天の闇
「相変わらずですね。」
どこか呆れたように言う天蓬に聞いているか聞いていないのか
この館の主はそっぽを向いたままで窓の外を見ている。
「捲簾・・・」
「分かっているって」
触れてくる手を払いのけ苛立ちを隠さずに睨み付けてくる双眸。
なら、良いんですけどね。口に出さずに天蓬は深く息を吐く。
「手を、出して下さい。」
溜息と共に吐き出される言葉に捲簾は左の手を差し出す。
「右、です。」
辛抱強く天蓬は言葉を紡ぐ。
「全く、怪我をしたのは右でしょうが・・・。」
強情なのも此処まで来れば潔いものの様に感じる。
無理矢理に右手を治療する。それほど深刻な傷ではないが、放っておく訳にも
いかない、知ってしまった以上は。
天蓬は慣れたように怪我を治療していく。
「本当に無茶ばかりしますね。」
言っても聞かないでしょうけど、と思わず口が滑る。
それにくつくつと笑って、分かってんなら言うなよと軽口で答える。
いつもと変わらぬ関係。
「どうしたんです。」
最近は彼らしくなく物思いにふけることが多い。理由は何となく想像が付くけど
どうせなら彼の口から聞く方が良い。
「・・・なんだろうなぁ。」
彼の目に見えている光景はきっと現在見えている物とは違うだろう。
優しい夜風が吹き、穏やかな時では無いだろう。
「まぁ、短い付き合いではありませんからね。」
それに、立場的にもね。
どちらも一軍を率いる大将であり、より多くの他人の命を預かる。
それでも、自分は切り捨てられる。大将というよりは軍師である自分は
あらかじめ戦の予測をたてることが仕事だから・・・。
切り捨てなければやってはいられない。
だが、彼には無理があるだろう。
飄々としていて無関心な素振りでいながら、他人の犠牲には敏感に反応する。
だから、慕われる。
だから、嫌われる。
「壊れてしまいますよ。」
軽く抱きしめてキスをする。
「そんなにやわじゃねーよ。」
目の前で微かに笑う。・・・受け入れられた証。
再び口付ける。今度は深く深く相手の全てを貪り喰らうように・・・。
そうすることさえも変わらないまま受け入れてくれる。
そうすることで見つけられる些細な
引き締まったしなやかな体は触れる指に敏感に反応する。
眉間にしわを寄せて耐えている姿を見ると、手にしているという実感がわく。
欲しているのが自分だけのようで、限界までじらす。
名前を呼んで欲しくって、自分だけのものにしたくて・・・。
「・・・ぅん、・・・天・・・、っもぉ・・・」
息も絶え絶えになって艶っぽい視線がねだる頃になると自分の中にある
どす黒い欲望が晴れるような気がする。
今は自分だけのもの、誰にも見せることのない彼の姿。
しがみついてくる腕も絡むように寄せられる足も全て・・・。
「・・のものですよ・・・」
「だぁああああ・・・・、加減しろ!!!」
ベットにうつぶせになったまま叫ぶのは知り合った頃の事を思い出させる。
「しましたよ。」
しれっと言うと、顔を微かに朱に染めてそっぽを向く。
そんな様子が可愛らしくて思わず口元に笑みが広がる。
「笑ってんじゃねーよ!」
「今日の予定はないのでしょ。」
煙草を差し出しながら言うと、眉をひそめてくわえる。
まるで間違ってまずい物を口にしたかのように。
「どうかしまして?」
火をつけながら聞くと、煙を吐き出してというよりは
蟠りをため息に変えてといったところだろうか。
「呼ばれてんだよ・・・。」
「そう、ですか・・・。」
どこにとは聞かない・・・。
聞かなくても分かるから。
いつまで持つかと思う、一秒でも一分でも長くこの時間を共にしたい。
だけど、その先には必ずあるであろう波乱が容易に予測できる。
彼には許せない事、たぶんそれが原因。
彼は己の道を進むだろう。
それが彼には相応しいと思えるから、きっと何をしても
驚かない・・・。
ただ、もう少し自分を頼って欲しいというのは私の我が儘なのだろうか・・・。
それでも、今はこうしていたいだけ・・・。
(花詠様よりコメント)
斎さんのリクエストより、天蓬×捲簾ですがぁ・・・。
これで良いでしょうか?
難しい以外の何ものでもなかったが、天界編が読みたくなった。
設定欲しくって画集を買いに走ってしまった・・・。
それでもこんな物しか書けない・・・。
これと対になる地の光の八×浄甘々を書く予定♪