●桜と雪の天邪鬼●
  (さくらとゆきのあまのじゃく)




「悟浄、僕のこと好きだって言ってください。」
八戒の辛そうな眼が、悟浄の顔をのぞきこむ。
「はっ!?何言ってんだ?」
「いえ、良いです…。」
八戒は悟浄に背を向けると三蔵と悟空の所に行くといって部屋を出ていった。
「いったい何なわけ…。」
悟浄は持っていた雑誌を静かに閉じた。

アノ日から八戒は悟浄とは口を利いていない。
悟浄も初めは声をかけたが、今は八戒と冷戦状態だ。
(悟浄、怒ってるでしょうか…。)
八戒は悪いとは思いつつある作戦に出た。
作戦と言っても、簡単なものである。
とにかく悟浄の本当の気持ちが聞きたかった。
作戦とは…、何が有っても口を利かないこと、悟浄がホントの気持ちを言うまでは。
この二人の冷戦を三蔵はこめかみを押さえながら我慢して見守り、悟空は、心配そうな顔で見守る。
3日目、三蔵たちは、ある町で一晩過ごす事になった。
悟浄は一人歩いていた。
「すっげ〜。」
悟浄は一本の桜の木を見つけた。
この寒い2月という季節に桜が咲いていたのだ。
(八戒にも見せてやりたい。)
悟浄は一瞬そんな思いにかられたが、それでは負けを見とめることになる。
「いや!なんでこの俺が…。」
一人で叫んでいて悲しくなった。
「八戒のバカァ、何で無視すんだよ〜。」
悟浄は消えて無くなりそうな声でそう言った。

町の人に桜の話を聞いてみると、あの場所でしか咲かない珍しい桜で、町の人たちは年中咲いているので、『四季桜』と読んでいるそうだ。

こうゆう迷ってる日に限って八戒と同じ部屋になったりする。
(悟浄、いつまで僕を待たせるんでしょうか、いろいろ限界ですよ。)
八戒の思惑をまったく知らない悟浄は、八戒を連れて行くか行かないかで迷っていた。
(はぁ、俺の負けだなっ。)
悟浄は、立ちあがると八戒の隣に来た。
「なァ、八戒…あのさっ、俺八戒に見せたいもんあんだけど、付いてきてくんない?」
悟浄のお誘いに簡単に乗る八戒ではない。
「何ですか、ここじゃダメなんですか?」
八戒の冷たい返事に悟浄はムカツイテ八戒の手を取ると、二枚のコートを持って外へ
出ていった。

「ご・・じょ、悟浄!放して下さい、何なんですか…。」
八戒の怒鳴り声も無視してヒッパテ行く。
「八戒、見て…。」
悟浄の静かな言葉に八戒は、悟浄の顔を見る。
「俺じゃねぇよ。」
悟浄は上を見ると八戒もその後を追う。
「凄いですね。」
八戒は驚いて悟浄を無視するのも忘れていた。
八戒は悟浄の一歩前に出ると、目をパチパチさせた。
「八戒。」
八戒の背中に抱きついた。
凄くアッタカイぬくもりを感じて八戒は振り向こうとした。
「俺、八戒のこと好きだからな。それだけ。」
悟浄は、恥ずかしくて顔を下に向けた。
八戒は、円満の笑顔を見せて悟浄の顔を見ようと除き込んだ。
「やっと聞かせてくれましたねっ!」
ニコニコと笑う八戒を見て悟浄はむすっとした顔で呟いた。
「やっぱ、おまえって性格ひねてる。」
「良いじゃないですか、今日は何もしませんから、ねっ!」
「あっ、当たり前だ!ざけんな!!」
悟浄は八戒の頭を叩いた。
雪がパラパラと降ってきた。
「きれいですね〜。」
八戒は優しく笑った。
「…天邪鬼…ですねぇ。」
「えっ?」
悟浄の間抜けな返事に八戒は苦笑しながらも話を続けた。
「僕たち、嘘しか付いてなかったじゃないですか。」
八戒は、今まで悟浄としていたことを思い出したのだろう。
「あぁ、そっか。」
悟浄は振ってくる桜の花びらと雪を手で、受け止めた。
「わかった!」
「何がです??」
悟浄のガッツポーズに少し圧倒されながらも返答する。
「酒屋の親父がさっ、ここの桜、四季桜って言うんだって教えてくれたんだけどよぉ、もう一つ『天桜雪』とも言うんだって、教えてくれた。」
悟浄は桜を見ながら言った。
「天桜雪って、天邪鬼な桜と雪って云う意味なんだと、やっと意味がわかったんだよ。」
子供のような笑みを見せている悟浄を八戒は優しく見つめていた。
「良かったですね、でっ、どうゆう意味なんです?」
「う〜ん、ひみつ。」

宿に帰ってきた二人を悟空は笑顔で迎え、三蔵は、悟浄の頭をハりセンで叩いた。
めずらしく八戒も叩かれた。

悟浄は『天桜雪』の意味を静かに口ずさんだ。
「いつもは違う季節で、出会わない雪と桜、ホントは逢いたかったのに逢わなかった天邪鬼な桜と雪が正直に逢えるようになった場所…。」
消えそうの声で呟く。
(俺たちはそれに似てると思ってたけど違うみたいだし〜?)
悟浄はわざとおどけた様に考えた。

天桜雪、俺達もそんなフウなら良いのに…。
この幸せがいつまでも続くように。


<おまけ>
次の日は野宿になった。
森の中、悟浄は赤頭巾ちゃんになりさがっていた。
狼の八戒に襲われて。
「八戒!何もしねぇって言ったじゃねぇかぁ〜。」
「昨日は、ねっ!」
八戒の楽しそうな声は風に消されて、悟浄にしか聞こえなかった。
悟浄の悲鳴が聞こえたとか聞こえないとか…。





泉 紫織様より頂いてしまいました♪
なんだかほんわかしてしまうイイお話です〜(^^)
初めての作品だそうですが・・・素晴らしいなぁ。
次作も楽しみにしてますね♪(図々しいぞ、俺!)



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