・・・ 夜のお供に ・・・



「天蓬元帥?」
軽いノック音の後に捲簾の所で使えている顔なじみの女官が姿を見せる。
「どうしたのですか?」
彼女が訪れることは珍しくもないが何時も捲簾の使いで来るためにあまり良い印象があるとは言えない。一体何処に隠し持っているのか毎度毎度とこの執務机の上を一杯にする書類の束を見事に積み上げる腕前だけは見事だと思わず誉めたこともあった。・・・あの捲簾の所で居るのには勿体ないほど良くできた女官であることには間違いない。
「たいした用事では無いのですけど」
艶やかに微笑む姿に思わず引き込まれそうになる。僕の持つ地位もそして彼女自身の立場も気にしない強さと誇り。なるほど捲簾が傍に置きたがるのもわかるような気がした。
「でしょうね。捲簾は遠征中ですし・・・僕の所に持ってくる書類もないですよね?」
微笑み返すと軽やかな笑い声をあげる。
「まぁ、そんなにお嫌でした?」
「いえいえ、もう十分過ぎるほどならされましたよ。」
他愛ない会話。だけど気兼ねなく話せるというのは何となく楽しい。しかも彼女の場合は口調こそ丁寧ではあるが地位や権力という物に対する怯えがない。お陰でくつろいだ気持ちになるのだが・・・。
「今日は天蓬元帥に贈り物ですわ♪会心の出来なので是非受け取っていただきたくて」
と、大きな包みを押し付けるように渡してくる。一応女性らしくラッピングしているところがなんとも心憎い演出とでも誉めておくべきか否か?
「とんでもない。でも珍しいですね?」
遠慮など彼女に必要もなく目の前で中をあける。
「どうです?気に入って貰えました?」
ワクワクとしている彼女の視線を受けながら開いた中身は・・・一瞬心臓が止まったと思わず手のひらを胸に置いて鼓動の有無を確認する位であった。
「これは・・・」
冷や汗というのだろうか、それとも僕は呆れているのだろうか・・・。
「えぇ、捲簾大将ですわ♪よく似てると思いません?」
嬉しそうにそれはそれは嬉しそうにコロコロと笑う彼女を後目に溜息がこぼれ落ちる。
目の前に手にして入るもの・・・それは紛れもなく捲簾を象った・・・枕。
これを僕にどうしろと言うのでしょうか?抱いて寝なくてはならないほど子供でもあるいまいし・・・。
「あら?いりませんか?・・・天蓬元帥なら快く貰っていただけると思ったのですが・・・仕方ありませんわ・・・他の方に・・・」
「いえ、ありがたく頂きます。」
「そうですか?それは良かったです♪実は捲簾大将のお部屋にも天蓬元帥の置いてきたのですよ♪きっと帰ってらしたらびっくりなさるわ♪」
「え?僕のをですか?」
驚きに対してそれはそれは輝かんばかりの笑顔で答えられ何も言えなくなる。
「えぇ、きっと喜んで下さいますわ♪」
そうであることをほんの僅かも疑ってない様子になんとも答えられなくなる。それではと辞す彼女を見送りながら曖昧な笑みを浮かべる。
「・・・よろこぶ・・・のでしょうかね?」


「天蓬!」
明らかに嫌がらせだと思った。疲れて帰ってベットに横になったとたん目に入ったのはあけて下さいと言わんばかりに置かれていた大きな包み。誰でもなく自分宛だというのは置き場所から考えてまず間違いなく、なにげに包みを広げた。・・・それを後悔するには遅すぎたのだが致し方あるまい。中は三等身の可愛らしい天蓬の姿枕。疲れも眠気も吹っ飛ぶほどの出来事に思わずなりふり構わず駆け出していた。
「どうしたんです?」
予想がついていたのでドアを破壊するような開け方にも噛み付くような物言いにも動揺することは無かった・・・が!しかしその格好は不味いのではないでしょうか〜?
「天蓬!オイッ!」
「・・・・捲簾・・・貴方・・・」
ぼさぼさの髪に乱れた着衣。溜息が出ない方がおかしい。幾ら近くても此処に来るまでに人に会わない保証というのは何一つ無いのだから、ちょっとは考えて欲しいですよね〜。と心の中でブツブツと言っていると直ぐ傍まで来た捲簾がおもむろに胸ぐらを掴みあげる。
「なんであんな事したんだよ!」
おそらく例の枕について言っているのだろうがたかだかその程度にしては凄い剣幕である。もっとも慣れているしこの程度なら全然怖くない。
「なんのことです?」
僕は知りませんとシレッと言うと余計に勘に障るらしく更に厳しい顔つきになるのだがそれも綺麗なんですよね〜。知れたら大変ですけど。
「ばっくれんなよ!あんなのてめぇ位しかしねーだろーが!」
「・・・・・あぁ、枕ですか?」
さも今気付いたかのように振る舞うとそれが余計に勘に障るのだろう表情を更に硬くさせる。
「その枕だよ!ったく嫌がらせか?」
心底不快そうにガシガシと髪を掻きむしり嫌悪感を露わにする。
「僕じゃありませんよ。」
「・・・・あ?」
「ですから、アレは僕じゃありませんよ。」
「・・・・・違うのか?」
「えぇ、僕も驚きましたからね〜。」
「あ?驚いた?」
話が見えない。
「今朝方、ほら捲簾のお使いで良く来る女官さんが来ましてね。僕も貰ったのですよ〜♪」
「・・・・・何を?」
喉がカラカラに干上がって声が割れる。
「もちろん貴方の枕ですよ♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
「嬉しいですよね〜♪何時も寝るとき一緒ですね♪」
パクパクと口を開閉するだけで音になってないが何を言いたいかはわかる。
「なんてね♪」
にっこりと冗談めかすと力が抜けたのかズルズルと床へ座り込む。
「勘弁してくれ〜。」
寝るに寝られないじゃないか〜と心の中で悲鳴をあげて溜息をつくと上からそんなに嫌がることはないじゃないですかと少し傷付いた様な声が降ってくる。それはそんなに大きな声でなくどちらかと言えば思わず口に出てしまったという位微かなであったけど後悔するには十分だった。
「わりぃ・・・その・・・嫌っていうんじゃ無くて、さ・・・」
落ち着かないというかなんか気配があって寝るって感じじゃ無くなる・・・。
「解ってますよ。」
思わず声に出してしまったことに後悔を感じているのか見え無いながらも口元に手をやって視線を遠くにしているのが感じとれる。
「さてと、僕は捲簾枕を可愛がることにしましょう♪」
突如纏う雰囲気を明るい物に変えクルリと踵を返す。
「は?・・・おい・・・」
なんて言った?枕を可愛がる?・・・・ぞぞぞっと悪寒が背筋を駆ける。
「それはも〜♪抱きしめて眠らないと駄目ですよね。」
「・・・か、勘弁してくれ・・・」
悪いが想像出来ない、既に脳味噌なんて破裂寸前で考えることを拒絶している。
よりによって天蓬が枕を抱えて寝るぅ〜?ゾゾゾと怖気が走る。
「折角の枕ですよ?使わないと」
何故がウキウキとはしゃいでいるのに白い目を向けると軽く咳払いをして表情を正す。
「これは・・・僕としたことが浮かれすぎましたね。」
「浮かれすぎっていうよりさ〜・・・お前きしょい。」
「失礼ですね〜。僕は素直に喜んでいるのですが・・・」
「よろこばんで良い!」
何を言っても聞きもしない天蓬に呆れて叩き付けるようにドアを閉めて出ていく。
「さて・・・からかい過ぎましたかね?」
怒ったり困ったりコロコロと表情を変えるのを楽しんで楽しんでいたのですがね。
「でも・・・可愛いですよね〜。」
どうやって機嫌を取りましょうと楽しげに笑いながら天蓬は寝室にある捲簾を見る。
「勿体なくて使えるわけが無いじゃないですか・・・」


おまけ
「ったく・・・冗談じゃねっ!あんな趣味あったんか?」
来たとき同様に悋気を纏いながら自室に戻る。そのままツカツカとベッドの上に鎮座している天蓬を堅く握りしめた拳で殴る。
「・・・そうか。」
ポンと軽く手を叩くとにんまりと悪戯を思い付いた子供のように笑う。
「なにも枕限定使用ってわけじゃないよな〜。」
流石に天蓬に頬ずりされてたら気持ち悪いけど俺の身代わりってなら十分納得できるし。と1人機嫌良くなる。
「ってわけで・・・日頃の恨み〜!」
哀れ天蓬枕の行く末はいかに・・・





<花詠様よりコメント>
斎様リクエストの「枕」です。
す・・・すみませ〜ん!思いっきり遊んでしまいました〜!スッゴイ楽しかったんですけど・・・。だって・・・枕の使用方法って・・・寝るだけじゃない・・・ですよね(汗)こんなのでよろしければ貰って下さい〜!!!

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枕の正しい使い方・・・(笑)
本当にカワイイ2人をありがとうございます!
ところで『身代わりなら納得できる』って・・・ら・・・らぶらぶ?(爆)



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