・・・ Cuticle hair? ・・・



「うわぁ!・・・・」
一言叫んで悟浄は泣きそうな顔を八戒に向けてくる。ちょうど昼食もピクニック気分で終え穏やかな時間が流れていると肌で感じることが・・・出来そうになかった。指先で髪の毛を弄るようにしながら煙草を燻らせていた悟浄から変な悲鳴が上がる。
「な・・・なんです。」
三蔵の前に食後のお茶を注ぎながら八戒は動揺しているのを懸命に押さえ込もうとする。しかしその前に三蔵の手にはハリセンが握られ問答無用で悟浄の頭をめがけて振り下ろされる。
「って・・・三蔵!あんまり叩くなよー・・・」
本当に泣き出しそうな顔をして睨み付ける。
「どうしたんですか?」
剣呑な雰囲気になる前に間に割ってはいる。
「え・・・」
「え?」
「枝毛が・・・」
情けなさそうな顔を遠慮なく披露する。それはそれで目眩がするほど可愛らしいのだがそう思えてしまうのは自分だけだと言うこともよく解っていた。
「・・・悟浄・・・」
八戒は自分の後ろからひしひしと伝わってくる怒気を収めることは出来そうにないと判断した。嵐は通り過ぎるまで待つと静観することにした八戒は、にーっこりと笑って後で切ってあげますよとだけ告げようと・・・したが出来なかった。
「その鬱陶しい髪の毛を切れ!・・・なんなら俺が・・・」
手には愛用の銃が握られ既に安全装置は外されていた。
「・・・ご・・・ご遠慮申し上げまーす。」
両手を上げて降参を表すが、それで最高潮までに達した怒気が収まるはずは無い。
「でもさー・・・オレは今の方が良いよ。」
そこにほえーと悟空の暢気そうな声が割ってはいる。食事をして満足した悟空に思考能力は無かった・・・。
「短いの変。」
きっぱりと告げる悟空に悟浄は曖昧な笑みを浮かべる。しかし悟空の余計な一言は悟浄に向けられていた怒気の矛先を変えただけであることを悟空は身を持って解らされた。
「んー、じゃぁ三蔵は短い方が好きなんだ。惚れられちゃったら駄目だからやっぱり長いままにしよっと♪」
ふざけた調子のまま雰囲気を変えるように告げた言葉はどう考えても余計な一言が・・・。
穏やかな日差しさえも消し去るような荒々しい音が響き渡る。
「うわっ!本気で撃ちやがった。」
ハラハラと悟浄の髪が数本舞い落ちる。
「髪の心配なんかしないようにしてやる。」


◇◇◇◇◇◇◇


「本当に・・・かなり痛んでますね。」
手に取ると毛先がパサパサと乾いた音を立てる。
「5cm位切らないと駄目ですねー・・・もったいない。」
ポツッと漏れた言葉に悟浄は益々項垂れる。嫌いだと言いながらも、時折は乱雑に扱いながらも手入れだけはキチンと行ってきた彼にとっては枝毛はかなりショックな事態だったのだろう。
「切りますよ。」
ん、と少しだけ頷くのを確認してからそっと鋏を入れる。
ジャキっと嫌な音を立てて切られた髪の毛が床に落ちる。その様子を呆然と眺めてしまった。
「・・・っかい・・・八戒!」
ハッと我に返ると悟浄が振り向いて腕を掴んでいた。
「俺は平気なの。お前の方がショック受けてんじゃねーよ。」
いつものように強い光を瞳に宿しているのを見てホッと息を付く。
「すみません・・・でも僕には・・・」
「俺はお前に切って貰いたいの。後の二人に任したらどうなるか解って言ってるの?」
むぅと唸るように言うのでよくよく考えてみる。
「・・・そうですね。それは僕も困ります。」
三蔵が切るとなったら・・・悟浄の髪の毛なくなりそうですねー・・・。悟空が切ったら・・・後で僕がやり直さないと駄目ですし・・・絶対に短くなりますよねー。
うんと頷くとニッと笑って返す。
「それに俺ー、お前に髪触られるの好きだよ♪気持ちいーもん」
サラッと告げられた言葉に絶句する。
「好きですか?」
「ん、俺お前の手、好きだからさ。」
優しく触れられる手は冷たいのに暖かいと感じるぐらいに好き。触れられるだけで安心してしまいそうになる。
「だからさ、さっさと切っちまってさぁ・・・」
グイッと八戒を引き寄せると触れるだけのキスをする。一瞬後驚いたように口に手をやる八戒を見てにんまりと笑う。
「な♪」
「えぇ、そうですね。」
クスッと共犯者のような笑みを交わしあって八戒は再び綺麗な紅い流れに鋏を入れる。
今度は小気味よい音を立てながらパサパサと傷んだ髪を切り落としていく。
「ん〜・・・なんか軽くなったような・・・」
終わりましたよと言う八戒に声に悟浄は大きく伸びをする。
「でもさー・・・切り落とされた髪って・・・不気味だねー。」
床に散らばる紅い毛玉を嫌そうに見る。
「そうですか?綺麗だと思うんですけど。さ、掃除しますのでお風呂にでも入って下さい。」言外に邪魔だと言われて渋々部屋を後にする。
「直ぐに行きますから待っていて下さいね。」
ニッコリと極上の笑みを向けられて悟浄は頬を朱に染める。
それが悔しくて手をヒラヒラと振って答える。
なんとも甘やかな時間であった。




(花詠様からのコメント)
花詠的にこれが限界。にょ〜〜〜、許してね。予定よりかなり外れちゃったのー(;;)
でも貰って下さい。



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