偶にはこんな冬の夜を・・・



  一人の空間に誰かが入ってきたらやっぱり多少なりとも圧迫感を感じるんだよね。それが例え自分で招いたものでも狭い空間にずっといたらやっぱり息が詰まってしまう。
 だけど・・・それを感じない奴もいたりするんだなーって最近知った。
「傍に居る方が居心地いいって事もあるんだなー・・・」
 別に何かをするわけでなく唯静かな時間を共有する。・・・ただそれだけで寂しさとは無縁の空間となる。
「安らぎってのはあーいうのかな?」
 時々・・・本当に時々だけど一人でないということにホッとする。それは誤魔化しかも知れないけど・・・
「なに独りで喋っているんです?」
 お盆の上に悟浄が喜ぶモノを乗せてにこやかに入ってくる。そんなことだけで部屋の雰囲気が柔らかいモノに変わる。それに気付いたのは最近だけど・・・一人で居るより遙かに生活の匂いってモノが家にある。生活感で言えば俺が散らかした部屋の方がずっと強いけどどこか余所余所しかった。此奴と居ると部屋は小綺麗になっているけどずっと家らしい。
「なーに?」
 立っているので頭上の上にあるお盆をのぞき込むような格好をすると当たり前のように位置を下げて見せてくれる。
「寒いので温めてみました。」
 お盆の上にはホカホカと湯気の立つ透明の液体が入った白磁に似たお銚子と同じ材質の小さなお猪口。それからおつまみ数種。
「八戒、気が利いてるぅ〜♪」
 引きずるようにして座らすとお盆の上のモノをこたつに置く。



「もう駄目ですよ。」
 ふにゃんとなっている俺を見て八戒はちょっとだけ怖い顔をする。とは言っても本気でないのは口元で解る。笑いを堪えるようとしているが緩んでるしー。
「ん〜、もうちょっとだけ。」
 空になったお銚子を八戒に差し出す。
「これ1本で終わりにするからぁ、ね♪」
 ヘロンと笑いかけると八戒は呆れたようにため息を付く。
「もー、しょうがない人ですねぇ。」
 それでも笑いながら立ち上がってお酒を温めに行ってくれる。なんか、優しい。
 八戒が部屋を出ていくとペチョーッと顔を机につける。頬がひんやりして気持ちがイイや。
 だいぶ酔っちゃってるよねぇ・・・珍しく。八戒は相変わらず顔色一つかわってないから、俺だけが飲んだみたい。
 冬なのに寒くない。八戒が居るせいかな?
 一人だったら・・・と悟浄は数年前を思い出す。何時も通りに酒場に行って賭事に興じながら酒を飲む。
 まぁ、今もあんまり変わらないけど・・・前よりは家にいる時間が多くなった。八戒と居る時間も少しずつ増えてきてこうやって夜中に酒を飲んだりする。
「ふふふっ・・・」
 一人じゃなく誰かと一緒に過ごすのが心地よい。
「でも・・・八戒だけなんだよねー・・・今のところ」
 こうやって一緒に飲んでも良いのは八戒だけ・・・・他の奴らなんてゾッとして嫌だ。
「なにが、僕だけなんです。」
 盆を置いていって熱そうにお銚子の口を持っている八戒がにこやかに聞いてくる。
「んー、聞きたい?」
 八戒からお酒を受け取るとお猪口に注いでクイッと飲む。一口で飲むと喉に焼けそうなほど熱い液体が流れ込むのが解って面白かった。
「えぇ、是非。」
「こうやってお酒を飲んでもいいのは八戒だけって言ってたの。」
 クスクス笑いながらお猪口にお酒を注ぐ。
「いつも飲んでるじゃないですか?」
 八戒にとっては週に3回は酒場に賭事兼飲みに行く悟浄に台詞とのギャップを隠せない。
「違うって・・・そういうのはぁ・・・感覚が違うっていうのかなー。」
 的確な言葉が見つからなくてゴニョゴニョと言葉を濁す。
「感覚?」
 ほらやっぱり聞き返した。俺もいまいち解んない。甘えられるっていうのも違うような気がするしー。そりゃ目一杯甘えてると思う。俺が甘えるなんてそれ自体も珍しんだけど。
「俺も・・・自分で言っててよく解んないや。でも、俺にしちゃ初めてのことだぜ。」
「なんか・・・特別みたいで嬉しいですねぇ。」
 八戒が驚いたような表情を浮かべ殊更ニッコリと笑う。
「特別かぁ・・・八戒は特別になりたい?」
 あんまりにも自然だったので特別だとかそういうのは考えなかった。それが当たり前だと思っていたから・・・。
「えぇ、もちろん。」
 ニコニコ嬉しそうに笑う八戒につられて一緒に笑う。
「そっかー、俺も特別?」
「えぇ、勿論ですよ。」


  こんな夜が何時までも続きますように♪



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