碧眼の男を拾って、もう3日が過ぎた。
俺に「殺せ」と、瞳で訴えていた血ダルマ男を。
ヤツを助けてからは、雨が絶え間なく振り続いている。
(…雨男かよ…)
俺は窓際に腰掛けながら、溜め息が、一つ。
雨は嫌いだ。鬱陶しいだけでなくて、余計な記憶まで引っ張り出しやがる。
「…チッ」
俺は小さく舌打ちをすると、突然頭上から声が降って来た。
「どうかしたんですか?悟浄さん。」
「別に…ただ雨が鬱陶しいなーって思ってただーけ。」
ちょっとおどけながら、すぐ後ろまで来ていたヤツの隣をすり抜ける。
コイツのオットリのほほんとしつつも、整ったツラは正直言って苦手だ。
それよりも、何よりも苦手なのは…
― 碧 眼 ―
ふざけているのか、天然なのか解らないジョークや何気無い会話でもその瞳は時に鋭く、まるで俺の何もかもを見透かすような視線を投げ掛ける。
見られたくない事まで見透かされそうで、だから俺はコイツを拾ってからは眼を…合わさないようにしている。
ヤツとすれ違う時に微かにコーヒーの香りがした。
気を利かせて入れてくれたんだろう。ツライ身体でムリしやがって。
でも、それを受け取るということは、この場でコイツと向かい合いながら
くだらない話をして、コーヒーを啜ることになるだろう。
そうなれば何時までも眼を逸らしておくのは限りなく不自然だ。
俺はコーヒーに気付かないフリをして、自分の寝室へ足を運んだ。
居間を出る時に名前を呼ばれたが、それにも耳を塞いで…
月明かりなんてモノには程遠い、暗い窓の下で俺は、壁に凭れながら煙草を一息吸った。
喉から肺へと伝わる、ググッと喉を抑えつけられるような感覚の後、静かに、煙を、吐き出した。
美味くも無いのに「美味い」と思う。老けたね〜俺も(苦笑)。
ただ、この味と感覚に酔っている。
クスリと似てんだよな…「たまんねー」ってトコロはSEXにも似てんのかもな…
…煙草とSEXを一緒にしちまうなんて…俺らしスギー。
唇の端が、微妙に持ち上がる。
SEXか…最近しちゃいねぇな。アイツを拾ってからは女を連れ込めねーし。
自家発電…しちまうか。
カチャリとベルトの金属の厭らしい音が、狭くて暗い部屋に響く。
チャックを引き下ろし、狭い窓から苦しそうに顔を出す俺の分身。
既に膨張したソレは熱く、握ると更に大きく硬く変化した。
「…うっ…」
久し振りのゾクゾクした感覚が背中から一気に駆け上がる。
…そう。この感覚だよ。俺の好きな感覚…
そっと撫でて、強く握って、また優しく撫でて…
根元から先端へ何度も搾るように揉み上げる。
「あ…ハァッ…んゥ…」
もう…ちょっとで…!
イきそうな俺の肩を、誰かが突付いた。
「悟浄さん、ちょっと良いですか?」
「だぁぁッ!!」
思わず飛びあがって慌てふためいた俺を、コイツはいつものノホホンとした顔で俺を見ていた。
「今日の晩ご飯なんですが、何が食べたいですか?」
……………脱力。
「そんなん、何でも良いだろうが。俺は取り込み中なんだよ。」
股間の隙間を隠しつつ立ち上がった俺を、コイツはずっと視線だけで追う。
「溜まっているのでしたら、手伝いましょうか?」
「なっ…!?」
コイツの言うのが早いか、俺の言葉が遅いのか解らないが、俺はコイツに冷たい床に押し倒されていた。
「だァ!テメェはホモかよ!」
「違うと思うんですけどね。でも、先程の貴方を見て欲情したのは確かですよ…」
ウットリと言うコイツの眼は、マジだった。
俺の股間辺りに当たる硬いイチモツは、グイグイと押し付けられて…
一度は萎えてしまった俺のソレも、連鎖反応のように再び硬く成長した。
頬を紅潮させて、息も荒くなってきたコイツは
「すみません。1回だけで良いんです…貴方を抱きたい…」
なんて、調子の良いことをほざいた。けど、悪い気はしない。何故だろう…?
軽く、触れるか触れないかのキスを、送る。
「俺ァ、ヤローとは初めてなんだぜ。俺が気に入らなかったら容赦なく蹴飛ばすからな。巧くやれや。」
一瞬驚いた表情を見せたが、照れたような微笑を浮かべてコイツは言った。
「善処します。」
ギシッ…ギシ…ギシ…
ベッドのスプリングが悲鳴を上げている。
当然か…大の男が二人も乗っちゃぁな…
「あゥ…!」
急に首を噛まれ、意識が戻って行く。
「こんな最中に考え事ですか?余裕なんですね…」
噛んだ箇所を癒す様に、ネットリと舐めながら、首筋からゆっくり鎖骨へ。滑らかな舌が弄っていく。
「う…うぅ…ングッ!」
「声を殺さないで下さい。僕は貴方の声が聞きたいんですから。」
「ば……ヤ…ロゥ…」
声を我慢するにはツラすぎる快楽。
コイツの言う通り、もっとオープンで行きゃァ、もっと楽しめるかもな…
「あぁ…ん…」
B地区に舌が辿り着き、更に舐め上げ、柔らかく噛む。
左手で俺の耳を撫で、右手では、もう片方のB地区を摘み上げる。
「あふっ!……やっべ…ぇよ…」
俺の言葉にコイツが顔を上げる。
「気持ち良スギ。」
「それは何より。でも、まだこれからですよね?」
「勿論だっつーの。」
暫くは俺の上半身を、これでもか!って位犯していたコイツは、怒張しきっている下半身へ手を伸ばした。
ゆっくりとソレへと近付くが、中々触れようとはしない。周りだけソロソロと撫でて、撫でて…
「あぁ…バ…カヤロー…じらす…なっ…て…」
「じゃぁ、どうして欲しいんですか?」
後ちょっとで、快楽度が増すってーのに…
「…超絶アクシュミ…」
「で?言ってくれないと解らないんですよ。」
「…めて…」
「はい?」
……コイツ…最悪…
「舐めて…くれ…」
俺の言葉に、身体を持ち上げたコイツは、ゆっくりと顔をソレに近付けて行く。
チュッ…
先端にキスを一つ。
それだけでも、執拗に攻められ続けた俺は、思わず腰が飛び上がった。
「…?」
コイツも驚いたのか、ソレを握っていた手も離して俺を見つめている。
その眼で見るんじゃねぇよ…
肩で息をしている俺は、思わずその視線から眼を逸らした。
でも、まだ、見ている…
突き刺さるような視線が俺の目を、髪を、身体を…
俺自身を犯して行く…やべぇ…感じる…!!
「僕、我慢出来ません…こちらの準備は、もう宜しいですか?」
そう言って指を俺の、普通なら触れられる事のない場所へ辿らせる。
「待てって!まだ何も準備していねぇぞ!」
思わず飛び起きようとすると、コイツの手がそれを制した。
「貴方は…僕が見ていれば大丈夫でしょう?」
とんでもない事をさらりと言って、コイツの怒涛したイチモツを俺の秘部へとあてがった。
「ヒッ…」
思わず腰を引いてしまう。でもコイツはそれを許してはくれなかった。
俺が引くよりも早く、思いきり腰を打ち付けて来た。
「うあぁぁあぁっ!」
メリッという音がした。裂ける感覚が襲う。
一瞬の間が空いて、激痛が追って来る。
痛ェ!痛ェ!痛ェェ!!
泣きたくもないのに涙が止めど無く溢れて来る。
そんな俺を気にも留めないように、一心不乱に腰を振るコイツ。
マジで拾うんじゃなかったーーーーー!
「あぅッ!あぁあ!あ…あぁっ!!」
でも、やがてそれは快楽へと変わって来て…
俺も一緒に尻を振っていることに気付いて…
一度じゃモノ足りなくて、何度も何度も。
飢えた子供のように温もりと快楽を貪った。
それから3年。俺は女相手には勃たなくなっていた。
責任は取ると言っているコイツは「八戒」と名乗っている。
8つの戒めの中に、あの日の俺達の行為もあるという。
俺達の初めての繋がり。
八戒は、もう2度と名前を変えないと、生臭ボーズと猿と、俺の前で笑って、誓った。