと八戒の腕に落ちる。
 二人の下肢は布に隠され、悟浄の視界には入らない。
 しかし見えないからこそ、悟浄はその存在を鋭敏に感じていた。
「んん・・・」
 内股に触れる熱。
 その熱さに目眩がする。
 意識す度に、最奥が収縮するのを抑えることが出来ない。
「は・・・っかい・・・」
 悟浄は右手を後ろへまわし、己を貫くであろうソレを探る。
 そして、蕾にその先端を導く。
 萎えそうになる膝を必死に支えながらの作業は、永遠にも思える程に長く感じる。
「悟浄、もう、腰を落としていいですよ」
 そう声を掛けられ目を開ければ、僅かに上気した八戒の顔が映る。
 いつの間にか八戒の右手は悟浄の手に添えられ、己のモノを導く手伝いをしている。
「ほら」
「あぁっ!!」
 ほんの少し、八戒が腰を上げると、悟浄の蕾に先端が含まれる。
 その衝撃に悟浄の膝は砕け、自重で一息に奥まで貫かれた。
「くっ・・・はぁ・・・・・・あ」
 全てが八戒で満たされる感覚。
 二人の間に『個』という認識がなくなる錯覚。
 悟浄は腰を揺らめかし、己と、己が内包しているものを高みへと誘い上げる。
「あ・・・はっかい・・・」
 熱に浮かされたように八戒名を呼ぶ。
 今の自分には、それだけが全てであるかのように。
「っ!!」
 そして確かに、己を解き放つその瞬間までは、悟浄にとって八戒は『全て』だった・・・


「っと!」
 結局意識をとばし、床に落ちそうになった悟浄を、八戒はすんでの所で抱きとめた。
「悟浄?」
 声をかけても返事はかえってきそうにない。八戒はそれだけ確認すると、悟浄を抱え上げ寝室へと運ぶことにした。
 悟浄をベッドに横たえ、しわくちゃになったエプロンを取り去ると、湿した布で躰を拭っていく。
 意識がないとはいえ、無防備な悟浄の姿に八戒は目を細めた。
「3つめのお願いは、聞いて貰えそうにありませんねぇ」
 ふと、視界の隅に映ったのは先程のエプロン。
 連想的に、それを纏い、真っ赤になった悟浄の顔が浮かぶ。
「本当は『ずっと側にいて下さい』とでも言おうかと思っていたんですけど・・・」
 悟浄を起こさないように前髪をかき上げ、その額に接吻けを贈る。
「また勝負しましょうね、って言ったら・・・さすがに怒りますかね」
 あぁ、せっかくだからエプロン姿を写真に撮っておけば良かったですねぇ。
 悟浄の乱れた髪を整えながら、八戒は楽しそうに語りかける。
 眠り姫を待つ王子のように、八戒は幸せそうな笑顔で悟浄の寝顔を眺めていた。





よくやさんに捧げる鬼畜八戒18禁小説・・・
お題ははたしてこれでクリアできているんだろうか(^^;)
実は裸エプロンを書きたかっただけなんだけど・・・
気恥ずかしさに負けてエプロンが効果的に使えませんでした(爆)




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