手のひらの・・・
「悟浄!」
「ん〜・・・・」
「今日、八戒休みだってさ!」
「んん〜〜〜」
「・・・・・・だ・か・ら・・・とっとと起きやがれ!!いい加減遅刻するぞ!!」
「ん〜・・・」
沙家の朝にしては珍しく賑やかだったと両隣の住人がクスクスと笑みを零す。
「・・・・聞いてるか?」
まだ布団の中で眠りにしがみついている悟浄の掛け布団を空に持ち上げて足で軽く蹴る。
「ん〜・・・」
「・・・・・聞いてねーな・・・此奴。」
ポイッと布団を放ると悟浄の首根っこを悟浄の兄慈燕はつかみ猫のように持ち上げる。
「このまま外に出そうかな?」
「いやぁ〜・・・」
ようやっと目をコシコシと擦りモゾモゾと身体を動かし始める。
「さっさと顔洗って学校行け!」
「ん・・・で八戒休み〜?」
「そう、さっき電話有ったぞ。」
「ふぅ〜ん・・・」
「風邪だってさ、お前も気を付けろよ。」
「はぁ〜い。」
のんびりとした会話だがその間も慈燕は悟浄を急かし家から追い出す。
「いってきまぁーす。」
カチャカチャとランドセルを楽しげに鳴らせ駆けていく。
「あ・・・帰りに見舞いに寄れっていうの・・・忘れたな。ま・・・大丈夫だろ。」
俺も仕事仕事と慈燕も慌ただしく支度を始める。
「センセイさよ〜なら!」
終業の挨拶も終わって先生が出ていくと生徒達は賑やかにお喋りを始める。
「悟浄!きょうウチよってかね〜?」
八戒が居ないせいか結構お誘いがかかる。悟浄は一瞬考え込んでから断る。
「やっぱ、見舞いぐらい行かないとうるさいしぃ〜。」
それにはクラスの皆がクスクスと笑い出す。
「そうだな・・・いじけちゃうってか?」
「いやいや、八戒なら呪いの儀式ってほうが似合うぜ。」
言いたい放題だがそれでも笑っていて悪ふざけとなる。ま、八戒が居たら絶対に言えないことだが別に嫌いとかそういうのではない。居ない寂しさってのを変えてるだけ。
「じゃ、明日な〜♪」
「俺等の分もよろしく!」
幾人かが悟浄の走る後ろ姿に声をかける。
「わぁ〜った〜!!」
少なくとも悟浄と一緒に行くと声をかける者は誰一人としていなかった・・・そんなことをすればにこにこと優しげに微笑まれながら鮮やかなまでの毒を吐く。
「んん〜・・・なんか買っていくか?」
あんま持ってないけどと財布の中身を考える。
「えっと、病気の時って・・・んん〜・・プリンぐらいならいっかな?」
途中のスーパーでプリンを2個買う。
「ま、たいしたモンじゃないけど・・・いいよな。」
綺麗なおねーさんにちゃんとスプーンもつけて貰ったけど・・・八戒の家行くんだからあるんだけどねぇ〜・・・けどいっか〜、綺麗なねーちゃんだったしぃ〜♪
「八戒〜♪」
勝手知ったるでドアを開けるとちょうど花喃ねーちゃんにばったりと出会った。
「あら、悟浄ちゃんいらっしゃい。」
八戒の笑顔とよく似ただけどもっと綺麗に微笑んでくれる。
「こんにちは・・・えっと八戒寝てる?」
「大丈夫よ。丁度良かった。私出かけなくてはいけなくなって・・・八戒だけじゃ不安だったから。1時間ぐらいで戻れると思うのだけどお留守番頼んで良い?」
「うん、大丈夫!いってらっしゃい〜。」
花喃ねーちゃんがドアをくぐろうとして振り向く。
「そうだ!おにーさんに電話するから一緒に晩ご飯食べましょうね。」
「う、うん。」
急な思いつきにコクコクと頷くと花喃ねーちゃんは嬉しそうに出かけていった。
「花喃ねーちゃんの頼みって断れねーんだよな・・・。駄目って解ったら超かなし〜って顔するしぃ〜。」
靴を脱いでトントンと二階へ上がる。もちろん鍵もしたし靴も揃えた。
「八戒が風邪引くなんて・・・鬼に攪乱〜ってやつだな。」
なんか嬉しくてしかたない。
「だめだめ・・・って。」
慌てて顔を引き締めて軽くノックするとそっと戸を開ける。
「八戒?」
小さな小さな声で呼ぶと八戒がベットの上で厚手のカーディガンを羽織って本を読んでいた。
「・・・・・・寝てろよ・・・お前。」
脱力〜っとそのまま床に座り込むと八戒がベットから降りようとして慌てて止める。
「寝てなきゃ駄目だって!」
「もう大丈夫ですよ。」
「駄目ったら駄目なの!」
「はいはい・・・」
八戒は渋々とベットに戻る。その横に悟浄が座り今日有ったことを喋り出す。なんでもないことだけど・・・やっぱ居ないと寂しいって解ったからね。
言ったらず〜っと居そうでそれは遠慮したいけどさ。
「あ!俺プリン!」
「は?悟浄がプリン?」
「違う!買ってきたの!一緒に食べようと思って。」
コレぐらいなら平気だろ?と悟浄はプリンを差し出す。
「もしかして食えない?」
「いえ、・・・ちょっとでなく・・・嬉しいです。」
照れているのか熱の所為なのか解らないけどほんのりと頬を朱に染めて嬉しそうに笑う。
(そんな顔!!それは卑怯!!)
「悟浄が僕の為にですか・・・嬉しいですよ。」
「うっさい、さっさと食えよ。」
「もちろん味わって食べます。」
「安モンのプリンだって・・・」
「悟浄が、買ったってことが嬉しいのですよ。」
そんなことを話していたが流石に八戒の熱が上がり始めて悟浄は強引に寝かす。
「傍にいるから寝ろって・・・起きるまでいるからさ・・・」
少しだけだけど荒い息を気にしながらも笑ってみる。
「じゃぁ・・・起きたら。」
「うん、起きたらね。」
安心するようにキュッと手を握りしめる。八戒がニコッと笑う。だから俺も笑う。伝わってくる熱さが怖かったけど大丈夫だと思った。
「お休み、八戒」
「お休みなさい、悟浄」
「あらら・・・」
花喃が遅くなってしまって申し訳ないとデザートにケーキを買ってきてそっと部屋を覗いてみればスヤスヤと眠っている八戒の傍でベットに寄りかかるようにして眠っている悟浄。
「風邪を引いてしまいますよ。」
花喃は起こさぬようにそっと毛布を悟浄に掛ける。
「御夕飯まではね。」
シーッと唇に人差し指をあてて花喃は部屋を出ていく。
「ん〜・・・写真に撮りたいぐらい可愛いけど、にーさまに撮られてしまうのは癪ですわね♪」
「ん・・・あれ?」
暖かくて目が覚めた。気が付いたら辺りは真っ暗で何も見えない、だけど眠っている間も離さなかった手が暖かくて安心する。
しばらくパチパチと目を瞬かせて闇にならす。
「っと・・・八戒・・・」
起こさないようにそっと呟いて身体を起こすと覗き込む。
「眠ってる・・・良かったや。」
安心する。
「早く良くなれよ・・・」
サラサラとした黒髪をそっと撫でて何時も八戒が喜ぶ軽いキスをする。
「元気がでますように・・・」
きっと誰かが見てたらこんなに暗いのに顔が赤いのが解っちゃうかも・・・恥ずかしくて慌てて八戒の傍を離れるといい匂いがしていることに気付く。
「あ・・・花喃ねーちゃん帰ってきてるんだ。」
「ん・・・」
「八戒?」
「・・・ご・・・じょ?」
「あ〜・・起こしちまった?」
慌てて傍によると八戒はいつものように目覚めがしっかりしていてパッと起きあがる。
「いえね〜・・・身体が軽いな〜って思って。」
「んじゃ、熱下がった?」
「そうですね。」
「良かったぁ〜♪」
ホッとしたように笑うと八戒もにこっと微笑んだ。
パタパタとスリッパの音が聞こえてきた。きっと見に来たんだ。
「八戒・・・悟浄ちゃん?」
そっと光が流れ込んでくる。
「起きてる!」
「僕もです。」
「ご飯だけど食べれる?」
『勿論!』
2人の声が重なり3人は笑い出す。下に降りてらっしゃいと花喃ねーちゃんは言って先に降りていった。
「じゃ、行こっか。」
手を出すとキュッと握り返してまた俺達は笑う。
ん、やっぱり一緒に居ないとな・・・って思ったけど八戒には言えないや。
「クッシュン!!」
「良かったなぁ〜・・・馬鹿じゃなくって。」
勿論次の日に悟浄が風邪を引いたのは・・・当然の理。
花詠様より戴きました、ちび悟浄&ちび八戒です♪
パラレルストーリーで花詠さんのサイトで2作ほど発表されてるんですが、この度貢いで頂きました(笑)
何が凄いって、八戒の兄が清一色なところでしょう!というか、花喃ちゃんも素晴らしく同人姉ちゃん?(笑)
こんな弟がいたら、絶対に写真撮り捲くりですよね!
花詠さん、ありがとうございました!!