無機質なまでの鈍い銀色の携帯電話を手の中で弄ぶ。それは何度も何度も・・・。
電話帳機能を使わなくても押すことの出来る唯一の電話番号を幾度無く指先でなぞりながらも諦めたように放り出し、また手に取る。
「あ〜・・・もう・・・」
何が此処まで、と思うほどたった1本の電話をかけることに戸惑うのか・・・。
「う〜〜〜〜」
原因は1通のハガキ。
送るのも送られてくるのも当然の行事を・・・すっかりと忘れていた。
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あけましておめでとうございます。
最近お互いに連絡を取っていませんね。
元気でしょうか?
遊びすぎないようにしてくださいね。
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お決まりの文句と少ない言葉に込められた心遣い。忙しさの中に落ちた余りの優しさに・・・浸るより先に焦り困惑した。
忙しかったから・・・というのが送らなかった理由にはならない。貰って直ぐに連絡出来れば良かったのだが、何故か連絡出来ないまま1月も半ばを過ぎた。
「か・・・かけにくい・・・・」
かけてしまえば後は楽なのだが、今まで連絡をしなかったことが重くのし掛かる。
「忘れてた訳じゃないんだよぉ〜〜〜〜」
此処で言い訳しても全然意味は無いのだが言わずにはいられない。そして何度目か数えるのも嫌になる程手にした携帯電話を再び手にする。
「あ〜〜〜もうっ!!!」
やけくそのように番号を押す。
バクバクとがなり立てる心臓を無理矢理なだめすかし耳元に聞こえてくる呼び出し音を歯を強く噛み締めながら耐えていた。
プツッ・・・
突然呼び出し音が消える。
「もしもし?」
バクンと心臓が跳ね上がる。それを何とか押さえつけ何度か呼吸を意識的に繰り返し笑みを作る。
「もしも〜し」
「・・・・悟浄ですか?」
明るい声とは対照的な低い声が向こう側で安堵したような溜息を吐き出す。
「そうそう、って解ってるっしょ?ごめんね〜、連絡取れなくって。」
殊更明るい声を、と意識していたが声を聞くと安心していつもの調子が戻る。
「いいんですよ・・・無事なら。」
「え〜と、無事って言い難いけど取り敢えず生きてるんでさ。」
「無事じゃない!?」
「んな、驚いた声出すなよ・・・へろへろってこと。これでもね、一応仕事だったのよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
「なにその沈黙!」
「いえ・・・だってねぇ・・・」
「信じてないでしょ!酷いっ!」
見えないのが解っていてもよよよと崩れ落ちてみたりする。
「あぁ、そちらでへたっていても無駄ですよ。」
クスクスと笑い声を電話越しに聞いて耳元ががこそばゆく感じる。懐かしいと感じて寂しかったのだと初めて解った。
―――会いたいな―――
ふと思った。それはストンと胸の中に落ちなにやら落ち着かなくなる。
―――会いたい、今すぐに―――
「そうですね。」
「え?」
「会いたいですね。」
「え?・・・え?俺・・・口に出してた?」
その答えは聞き心地の良い笑い声で誤魔化される。
それと同時に・・・
ピロピロ〜〜ピロピロ〜〜
電話兼FAXから訪問者を告げる小さなベル音が鳴り出す。
「あ、わりぃ・・・なんか客みたい、後でな!」
慌てて携帯を切るが誰だよっ!と怒りを込めて足元に転がっているクッションを蹴飛ばす。
そして再び鳴らされる。
「はいはい〜、今行きます。」
ペタペタと裸足で廊下を歩き玄関の鍵を開ける。
「あけまして、おめでとう・・・・にはいささか遅すぎますねぇ〜。」
電話と変わらぬ声、でも近い。そして間近にある顔。
「どうかしました?」
玄関でドアを開けたまま固まっている悟浄の目の前で手をヒラヒラさせる。
「〜〜〜〜〜〜」
「はい?」
「来るなら来るって言えよぉ〜〜。」
恨みがましい目を向ければ言いそびれちゃいましたとにっこりと微笑む。
「嘘つけ!」
「あ、ばれちゃいました?」
「ったく・・・」
呆れつつも身体を避けて中へ通す。途端抱きしめられる。
パタリとドアの閉じる音の中身体に染み込んでいく声。
「ん・・・俺も・・・」
―――会いたかった―――
自然と唇が重ねられる。
玄関という無粋な場所も些細なことでしかなく久々の逢瀬を体中で感じあう。
まさぐるように互いに触れ口付けを深くする。
「っ・・・ベットいこ・・・」
熱のこもった声で囁けば耳の付け根をキツク吸われる。
「あっ・・・痕はっ!」
慌てて制止するが鼻を擽る懐かしい香りにさえ腰が砕けそうになり胸を押し返そうとした手は縋り付くように握りしめられる。
「おやまぁ・・・そんなに寂しかったのです?」
「ちがっ・・・」
耳に流し込まれるように囁かれ頬が熱くなるのが解る。ドクンドクンと血流がすべて顔に集まる、そんな感じ。
「僕は寂しかったですよ。」
合わせられる視線に情欲が燃え上がる。
「・・・っかい・・」
「悟浄・・・」
自然と唇が重ねられ飢えた獣のように貪り舌を絡ませる。
―――もっと・・・もっと―――
乾ききった大地に水が潤う・・・そんな優しいものじゃない。渇いていた心を目の前に突きつけられ喉の痛みを嫌でも自覚しないわけには行かなくなった旅人。
ベットへ行こうと言う言葉は既に忘れられ八戒の手によって悟浄のズボンは膝まで落とされていた。
僅かな動きでベルトのバックルがカチャカチャとうるさい音を立てるので悟浄は足を使ってズボンを全部脱いでしまうとにっこりと微笑み八戒に囁く。
「淫乱ですねぇ・・・」
それに対しての八戒も抑えようのない高ぶりを感じて呟く。
「何もせずには・・・流石にキツイですよねぇ・・・」
「・・・俺を殺す気?」
「とんでもない、・・・それだけ早く貴方が欲しいってことですよ。」
嬉しそうに微笑まれその至近距離での事にうっとりと見つめている悟浄に軽く口付けゆるりと手を下肢へと触れる。
緩やかに形を変えつつある男の証を指を絡め掌で包み込んでいく。
「ん・・・」
甘い痺れを全身で甘受しつつ手は八戒の上着を着崩して行く。露わになっていく首筋に唇を埋める。
綺麗なラインの鎖骨を舌で舐め上げ軽く歯を立て固められしこりとなっている欲を溶かしていく。
「もっと・・・もっと求めて下さい。」
久方ぶりの情事は嫌がおうにも互いの熱を高め、言葉よりも強く、優しい手よりも強く・・・。
「いいぜ・・・」
片足を持ち上げられ秘部を指で広げられ愛撫と言うには少々強引な好意だがその行為でさえも物足りなく熱が体の中に溜まり行く。
「えぇ、こんなに濡れていますからね・・・」
ヌルリと引き出された指は引き寄せられる腰に周り温かい滑りを感じ恥ずかしさで更に身体が熱くなる。
縋り付く手、絡み合う吐息・・・余裕など一欠片も無く獣となり果てる。
「あ〜・・・しんど〜・・・」
ソファーベットにぐったりと横たわり煙草を燻らせる。
ふわり、と優しい手が撫でてくるので目を開ければ八戒が直ぐ傍に腰を降ろし浮かない表情で見つめてくる。
「どしたん?」
「いえね・・・・掃除が・・・」
「あ〜・・・お前が悪い」
キパッと言い切る。汗と精液まみれとなった玄関口の後始末を動けないことをいいことに全て八戒に押し付けていたのだがこの表情はそれだけではないだろう。
「悟浄も同罪ですよぅ〜。」
軽く笑うが直ぐに浮かない表情に戻る。
「だから・・・どした?」
「もう1回いいですか?」
「・・・・・・・・それ上に乗りながら言う台詞かよ・・・も、俺限界なんだけど?」
「気絶するまで止めませんよ。」
にっこしと極上の微笑み・・・勿論背筋が凍り付くモノだが悟浄は仕方なさそうに笑う。
「ま、久しぶりだし・・・」
埋め合うには短すぎる時間。
だが、触れ合う温もりは確かに必要。
今は・・・
絡み合う吐息と熱くなる身体だけが現実。
外は風。
吹き抜ける寒さは此処には届かない。
「泊まって行くんだろ?」
「でなきゃ、来れませんよ・・・こんなに遠くに。」
「仕方ないでしょ?」
「早く、お嫁に来て下さいね。」
「ばぁか・・・」
そして重ねられる唇。
濃厚な時間はまだまだ続きそうだ・・・。
<花詠様より>
別居してます(笑)
悟浄が仕事で飛ばされてる状況かな、どんな仕事かしらないけど年末年始は忙しかったらしい。八戒は相変わらず甘やかしてますね、本当はもっと長く書きたかったが時間がなかったのでちょっと一杯端折りました(汗)ごめんね、なんとなくで読んで下さい。
・・・と、いうことで花詠様から寒中お見舞いとして頂きました。新年からベタ甘な二人♪ありがとうございます。今年も宜しくしてやって下さいませね(^^)(斎)