みちのはしっこに座り込んで。 八戒さんちのぽ○とぺっと・ごじょうちゃんは、泣き出す5秒前くらいの表情で、じっと自分のお洋服を見ていました。 …でも、ごじょうちゃんは男の子です。泣いたりなんか、しないんです。 きゅっと唇を結んで、鼻をすすりあげます。 はやくお家へ帰ろう。八戒のところへ。 八戒の優しい笑顔を思い浮かべれば、ごじょうちゃんに辛いことなんか何にもありません。 なにせお脳がちょろくできてます。 「…でも、はっかい、きっとおこる…」 八戒が着せてくれたお仕事着を、汚してしまったから。 それも、八戒の言いつけを守らなかったから。 そう思ったら、また泣きたくなってきてしまいました。 でもいつまでもこんなところにはいられません。 あたりもだんだん、暗くなってきてしまいました。 そんな、矢先。 「――邪魔ですよ、人の家の前で座り込むなんて」 どきなさい、と、冷たい声が、頭の上から降って来ました。 思わず身を竦ませて、見上げたごじょうちゃんの目に飛び込んできたのは、見たことのない男のひとでした。 ――きれー…。 ごじょうちゃんはぼんやりと、そんなことを思ってしまいました。 天下の公道なのに、いまどきちょっと見ない便所下駄に、白衣なんか着てるけど、すごく、すごく、綺麗なひと。 …はっかいに、ちょっと似てるかも。 その八戒に似てる人に怒られてしまって、ごじょうちゃんはますますしゅんとなってしまいました。 「ごめんなさい」 「…いいんですよ。それより、そんなところに座りこんで…どうしたんですか?」 先ほどより、ずっとずっと優しい声に、ごじょうちゃんはようやく顔を上げました。 綺麗な顔した男の人は、名を天蓬といいました。 ごじょうの飼い主・八戒もそうですが、彼は彼で倒錯した趣味の持ち主で、けんれんと名付けられた自分のペットに夢中でした。はっきり言って自分の世界は本とけんれんだけ、他はどうなろうともあまり構いません。と言い切るとおり、綺麗な容姿と卓越した頭脳をもちがなら、他人に関わることしませんでした。 その、ある意味冷たい天蓬が、ゴホンと一つ咳払いをして、ちいさなごじょうちゃんの前に膝を折ました。 そして、汚れた服に、思いっきり顔を歪めました。 「これは……」 「うん、あのね、さっき、しらないおじさんが…」 それは、つい先ほどのデキゴトでした。 今日三蔵のところへいった。 ごくう(ちなみにハムスター/笑)とあそんだ。 一回なぐられた。 エラーがでるほどなでられた。 ひみつ日記にするとこんな感じ(笑)でお手紙を届けに行き、その帰り道。ごじょうちゃんは、じっと自分を見ているひとに、気がついてしまいました。 お脳のちょろいごじょうちゃんは全く気が付いていませんでしたが、実は三蔵さんちの前からずーーーっとつけていたらしいです。 (八戒さん家の付近をうろうろしていて、みつかると、死の危険があります。いやマジで。故に、ごじょうちゃんを観察したいのなら、よくおつかいにくる三蔵さん宅を張ったほうがはるかに安全なのです。) そのひとは、なんだか、様子が変でした。 じっとごじょうちゃんのほうを見て、は〜は〜言いながら、前かがみで電柱に縋っているのです。 目が血走ってます。 ごじょうちゃんは可愛らしく小首を傾げました。 「おじさん、どーしたの?」 おじさん、は、ごじょうちゃんが側に寄ってきたことに、飛びあがらんばかりに驚いていました。 電柱にしがみついて、のぼっていかんばかりです。 「…ちょっと具合が悪くてな…」 「だいじょうぶ? さんぞー、よんでくる?」 「いや、それはマズイ! …じゃなくて、大丈夫だ、すぐによくなるから」 「そうなの? でも、なんか、いきはーはーしてる。どこかいたい?」 「いやいや、本当に大丈夫だ!」 「どうしたの? …ここ腫れてるの? いたい?」 「…ちょっと…いたい……かも…」 ここ、とはソコです(笑)。 ズボンの上から撫でられて、おじさんはだらだらと汗をかいています。 それが何であるか、意味がまったく解からないながらも、かなりつらいのかもしれないと思ったごじょうちゃんは、持ち前の優しさから、息を荒くしている男を、ちいさな手でなでなでしてあげました。 「うぅっ、ご、ごじょ…」 「…もっとはれてきた。おじさん、へいき?」 きらきらお目目を心配そうに曇らせた、ごじょうちゃんの顔を見れば、邪心などないことはまったくもって疑う余地もありません。 お馬鹿極まりないですが、それが子供相手の美味しいところでしょう。 …上手く言い含めれば、犯行は隠蔽できそうな気分です。 おじさん、は、開き直ったみたいです。 周囲に誰もいないことを確認すると、 「……そ〜さな〜…直に触ってくれたら、治るかも…な〜んて」 などと、ちいさなペット相手に、とんでもないことを抜かしました。 「そぅなの?」 「そうかも。…ほら、触ってみろ?」 かちゃかちゃ、じ〜…。 ズボンからとびでてきたものに、ごじょうちゃんはどうしていいかわからなくなってきてしまいました。 …それにしても人通りの少ない道とはいえ、大胆極まりないことです。 「ええと、」 「痛いな〜、ああ、痛い…」 ごじょうちゃんが慌てて、いたいのいたいのとんでいけ〜♪と、健気な様子で一生懸命撫でました。 小さな手が汚れて、汚れ果ててしまったころ、ようやく。 「うっゥ」 と男のひとはひと声うめくと、はれあがった部分(笑)から、白いどろどろしたものを吐きだし………… 「わ〜〜〜〜ん!!」 ごじょうちゃんのお洋服を汚したのでした。 一目散に逃げ出してしまったごじょうちゃんを、そのおじさんは追いかけることができませんでした。 「……その人はひょっとしたら、目を片方眼帯で隠していて、頭がオレンジ色でつんつんしてました?」 「うん」 こくりと頷くごじょうちゃん。 皆まで聞くまい。 「ちょっと前に、けんれんを盗み撮りした咎で、半殺しにしてやったのに…懲りてないんですねえ…」 殺そう、すぐ。 天蓬はめちゃめちゃに深い溜息を一つつくと、ごじょうちゃんを自分の着ていた白衣で包み、ひょいと抱き上げました。 「そのキタナイものをなんとかしましょう」 「でも、はっかいが…」 「御主人のことですか? でもそのまま、帰るわけにもいかないでしょう?」 抱き上げられたせいで、ひどく近い位置にある、綺麗なおかお。 ごじょうちゃんは、ちょっとあかくなってしまいました。 「?どうしました?」 「あのね…」 もじもじと照れてはにかむように笑うごじょうちゃんに、何だか天蓬も照れてきてしまいます。 「おにいちゃん…はっかいに、にてる」 「そうなんですか?」 「うん」 えへ、と笑うごじょうちゃんに、天蓬もくらくらしてきました。 なんたってごじょうちゃんは可愛いのです。 八戒が可愛らしさを日夜追及をした成果が表れています。 そして、不意に思い出しました。 ごじょうちゃんを、らしくもなく拾ってみようと思った理由。 「僕のところにも、ペットがいるんです。…けんれんっていうんですがね…。君に、そっくりなんですよ」 ぱっとごじょうちゃんの顔が輝きました。 「おともだちに、なれるかな?」 「ええ、きっとなれますよ」 天蓬もにこりと笑いました。 想像するだけで楽しくなります。 けんれんと、そしてこの子が一緒に戯れるさまは、きっと素晴らしく幸せな光景になるでことでしょう。 ごじょうちゃんはますます赤くなりました。 だって、天蓬は、ちゃんと笑えばそれは綺麗なのひとなのですもの。 ――だからこそでしょう。 ごじょうちゃんは、瞬間的に飼い主・八戒のことが頭からぬけました。 『知らない人の言うこと聞いちゃ、ダメですよ…?』 さっきオレンジ色のつんつん頭さんから、学んだばかりだというのに。 やはり、ごじょうちゃんのお脳はちょろいようです。 「おかえり、てんぽ〜!」 天蓬の膝めがけて飛んできた、噂のけんれんくんは、猫でした。 ごじょうちゃんは猫型の子は初めて見ます。 けんれんくんも驚いたのか、おっきな鳶色の目を更におっきくしています。 「だれだ?」 「こんにちわ、ごじょうっていうの」 「ごじょう?」 「うん!」 にこっとごじょうちゃんが笑うと、けんれんくんもにかっと笑いました。 「ごじょう、こっちへいらっしゃい」 ネコセット(標準)部屋の隅に設置してある、小さな盥にお湯を入れ、天蓬はごじょうを洗おうとして…じっと背中を見ているけんれんに気が付きました。 …どうやら、帰ってきてもごじょうばかりに構うので、少々淋しくなっちゃってるようです。 天蓬としては、不愉快に汚された物を、一刻も早く捨て去りたい思いでいっぱいだっただけなのですけど。 一つ、嫌ではない溜息が、天蓬の口から漏れました。その証拠に、天蓬の口元は少し笑っています。 「けんれんも、いらっしゃい。綺麗にしましょうね」 「うん!」 どぶんと飛び込んだ二匹は、もう仲良しみたいです。 きゃぅきゃぅと泡だらけになって狭い盥の中でじゃれあう姿を見て、天蓬は呟きました。 「…眼福」 自画自賛モードです。 ちびっこが裸で戯れるさまは、想像以上でした。鼻血吹きそうです。 ですがそこは天蓬、ぐっと息を止めて耐え、ここはじっと鑑賞することにしました。ビデオカメラを探しに行く間も惜しいのです。 「おれ、外でたことないから、だれかにあうのって、はじめて。すげえぜ!」 けんれんくんはちょっと興奮したように笑います。 「おしごとは?」 「けんれんには、必要ないですよって…」 「そーなのか?」 「うん。てんぽうのそばに、ずっといるのが、おれの仕事なの…」 けんれんくんがちょっとだけ淋しそうに笑いました。 それはそうでしょう。 ごじょうちゃんたちぺっとは、毎日お仕事が楽しくてしょうがありません。そう感じるように育てられているのです。 それなのに、けんれんは、外にでることすら稀だというのです。 じゃぶじゃぶとお水で遊びながら、ごじょうちゃんはありもしない知恵を絞って、考えました。 「えっとね〜。コレ、ごじょうのおうちのばんごうなの!」 ごじょうちゃんは水から飛び出すと、ぽい、してあったお洋服のぽけっとから、小さな紙片を探しだし、けんれんくんに渡しました。 紙の隅っこがちょっと濡れてしまいましたが、気にしません。 本当はひみつ日記を書いたときに使う、大事なアドレスなのですけど。 「ごじょうとあそびに、きてほしいの!」 「………いいのか?」 「うん! …いや?」 「嫌じゃない。えへへ」 うれしー。 けんれんくんは、にこりと笑いました。 それはもうかわいらしい、向日葵みたいな微笑みでした。 大事に『ひみつアドレス帖』(笑)を宝箱に入れるけんれんくんに、ごじょうちゃんもうれしくなります。 「うれしー? じゃあ、ごじょうもうれしーよ。はっかいもやさしいから、きっとだいすきになるよ」 「はっかい? おまえの飼いぬしか?」 「うん! すっごくやさしくて、ごじょうのだいすきなの!」 「て、てんほうだって、やさしーぜ?」 えへへ、と笑うごじょうちゃんに……けんれんくん、ちょっとだけ語尾が弱いです。 「はっかいだって、やさしいもん!」 「やさしくなくったって、おれ、てんぽう好きだし!」 「ごじょうだって、はっかいがだいすきでだいすきでだいすきなのーー!」 「おれだって、おれだって、てんぽうちょっとときどき臭いけど、イジワルするけど、だいすきだもんっ!」 ざぶーん! ごじょうちゃんとけんれんくん、水の中で大暴れです。 端で見ていた天蓬は、けんれんくんの言葉に頬を引きつらせましたが、まあ微笑ましい子供の遊びだろうと、手を出さずにおりました。 「きゃう!」 「…あ!」 …けんれんくんはねこです。 遊びに熱中すると、爪がでてしまうことがあります。 今まで他のペットと遊んだことのなかったので(何せ、天蓬に手紙を出そうとする人間は数少ないので)力加減がイマイチなのです。 幸い、ごじょうちゃんの傷は深いものではありませんでした。 皮が一枚ひっかかった程度です。 ただ、びっくりしたのでしょうか、目がまんまるになっちゃってます。けんれんくんの耳が、しょぼーんと寝てしまいました。 「ごめん…」 「いたくないよ、だいじょうぶだよ!」 ごじょうちゃんはなんだかそれが気の毒になってしまって、けんれんにぎゅってして、耳をちょいちょいと撫でてみました。 耳がぷるぷるっと震えて、水を弾きます。 「ごじょうはへいき。だから、けんれんもへいきなの」 ね?と笑うごじょうちゃんに、何を思ったか、けんれんくんはキズをぺろん、と舐めました。 「わあっ!」 「痛い?」 「…ううん、いたくないよ!」 けんれんくん、その反応が面白かったのか、ぺろぺろとごじょうちゃんをどんどん舐めちゃいます。 「くすぐったいよぅ」 おかえし!と、今度はごじょうちゃんがけんれんくんを舐めたり齧ったり。 ネコの子のお遊びと変わらないようです。こうやって遊びながら、力加減や相手を押さえつけるコツを、動物は覚えて行くのでしょう…。 きゃははははと、明るい笑い声と、ぱちゃぱちゃと水音が聞こえる中……一人天蓬が、不審でした。 血溜まりを足元につくってしまっています。 「? てんぽー?」 「…な゛ん゛でもありまぜん…」 天蓬、不覚にも忍耐極まりました。鼻血です。 けんれんくんの告白&あまりに可愛らしい二人の行為を見てしまったせいでしょうか。 それとも、そうとう、溜まっているみたいです。 ちょっと失礼します、と言ってそそくさと出て行く天蓬を不思議そうに見送りました。 ――のちに、天蓬がその部屋にビデオを何台も設置させたのは、また別の御話になります。 以来、ちょくちょくとごじょうちゃんはけんれんくんのところへ遊びに行くようになり…そして、けんれんくんはめったにごじょうちゃんのところへは来ませんでした。 天蓬の妨害です。 そもそも、八戒がごじょうちゃんが天蓬のところへ行くのを許すはずがありません。 でも、天蓬は言葉巧にごじょうちゃんをつれだし、そして、ごじょうちゃんが遊びにくるたびに、1日2日と、お泊まりすることをさりげなく決定してしまうのです。 その度に悲嘆にくれ、文字通り土下座して頼む八戒を苛めるのに、天蓬は密かな楽しみを見出していました。 「お願いですから、ごじょうを返してください〜〜」 「ど・ぉ・っし、よっかな〜♪」 「はぁ?」 「いえ、何でもありません」 浮かれ捲くった天蓬です。 近親憎悪、同族嫌悪とでもいうのでしょうか。 どうにも、天蓬は八戒のことが気に入りませんでした。 ……ようするに、自分を見ているようで嫌なのです…。 「今なら、ごじょう&けんれんお昼寝ビデオ、お手頃価格で…と言いたいところですが。もうこのかわいらしさには値段もつけられませんね。…どうします?」 「か、買わせていただきます…」 「いえいえ、差し上げますよ〜v ごじょうがいない一人寝を、これで紛らわせてくださいねv」 「……(涙)」 終わってしまえ。 鎖骨様より戴きました、ポ○ペネタ第2段!奪い取ってしまいました!(マテ) 相変わらずの(というよりはグレードアップした)ちょろいお脳のごじょうちゃん。今度はネコのけんれんくんとラブラブです。あぁもう、可愛いったら!天蓬さんじゃなくても床に血溜まり作ってしまいますよ。八戒は可哀相だけど、やはり天蓬さんの方が現役軍師だけあって上手なのですね。くは〜、本当にありがとうございます!機会がありましたら是非また!(<コラ) |