ZERO


 悲しいくらいに覚えている。何匹殺したかなんて、知らない。
 ただ、あの人を助けたかった。何を引き替えにしても・・・

「じゃあさ、今の名前は?」
「八戒、です」


 八つの戒め、何をそんなに戒めるのか。「悟能」の名を捨てることにはなったけど、それ以上に大切なモノを手に入れたのに。
 髪が短くなっていた悟浄、それが自分のせいなどとは自惚れていないけど、でも、だからこそ、新しい関係を作りたかった。


「・・・ってなぁ!」
「おや、どうしました?」
 下から睨み上げる悟浄に、にっこりと返事をする。
 既に同居を決めた悟浄の家。悟浄のベットの上で悟浄を押さえつける形で、この台詞。
・・・この状況で、「どうしました」は、無いだろう。
「何で、こんな事になってるんだ?」
 どう見ても、これからプロレスをやろうとする感じでもなければ、何か相談事でもあるような体勢では、無い。
「分からないんですか?」
 分からなくはないが、分かりたくないっ!
「あの、俺、眠いんだけど」
 再会した祝いにと、ガンガンに酒を飲んでいたのはついさっきだ。
「あぁ、お気遣い無く。こっちは勝手に楽しみますから」
「はぃ〜〜〜?」
 こいつ、絶対性格変わった。何か、やけに楽しそうに自分を見ている。どころか、
「んっ・・・」
 不意に顔が近づいたかと思うと、唇をふさがれてしまう。
 酒が入っているせいか、微妙に身体の力が入らない。それに気が付いてか、八戒は更に深く舌を絡ませてくる。
「・・・本当に、分かりませんか?」
 いきなり長いキスを贈られて、それがとんでもなく気持ちが良かったりするものだから、悟浄は思考がまとまらない。
 ただ、分かるのは、八戒の縋り付くような眼。
「・・・・しゃぁねぇな〜」
 こんな眼をされたら、悟浄は振りほどけない。
(つけ込んでいるのは、分かっているんです)
 それでも、欲しかった。自分がここにいるという、現実。あの時、もう会えるとは思えなかったから。
「俺は高いぜ」
 溜息ひとつで、本来の調子を取り戻した悟浄は、挑発するように八戒の顔を覗き込む。
「明日の夕飯は、任せて下さい」
 了承は、キスひとつ。悟浄は完全に力を抜いて、八戒に身を任せた。


「・・はっ」
 しつこいくらいに八戒の唇が、鎖骨から首筋を苛む。気が付くと服は完全にはぎ取られ、今は無防備な胸の突起を弄ぶ。
 見た目よりも更に細い肢体。かといって、骨張っているわけでもない。しなやかな筋肉の流れをたどれば、時折びくっ、と身体が震える。
「も・・・ぅ」
 息が、上がる。古傷がほんのりと赤く染まり、これ以上はないくらいに八戒を刺激する。
「悟浄・・・」
 触れ合う肌が熱い。最初に火を付けたのは、自分。だが、今となってはそれすらも関係ない。
「は・・っか・・・い」
 うっすらと目を開けて、悟浄は確かめるように八戒の名前を呼ぶ。これから、多分一生呼ぶことになるだろう名前を。
「ご・・じょう・・・」
 快感の果てに聞こえた声は、とても安心していたようだった。


「で、そうなるわけか」
 その後、再び三蔵と顔を合わせた瞬間、言われた言葉。心なしか、背後が寒い。
「まぁまぁ、ちゃんと節操はありますから」
「おいっ!!」
 平然とした顔で八戒は答え、その言葉に悟浄は焦る。力関係は、聞かなくても分かるというものだ。
「ま、お前らの勝手だがな」
 そう前置きしてから、
「俺の前で、少しでもいちゃついたら、殺す!

・・・・・お後が宜しいようで。




だから何だ、といわれても・・・ま、ある意味「真のやOい」、ということで・・・


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