〜引 き 金〜
ジープに乗ると心地よい風が吹き抜ける、その時紅が一瞬だけ視界を遮りつかめないまま流れていく。
しなやかな髪が風に靡くのを何時からか見ほれるようになった。
気持ちよさそうに目を細めて風を受けている悟浄が例えようもなく綺麗で・・・。
「なーに見てんだよ。バカザル」
グワシッと首根っこを捕まれる。
「だぁああ!バカザル言うなこのエロガッパっ!」
悟浄の腕をふりほどいていつもの如く応戦する。
その時風向きが変わってサラリとした感触が手に触れる。
「・・・・・」
「どーした?」
止まってしまった悟空をのぞき込むように悟浄が首を傾げると、まるで音を立てそうな程優雅に流れ落ちる。
無意識に手が出た。
「いてっ!」
髪を引っ張られる痛さに顔をしかめるがそれよりも悟空の行動が理解できなかった。
「なにするんだっ!」
悟浄の髪の感触を楽しむように触ってくる悟空を押しのけようとする。
「悟浄の髪って綺麗」
突然の悟空の言葉に悟浄は固まる。
「すっごいサラサラ♪」
楽しそうに触っている悟空を前に悟浄は何も言うことも出来ずにされるがままになっていた。
抱きつくような姿勢で髪を弄んでいる悟空に悟浄はため息を吐き出す。
「お前だって長かっただろうが・・・」
「うん、ずーっと前ね。」
今はもう切ってるけどね、と笑う悟空に悟浄は渇いた笑いを浮かべる。
確かに出会った頃は長い髪だった。後ろで一つに束ねて流していた。それは記憶にある。
しかし髪の長い悟空を見たのは最近のことである。三蔵の怪我のためプッツンきた悟空が封印を破壊した・・・その時。
まぁ、記憶に無いだろうけどな・・・と悟浄は心の中で呟く。
アレだったらそこそこいけてる男になるよなぁと悟浄は笑みを浮かべる。今はまだガキっぽいが後数年したらそこそこの男に成長することは間違いないだろう。
・・・バカなのは変わらなそうだけど・・・。
黙ったまま笑みを浮かべている。
それを見咎めて悟空はモヤモヤした気持ちを抱きかかえた。
悟浄って時折何考えてんのか解んないんだよなー・・・悟空はそう思うと悲しい気持ちになった。何時も近くにいると感じるのに不意に遠くに行ってしまう。まるでそれが当たり前なんだと言わんばかりに・・・、それが無性に悔しかった。
「・・・っ・・・悟空っ!?」
悲鳴を上げそうな程の痛みを堪えて敵であるはずの姿を見て悟浄は激しく困惑した。見慣れた金鈷が闇の中に浮かぶ・・・なのに・・・その背にかかる髪は・・・。肩から流れ落ちるシルエットに唯驚くしか無かった。
「うぁっあ・・・っ・・・」
ベットにうつぶせのまま肩が砕けそうなほど押さえつけられると布の引き裂かれる音が背後で聞こえる。
聞こえるだけなら良かった・・・自分がそう言う目には合いたくない、悟浄は自分の身に起こっていることに恐怖を感じた。外気が肌に触れるのが痛いほど解る。
屈辱感という程度の問題ではなかった。
「ひっ・・・くぁあああああっっっ・・・!!!」
激痛が体を蝕む。予想できた事だがそれを軽く上回る痛みに意識が飛びそうになる。強くシーツを握りしめた指が血の気を無くして白くなる。
「っう・・・あっ・・・」
息をするだけで痛みが走る。引き裂かれて無理矢理埋め込まれたもののハッキリとした存在感が悟浄の抵抗を封じていた。こぼれ落ちる涙が頬をぬらすがそれに構っている余裕は何一つ無かった。
「やめっ・・・うぁあっ・・・」
動く気配がしたと同時に根こそぎ気力を奪われそうなほどの痛みに悟浄は食いしばりきれずに悲鳴を漏らす。
切れたためか動くたびに湿った音が悟浄を苛む。
痛みのためにハッキリしている意識が身体の隅々までに耐えきれない嗚咽が漏れ、絶え間なく涙が流れ落ちる。
ただ、早く終わるのを待つばかりだった。何が悟空にこうさせているのかは解らないが封印が解けた悟空にかなうはずが無いことを悟浄は身をもって知っていた。
ドクンと脈打つ音が体内で響く。奥に放たれた感触を感じて悟浄は力を抜く。崩れ落ちるままにベットに横たわる。
「やだっ・・・やめっ・・・」
終わったと思っていた悟浄を悟空は乱暴に返す。正面から見る事になった悟空に悟浄はなすがままであった。
だけど、怖くて悟空の表情を見ることが出来なかった。
どんな顔をしていても・・・知っている悟空じゃないから・・・。
割開かれた足の間に顔を埋める悟空に身を強ばらせる。
「ぅん・・・・あっ・・・はぁ・・・ん・・・」
先程とはうって変わった優しい愛撫に悟浄も快楽を引き出される。
悟空の口に含まれた自身をなぞる感覚に耐えきれず腰が揺れる。
「いっ・・・やぁ・・・」
悟空の放ったもので潤っているそこは難なく指を受け入れる。しかし、乱暴に扱われたため動かすたびに痛みが走る。
快楽と痛みを同時に与えられ悟浄はむせび泣きながら悟空にしがみついていった。
それでも次第に快楽に落ちていく悟浄を悟空は何故か満足そうに見ていた。
「・・・悟浄」
意識が遠のく前に呼ばれたような・・・気がした。
優しい・・・少しだけ大人びた声で・・・。
目が覚めたとき清潔なベットで寝かされていた。
隣りに置かれている椅子に真新しい服が置かれているのと体を僅かに動かすたびに走る痛みが昨晩の出来事を現実の事だと教えて悟浄はいたたまれない気持ちになった。
何故封印が解けたのか・・・何故悟空があんな事をしたのか、いくつもの謎が残るが悟浄は考えたくなかった。
・・・何も・・・ だが、そうはさせてくれない。扉が軽くノックされて開く。
「・・・三蔵」
悟浄は自分が僅かながらに安堵の息を吐いたのを自覚した。
痛みを堪えながら上半身を起こす。
相変わらず不機嫌な顔をしているが今は輪をかけて不機嫌だった。
「悟空の髪・・・」
結局俺から口を開くことになった。沈黙って奴が苦手なんで、ね。特にこういう場合のは・・・。
「元の長さだ・・・」
隣部屋で眠っていたはずの三蔵達に聞こえないわけは無かった。それでも部屋に踏み込んでこなかったのは、誰を思ってのことなのか・・・。
全部筒抜けなのに、今更虚勢を張る必要もないのが唯一の救いだった。
「そう、か・・・」
覚えているのか、という質問を飲み込んだ。聞きたい反面、聞きたくなかった。
どういう答えが返って来るにしても・・・なんと返事をしたらよいか迷ってしまう。
「少なくとも出発は明日だ。」
三蔵の冷静な声が俺を冷静なままで居させてくれる事に感謝した。さすがに・・・取り乱したくない。
「わりぃ・・・」
困ったような笑みを浮かべる悟浄に三蔵は
「お前のせいじゃないさ・・・」
それだけを言って出ていこうとする。
「悟空が・・・」
振り返らずに言う三蔵の言葉の先を予測して最後まで言わせない。
「解ってるから・・・」
泣きそうな声だった。余りにも情けなくてよけいに・・・。
「好きにしな・・・」
精一杯の三蔵の優しさなのだろう・・・そのまま立ち去る三蔵に音のない問いを投げかける。
「悟浄は・・・」
戸の横で座り込んでいる悟空が三蔵を見上げる。
後悔している表情だが、決して泣いているわけではなかった。
「普通だ。」
それ以外の答えがあるのかと言わんばかりの態度に悟空は困ったような笑いを浮かべる。
「あってもいい?」
それが一番の問題だった。会いたくないと言われても仕方がないことを自分はしたのだから・・・、それが自分の意識外だったとしても・・・。
ちがう、意識してた・・・悟浄に触れていたかった。悟浄を自分だけのものにしていたかった・・・だから・・・。
「それは、悟浄が決めることだ・・・」
そう言い残して三蔵は立ち去る。その後ろ姿を見ながら悟空は意を決して立ち上がる。
「悟浄に・・・言わなきゃ・・・」
笑って欲しいのに泣かしてしまった・・・酷いことをして許されるとは思っていないけど・・・それでも・・・悟浄の側に居たいから・・・。
「悟浄・・・」
ノックをする。扉を開ける手が震える。
早鐘のように打つ心臓が胸を突き破るかというほど激しい痛みを抱えながらも精一杯の虚勢をはる。
背を向けて横たわる悟浄の側に立つ。触れようとのばした腕を力無く降ろし、きつく握りしめる。
触れることは出来ない・・・悟浄の許しがあるまでは・・・。
「・・・覚えてんだな。」
ポツリと悟浄が漏らす。
「うん・・・」
覚えてる、俺が悟浄にどんなことをしたかを忘れるわけがない・・・。
忘れとけば良かったのにと言外に聞こえる悟浄に謝る。
「悟浄・・・触れても良い?」
「やだって言ったらどうする。」
いつもの茶化した口調に悟空は楽になるのを感じた。
肩の力が抜ける。
「触れない」
きっぱりと言いきる。悟浄を傷つけるぐらいなら触れない。
クスリと笑う気配がする。
「ばーか・・・」
体を向けようとして痛みが走ったのか顔をしかめる悟浄を優しく抱きしめる。
「悟浄が好き・・・大好き。」
閉じこめていた想いが溢れ出す。自覚したばかりの想い。
好きだから側にいたかった、好きだから悟浄が・・・欲しかった。
「泣くなよ・・・卑怯だろ・・・」
泣かれたら怒れないじゃんかと悟浄が困った顔で笑う。
その笑顔を見て悟空はホッとして笑みを浮かべるが瞬間的に崩れ落ち、そのまま眠りにつく。呆れたように悟浄は悟空の頭をポンポンと叩く。
「泣く子とガキには逆らえねーってか・・・洒落になんねーぜ・・・」
(花詠様コメント)
はい、結局甘ーく終わらせていただきました。
もう、こうなったら気合いですね。
酷いままで終わらせたくなかったので 延々と書き綴ってしまいました。
全然、リクエストになってませんね。でもコレが限界・・・。
鬼畜が書けないことが判明した・・・途中まで順調だったのにね。