カチ。 カチ。カチ。カチ。……。 一秒毎に刻む秒針。いつもと同じその時計の針を見て、知らずに笑みが浮かんだ。 「今年ももう、終わりですねえ」 片付けを終えた八戒がダイニングから戻ってくる。 新年に向けてカウントダウンを始めるテレビ。 男にしては、細くてキレイな指がウイスキーグラスの縁に触れた。 「おう、とりあえず今年一年お世話サマ」 「はは、こちらこそ」 軽く腰掛けて、見るとも無いテレビから視線を外して八戒が答える。 「来年もよろしくお願いしますね」 来年。 言葉が、妙に頭に残った。 今まで、誰かと居る事なんてなかったから。それが当り前になって、そんな自分が不思議なくらいだった。 「――なんか、イイよなぁ」 「はい?」 呟いた言葉に、何の事か、と八戒が尋ねる。 それを浮かんだ笑みのまま、見つめ返して 「来年も一緒ってコトじゃん?」 簡単な約束とは違う。 当り前のように交わす挨拶が、自分には今までなかったから。 「違いますよ、悟浄」 コト。とガラスの底が音を立てた。 「え?」 「さ来年も、そのつぎも。ずっとです」 笑顔は変わらないのに。その声音がいやに真剣に聞こえた。 癖なんだろう、そんな空気を誤魔化すようにわざと茶化して言ってみる。 「 "この命果てるまで"?」 ナニコレ。少女シュミぃー。 自分で突っ込んで、うやむやにしようとした。本気のコトバは苦手だから。 でも、八戒の答えの方が早かった。 「 "この命果てても" 」 ・・・・・・・・・・・・。 解っているんだと思った。 見透かしてて、答えてくれている。 苦手。苦手だけど…。 「ずっとです」 触れてくる、指。 ―――言葉ほど、信じてるわけじゃない。 カチ。 『 A HAPPY NEW YEAR ! 』 付けたままのテレビに映ったアナウンサーが、新年を告げる。 軽く触れただけの唇が動くのが視界に入っていた。 「悟浄」 ―――それでも、目の前に居る相手の事は 「明けましておめでとうございます」 ―――信じたいと思った。 紗博様より頂きました、お正月記念小説です。 間がね、凄く綺麗だと感心してしまうのですよ。 悟浄と八戒のしっとりとしたお正月が何とも言えず素敵です。 紗博様、本当にありがとうございました♪ |