■ 一年目と今と ■



「ごーじょーお♪」
久しぶりにデートの約束もなく、部屋でゆっくりしていた悟浄はその楽しげな自分を呼ぶ声に思わずびくっとした。
窓を向いている机のいすに座っていた悟浄は、おそるおそる自分の部屋のドアを振り返ると、そこにはにこやかな笑顔をたたえた八戒がエプロンをして立っていた。
「あ〜、なんでそんなに露骨にいやな顔をするんですか?」
八戒はすねた顔をしている。
「オマエなぁ、うちに来てからもう1年も経つんだから、いい加減、俺の味覚が狂うようなものを食わせるのは勘弁してくれ」
そう、八戒は極度に料理が下手だったのである。
「だから、1周年なんですよ、今日で♪」
「は?」
「今日で、僕がここに転がり込んでからちょうど1年なんです!」
ぽんっと、こぶしで手のひらをたたき、納得したような顔をする悟浄。
「それは良かったな」
単純な答えのみで窓の外に視線を戻そうとすると、
「当然ごちそうを用意しましたので、食べてくださいね」
ほれたとはいえ、いい加減、悟浄もげんなりしてきていた。
「食べないとダメ?」
「ダメです」
これ以上のない笑顔を浮かべられては悟浄も立つ瀬がない。
「わ〜ったよ」
しぶしぶ、席を立つ悟浄。
「さ、さ、いきましょ。何てったって、1しゅうねんですから♪」
その後、悟浄邸の食堂に悲鳴が聞こえたかどうかは定かではない。

・・・

「やっぱ、八戒って料理うめーよなぁ」
悟空が舌鼓を打ちながら、八戒の作った夕飯をほおばる。
「あのころの味を経験させてやりてぇな」
ぼそっとつぶやいた悟浄の声を八戒は聞き逃さなかった。
「何か言いましたか?悟浄」
「イーエ、何にも」
すました顔でそっぽを向く。
八戒は思わず苦笑する。
「あのころは大変でしたからね」
3人の前ですでに食べ物しか目に入らなくなっている悟空を見ながら悟浄と八戒は思わず目で会話してしまうのだった。




ZIN様より頂きました、1周年お祝小説です♪
実は八戒さんが料理下手説!ちょっと爆笑してしまいました。
目で会話する二人がイイ感じです。ZINさん、ありがとうございます!



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