† 裏・天使になった日 †
―これまでのあらすじ―
ある朝目が覚めると、悟浄は小さな天使になっていました。
とめどなく溢れる涙を止める術も見付からず、八戒は細い肩を抱きよせた。
抑えられない嗚咽が零れる度に、眼下の小さな背中が震える。
「悟浄・・・」
囁くように名前を呼んで、緋色の髪に接吻けを落とす。
腕の中の体は小さくて、力を込めることすら躊躇わせた。
「・・・ひぅっく・・・」
丸みを残した幼い手が服に皺を作るさまさえ痛ましい。
「ヤ・・・だ、よぅ・・・もどり、たい・・・っ」
「悟浄、大丈夫。元に戻りますよ」
それが何の確証も持たない言葉であれど、八戒はただこの涙を止めたい一心で囁き続ける。
「・・・ホントに・・・もどれる・・・?」
「えぇ、『絶対』です」
涙の為に僅かに焦点の合わない瞳が八戒を映す。
その危うい光にドキリとしながら、八戒は己のポーカーフェイスに感謝した。
いくら幼いとは言え、相手は悟浄である。つまりは最愛の想い人であり、そんな人物が泣き濡れてしがみ付いてきているのだから健康な成年男子としてはどんな手段を使ってでも慰めない訳には行かない気にさせられる。おりしも場所は寝室。最終的なお付き合いまでしている仲では、慰める方法なんて限られてくる。
と、思ったところで相手が『悟浄』であれど『10歳児』。なけなしの理性が歯止めをかけた。
(いくらなんでも、それは犯罪ですよ・・・)
心の中で自分に突っ込み、そんな葛藤が表情に出ないことを幸運に思う。
八戒は気を取りなおすと、依然として止まらぬ涙を親指で拭い、新たな雫を口唇で受けた。
「だからもう、泣かないで・・・」
緩く抱き締め、悟浄が少しでも安らげるように微笑む。
このまま悟浄が落ちついて寝てしまえば、とりあえず今夜の危険は回避できる。そう、思ったのに・・・
「っ!!」
不意に伸びあがった悟浄の口唇が、八戒のそれに重なった。
柔らかく、ただ触れるだけの行為を、悟浄は無心に繰り返す。
「はふぅ・・・」
幾度となく角度を変え、八戒の上着を掴んだ手が震える頃に漸く口唇を離し、悟浄は浅く息をついた。
「悟浄?」
ぐらつきそうになる悟浄の体を腰に回した腕で支え、八戒はこの唐突な行動の意味を問うた。
その呼び声を正確に理解し、悟浄は額を八戒の肩口につけたまま漸く聞き取れるであろう小さな声で答えた。
「・・・・・・しよ」
何を、とは言わない。
だが、上体を僅かに八戒から離し、着ていたシャツを滑り落とす様を見れば、悟浄の意図は明確である。
解放された翼がパサリと震え、その白さが八戒の目を奪った。
「八戒・・・」
見上げる瞳は不安に揺れる。
思考が飽和状態になると、放棄する為に肉欲に溺れるのは悟浄の癖。
彼が常の状態なら、八戒も何も言わずに抱き寄せるだろう。だが、今の悟浄は・・・
「やっぱ・・・イヤか?いきなり羽根とか生えて、気持ち悪いよな。・・・・・・ゴメン。もう、言わないから」
言葉に詰まり何の反応も返せないでいる八戒の様子に、悟浄は勝手に答えを見つけると、その腕の中から逃れようとした。
己の変化に一番戸惑っているのは悟浄自身だ。それでも自分のことなら諦めもつく。万が一戻らなくても、自分一人で生きていくことくらいなら出来るだろう。
だからこそ、唯一『悟浄』を受け入れてくれていた八戒の態度が変わることが恐かった。
「悪ぃ・・・」
「悟浄っ!」
俯いたまま離れようとする悟浄に、漸く感覚が付いて来た八戒は慌ててその腕を掴んだ。
そして引き寄せ、再びしっかりと胸の中に閉じ込める。
「すみません。違うんです」
傷付けた、と思った。
悟浄のことを思う振りをして、その実己の事しか考えられない自分に嫌気がさした。
「気持ち悪いとか、そんなことは全然思ってなくて・・・むしろ、その・・・」
「なに?」
「歯止めが利かなくなりそうで、恐かったんですよ!」
滅多にないくらいに大きな声を出した八戒に、悟浄は目を大きく見開いた。
「え・・・?」
「悟浄、自分の体の大きさ判ってます?普段でさえ歯止めが利かなくなりそうで恐いのに、今の状態じゃ確実に壊しちゃいますよ!」
壊れるほどスるつもりかい・・・という突っ込みはおいといて、自分の危惧が危惧でしかなく、加えて珍しい八戒の慌てる姿なんかを見てしまった悟浄は、笑いが止まらなくなっていた。
「ご・・・悟浄?」
くすくすと笑い続ける悟浄に、八戒は漸く自分が何を口走ったのか認識する。
「あ・・・っと、ですからね・・・」
「じゃ、イイじゃん」
僅かに高潮した八戒の頬に口付け、悟浄は鮮やかなまでの笑顔を向けた。
「壊してもイイから、アイシアオウ?」
小さな肢体をシーツに埋め、八戒は滑らかな首筋に舌を這わせた。
擽ったそうに身を捩る悟浄を押さえ、逃れられないようにして口腔を貪る。
手を這わせればどこもかしこも柔らかく、牙を立て食らい付きたくなる衝動を抑えるのがやっとだった。
「こふっ・・・・・・」
舌を侵入させれば、幼い口内はそれだけでいっぱいで、直ぐに飲み下しきれない唾液が口端から零れた。
それを追い掛け、目に付いた耳朶をも甘噛みする。
「うん・・・」
シーツに散らされた赤い髪と、純白の羽根。
本当に天使を墜としめたようで、罪悪感と愉悦という相反する感情が交錯する。
ふと、押し潰された翼で背が痛くならないのかと、八戒は悟浄に声を掛けた。
「悟浄、背中・・・痛くありません?」
「へーき・・・・・・あぁっ!」
だた応えを聞く前にうつ伏せにし、その根元に接吻ければ、悟浄の口からは甘い声が零れた。
「ここも感じるんですか?」
物質として存在している以上、どういう仕組みなのかは解からないが、その根元にはかなりの数の神経が集まっているのだろう。翼と背中の皮膚の境を舐めれば、悟浄の体は面白いように跳ねた。
「ヤ・・・あ・・・は・・・かい・・・」
熱い吐息に混ぜるように、悟浄が名を呼ぶ。
その舌っ足らずな声音が愛しくて、八戒は悟浄の腰に腕を回し、僅かに持ち上げて膝を立たせた。
背骨にそって腰椎までをそろりと口唇で辿れば、耐えきれずに悟浄はシーツを噛み締める。
「悟浄」
それをやわりと外し、尾骨の上に歯を立て開いた片手を前へと滑らした。
「はっかい・・・はっかいぃ・・・・・・!」
膝を立てることによって暴かれた後庭を、舌で丁寧に潤す。
幼い雄は緩慢な刺激にも過剰に反応し、限界が近いことを知らせている。
「はっかい・・・」
悟浄が名を呼ぶたびに、八戒の視界の隅で白が揺れる。
痙攣するように震える翼は、はらはらとその残滓を散らす。
その震えが1段と大きくなった時、悟浄は八戒の手の中に幼い精を放った。
荒い息を整えられぬままに、脱力した悟浄は次の快楽を待つ。
だが、悟浄の吐息が落ち付いても、八戒の手は動こうとはしなかった。
「八戒?」
首を捻れば、痛ましそうに悟浄を見詰める深緑の瞳とぶつかった。
「ここまでに、しません?」
「八戒?」
「今ならまだ、間に合うんです。僕は悟浄を、壊したくない・・・」
その言葉を聞いた瞬間に、悟浄は怒りで目の前が真赤に染まる気がした。
『壊してもイイ』と言ったのは他ならない悟浄なのに。なによりも望んでいるのは、八戒ではなく悟浄自身なのに!
「っざけんなよ・・・!」
悟浄は怒りのままに体を起こすと、八戒の下肢に手を伸ばした。
「悟浄っ!」
「ん・・・く・・・」
限界まで開いた口の中には先端しか含めず、悟浄は苦しげに咽喉を鳴らす。
それでも離そうとはせず、小さな両手で幹を撫で上げた。
「っ!悟浄!」
眉根を寄せて静止の声をあげる、八戒の余裕のない声に、悟浄は舌先で押し出すようにして口を離した。
「ヤりたいのは、俺なの。一度やるって決めたからには最後まで付き合うのが礼儀だろ?大体なぁ・・・」
言葉を切って、ちろりと口端を舐める。
「簡単に壊れちまうほど、ヤワじゃねぇって」
ニヤリと笑って悟浄は再び顔を俯ける。
(完敗、ですね)
口に含む事を諦め、無心に舌を這わせる悟浄の背中に、「どうなってもしりませんよ」と諦めにも似た言葉を落とした。
「望むところだ」
悟浄が好戦的に応じれば、どこかで吹っ切れる自分がいた。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
八戒はぺろりと己の指を舐めて湿らすと、再び悟浄の後庭へと潜らせる。
「んぁっ・・・」
「やっぱり、キツいですね」
ゆるゆると押し広げ、残りの指で解すように撫でれば、悟浄の腰が自然と揺れる。
幼いくせに、いや幼いからこそ煽情的なのか。
「あんまり・・・持ち、そうにないから・・・・・・焦らすなよ」
慣らす行為すら苦痛になるほどの快楽に、体力のなさを自覚してか、悟浄は八戒の指から逃れるように立ち上がった。
片手を八戒の肩にかけ、もう一方の手は八戒へと添える。
その行動に慌てたのは八戒のほうだった。
「悟浄っ!いくらなんでもまだ無理ですよ!」
「へーきへーき。ガキの身体ってのは、結構柔らかく出来てるんだぜ?」
どこから仕入れたのか怪しい知識を口にすると、膝の力を抜いて八戒を内へと導いた。
「んくぅっ!」
「ほら!」
「大丈夫だって!」
入り口で苦悶の声をあげた悟浄を止めさせようと手を掛ける八戒を、一喝して退け再び埋めて行く。
ズルリ、ズルリと僅かずつだが包まれて行く感触に、八戒は眩暈にも似たものを感じていた。
一言で言ってしまえば『キツい』。むしろ痛いくらいに絞めつけられている。
なのに、それを与えているのが悟浄だと思うと、また別の感情が沸きあがって来るのだ。
少しずつ吐き出される熱い吐息。それに混ざる、甘い声。
(僕、どのへんに欲情しているんでしょうかねぇ)
『悟浄』だからか『小さい』悟浄だからか。同道巡りになりそうな自問自答に水を差したのは、やはり当の悟浄であった。
「な?全部入ったろ?」
言われて辿れば、悟浄の秘所は限界まで八戒を受け入れていた。
その、八戒の指の刺激に顎を仰け反らせながらも、悟浄は言葉を続ける。
「いつもよりも全然奥に入ってるからさぁ、オマエのが腹突き破って出て来そう」
ほら、と手を掴まれ、滑らかな腹に導かれる。
やわりと撫でれば、肩越しに見える悟浄の翼がふるりと震えた。
「この辺ですか?」
笑いを含んで臍の上を撫で上げれば、「そんなカンジ」と悟浄も笑う。
「すっげ、八戒でイッパイってカンジだよなぁ」
なんか、それってイイよな・・・と悟浄は再び八戒に抱き付き、緩く腰を揺らした。
「ヤらしいこと言いますねぇ」
くすくすと二人で漏らした笑い声は、いつしか甘い吐息の中に消えていった。
も〜、各方面にゴメン!ってカンジでしょうか(T-T)
夏コミに発行された『八戒至上主義・悟浄至上主義vol3』に載せて頂いた『天使になった日』の、削除された3行開き部分なのですが・・・半年振りに入った地下倉庫がこれかい!全然ゑろじゃないし未消化だしで大反省中です。このあと本編では泣き疲れて寝ちゃった悟浄を余所に、話が進められて行くのですが・・・悟浄『泣き疲れて』じゃなくて『鳴き疲れて』じゃん!とかバカなセルフ突っ込みしてみたり・・・。えぇ、悪いのは全て俺です(T△T) チャンスがあれば、もっとじっくりと裏を・・・(マテ)