天空の城ラピュタの噂の正体

天空の城ラピュタ ガセビアの沼

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 「ガセビア」それはトリビアとは似て非なる全くのデタラメ。これを使うと「嘘つき」になります。 沼に沈めて2度と浮かび上がってこないようにしましょう。深いです。

 さて、ラピュタのテレビ放映の回数が多いおかげで、ファン層がすっかり広がりました。 さらにインターネットが普及し、小中学生でも簡単にネットの世界に入り込み、 情報発信が簡単に、情報の伝達速度が急激に速くなりました。 そこで、劇場公開当時からのラピュタファンには考えられないような噂が出てきました。 心理学的にも社会学的にも非常に興味深い現象です。 ここではその噂を紹介し、なぜそのような噂が広まったのかを考察します。

●ラピュタ崩壊シーンでトトロが飛んでいる
 これを最初に目にしたのは3年ほど前でしょうか、当サイトの掲示板でした。 幼稚園のお子さんを持つ母親からの投稿でした。 もちろん、ラピュタはトトロよりも古い作品なので「そんなことありませんよ」とレスつけましたが、 このような書込みを他HPの掲示板でも何件か見かけました。おそらく平成狸合戦ぽんぽこと混同したのでしょう。 トトロやキキが飛ぶシーンがありますから。そういった書込みは「小さい頃見た」とか 「うちの子がこんなことを言っている」とか、小さい子供の目撃談であることが特徴でした。 頭の中の想像が現実と区別が付かなくなりがちな子供らしい現象だと思われます。
 しかも驚くべきことに、つい先日、またまた当サイトの掲示板に「友人が見た」 という書き込みがありました。 そのときの書き込みは「トトロが落ちている」でしたが、 実際に落ちているのはムスカだということはディープなファンなら知ってますね。 作品の製作年を知らないと本気で信じる人もいますが、簡単に誤解が解ける噂です。

●別エンディング映像が存在する
 これはジブリ公式サイトで、わざわざ否定された有名なガセビアです。 ドーラと別れたあと、パズーはシータをゴンドアまで送るというシーンがあると噂されてました。 数年前、2ちゃんねるが噂の出所だと言われています。 しかし、テレビ放映のビデオ、レーザーディスク、海賊版VCDなど、あらゆるメディアの検証や、 映画公開をリアルタイムで体験した人のレスで完全に否定されました。
 私が最初に噂を目撃したのは、同時期の1999〜2000年頃の当サイト(当時えすつぇっと)の掲示板でした。 もちろんそんなものは存在しないのですが、あったら面白いなあと思いつつ、 「知らないけど見てみたいですね」というような曖昧なレスをしたような記憶があります。 その後、YAHOO掲示板にも似たような書き込みがあり、 別のラピュタサイトの掲示板でもその話題で盛り上がってました。 しかしジブリ公式サイトの「スタジオジブリ日誌 2002年12月13日」の日記で否定されているとおりです。 詳しくは実際にご覧ください。http://www.ghibli.jp/15diary/000102.html
 すでに下火になった噂ですが、曖昧なレスは妄想膨らませる要因になるし、ジブリにも迷惑がかかると思い、 そういう書き込みを見つけたときは、はっきりと否定したほうがよさそうです。

不自然な噂のエンディング
 けっこうバリエーション豊富なのですよ。あのあと、パズーとシータは飛行石を海に捨てたとか、 暖炉の穴に戻したとか、ドーラ一家のその後の活躍が見られるとか。 言ってることバラバラですね。本当に存在するなら一致してないとおかしいのです。
 まず、シータの飛行石は「バルス!」で、なくなってしまいました。小説版のとおり飛び散ったのです。 ですから暖炉に戻すことはできません。捨てることもできません。 それにパズーはどうやってゴンドアに行ったのでしょうね?? まさか凧?途中で落ちるか、凍死か飢え死にします。鉄道などの交通手段ですか?お金は? 見習い鉱夫のパズーにそんな大金はありません。 噂では、どうやってゴンドアに行ったのか全く説明がありません。
 テレビ放映で1回だけ流れたという噂も、映画でなかったシーンがどうしてテレビにあるのでしょう? あとから作った?ありえません。あまりにも不自然です。作る意味もないし、何の利益にもなりません。 ジブリだって営利企業です。たった1回の放映のために作品を作り直すことはありません。 そこまで暇ではないのです。
 私は十数年も前から全国規模の私設の宮崎駿&高畑勲ファンクラブに入ってますが、 そのような話は全くありませんでした。ファンクラブのメンバーは私以上にマニアックで 知識が深い人たくさんいます。 ラピュタに関する資料でも、 こんな貴重なものが残っているの!?とビックリするほどの物を持っていたりです。 このような人たちがたくさんなので、そんな話があったら必ず話題に出ます。 そんなシーンを見た人もいませんし、噂を信じている人もいません。
 また、ジブリが完全否定しているので、内緒でテレビ局が勝手に作ったという噂もあります。 そんなことしたら裁判沙汰ですよ。 ジブリ以外の何者かがラピュタを作り、公共の電波に流すことは不可能です。既存のイラストを勝手に使うこともできません。 法律違反です。もちろん、私は(2004年以外の)テレビ放映しっかり見てますから、そんなものはないとハッキリ断言できます。
 さらに、いかにも噂らしいのは、インターネットが普及してから出たということです。 テレビ放映でそのような映像が流れたなら、どうして当時は一切どこにも記事にならなかったのでしょう? 誰も話題にしなかったのでしょう? ジブリと関わりの深い徳間書店のアニメージュにも全く書かれていないのです。

本当のエンディング
 ラピュタの本当のエンディングは皆さんご存知のとおり、 パズーとシータは凧に乗ってドーラ達と別れました。ここで映画は終わり。 絵コンテでは凧はどこかの港町に降りるところで終わってます。 小説版ではもう少し先の話まで書いてあります。シータをゴンドアまで送ったのは鉱夫のパイクさんです。 パズーはオーニソプターを作成中で、まだゴンドアには行ってません。
 しかし、宮崎監督が「13歳の少年がオーニソプターを完成させるのは不自然だ」と考え、 オーニソプターを飛ばすシーンは作られませんでした。アニメージュの付録カレンダーでは、 パズーがオーニソプターに乗ってシータの元にやってくる絵があります。 ボツになったシーンです。 「スタジオジブリ作品関連資料集1」に収録されてます。 これが噂の元になったのではないかというのがジブリ側の意見です。

見た時期が人によって違う
 また、噂シーンを見たという時期も徐々に変化してます。当初は劇場公開時でした。 その後、第1回テレビ放映、第2回、何回目か分からないけど数回目・・・ なぜこれほど変化するのでしょう?本当にあるのならこれも一致していないといけません。 おそらく、噂をする当人達の年齢が関係していると思います。 たいていは「小さい頃見た」という目撃談です。 「トトロが飛んでいる」の項で説明したとおり、子供は記憶を混同しやすいです。 不特定多数の人が同じようなシーンを思い浮かべる現象はあとで説明します。
 噂が出始めた当初、劇場公開から13〜14年ほど経ってます。 劇場公開時に幼稚園から小学校低学年ならば大学生になっています。 2000年頃、まだ小中学校にはネット環境が整っていませんでした。 教育機関でネットが自由に使えるのは大学か専門学校でした。 ネット人口は今ほど低年齢化してません。大学生ならネットに費やす時間がたっぷりです。 このような条件が整い、噂が広まったと考えられます。 現在、噂を信じた人達は、劇場公開時には生まれていないか、 小さすぎたので劇場で見ずにテレビ放映でファンになった若い世代です。 ですから年数が経つにつれ、見たという時期が後になっていくわけです。

なぜ証言が共通するのか
 もっとも多い証言は「パズーがシータをゴンドアへ送った」です。 その後は人によって「暖炉に戻した」「海に捨てた」と分かれます。 信じている人が更に信じる要因は「他人も同じことを考えていた」です。 こういうのを心理学的に何というのでしょうか。 インターネットの普及で急速に広まった噂を信じる集団心理の研究はこれからでしょう。
 おそらく証言が共通する原因はキャラの台詞にあると思われます。パズーの
「全部かたづいたらきっとゴンドアへ送っていってあげる。見たいんだ、シータの生まれた古い家や谷やヤク達を」
 二人はその後どうしたか想像をかきたてる台詞です。 想像力豊かな人、とくに少年少女は、 この台詞でパズーがシータを送るシーンを思い描いたでしょう。 パズーとシータの声や背景まで鮮明に思い描けば、より強く脳に焼き付けることができます。
 シータの台詞、
「だからいつも暖炉の穴にかくしてあって、結婚式にしかつけなかったんだわ」
 ここでも、もう一つのキーワード「暖炉」が出てきました。さらに、
「海に捨てて!」
 シータの名台詞の1つ、これも噂のシーンのキーワードです。 もちろん、「スタジオジブリ作品関連資料集1」の収録イラストが要因とも考えられます。
 そして物語は、パズーとシータが凧に乗ってドーラたちと別れるところで終わります。 この後どうなるか、いろいろ想像できるエンディングです。 見終わってからしばらくたつと、記憶はあいまいになります。 ラピュタはどんな映画だっけ?と思い出すとき、 心で思い描いた「パズーがシータをゴンドアへ送った」は、 エンディング後にそういうシーンがあったと脳内補完される可能性大です。
 ある映画を見て、数年後同じ映画を見ると、 「あれ?こんな話だっけ?」という感想を抱くことは誰にもあります。 シーンの順番を入れ替わって覚えていた、同じ監督だけどまったく別の映画を混同していた、 同じシリーズ内の映画でごちゃまぜに覚えていた・・・見たはずの映画、でもよく覚えていなかった。 よくあることですね。でも脳は現実にあったと感じています。 「トトロがラピュタ崩壊のシーンで飛んでいた」と言う子供の話がいい例です。 特に妄想しやすいキーワードが映画内に存在すると、 全くの他人が同じシーンを思い浮かべるのは珍しくないのです。

思い込んだら現実だと脳は判断する
 なかったものをあったと記憶違いするのはごく普通です。 警察になぜか連行されて、 やってもいないことを「やっただろ!」としつこく尋問されると、 だんだんそんな気持ちになる・・・よくある話です。だから裁判では自白だけでは証拠になりません。 アメリカでは逆行催眠で事件を解決する手法がポピュラーのようですが、 催眠術で過去の記憶を呼び覚ましても嘘の記憶だったということがあって、最近問題になっているようです。 幼い頃、父親に虐待されたと女性が裁判を起こし、実際にそのようなことがなかったのですが、 警察や娘に責められた父親は「確かにやった」と証言したという例もあります。
 実際、私も小説版ラピュタで友人を勘違いさせたことがあります。 要塞でロボットがゴリアテの砲撃を受けて力尽きようとするとき、 シータがロボットの指をつかむシーンですが、 小説ではロボットの目から黒い液体が流れます。実際の映画では液体は出ません。 それで私は友人に「テレビでは目から液体が出るシーンがなかったけどカットされたのかな?」 と聞きました。友人は「そういえばなかったね。カットされたんだよ」
 すみません、最初からそんなシーンはありませんでした。 実は、この友人は公開当時に映画館でラピュタを数回見てます。それでも記憶があいまいになります。
 このように、ちょっとした会話で記憶を改ざんさせることもできます。 「パズーがシータを送った」にしても、どこかでそういう話を聞いたら脳は簡単にシーンを構築できます。 たとえそのシーンを何十回も見たと言っても、 脳内では何十回もシーンを再現できるのですから、 現実に何十回も見ていなくても見たと思い込むこともあります。
 少数意見の「ドーラの活躍」にしても、もしシーンの順番を間違えて記憶したら、 そう思い込んでもおかしくないのです。 例えば、フラップーターで飛んでいるシーンをエンディングの後にあったものとして記憶していたり。
 逆の場合ですが、現実にあったこと、特に鮮明な事実を「ない」と脳が判断するのは難しいようです。 何度も繰り返した体験や、鮮明な体験の長期記憶は消えにくいのです。 噂のシーンがあったとしたらかなりインパクトあります。誰もが知っているのが自然です。 もし同じ映画を見た集団がいて、とある印象的なシーンがあったかどうかと議論になって、 「ある」「ない」と意見が分かれたら、「ある」と証言するほうを疑ったほうがよさそうです。 後から見直して「ない」なら、なおさらです。

どこにも記録がない
 テレビ放映説では、「ビデオ録画したけど、壊れてしまった」「なくしてしまった」とよく聞きます。 存在するなら必ず誰かが持っています。テレビ局にも残っているはずです。 しかし実際に持っていると言う人はいません。 2ちゃんねるにおける、すべての記録媒体の検証結果は「存在しない」でした。
 では、書籍や資料ですが、フィルムコミック、ロマンアルバム、絵コンテはもちろん、 天空の城ラピュタと名の付くすべての書籍持ってます。アフレコ台本も持ってます。 ラピュタ特集が始まった頃からナウシカ連載終了までの数年分のアニメージュもあります。 海外版ビデオ、VCDもあります。もちろん、噂のエンディングの記録はありません。 私はLDはありませんが、LDを持っている知人は「ない」と言ってました。

おしまい
 ここまで長文を読んでくださってありがとうございます。噂の正体、納得していただけたでしょうか。 ジブリがネット上の噂をわざわざ公式ページで否定するのは珍しいことです。 おそらく問い合わせが多かったのだと思います。 噂の広がる速度は、ここ数年で驚異的に伸びました。 噂の威力は恐ろしいですよ。企業が倒産することもあるのですから。 この噂でジブリがなんらかの被害をこうむることは考えられませんが、 嘘つき呼ばわりされるかもしれません。…考えすぎですけどね。 万が一でも、そんなことが起こらないようにしたいものです。 ネットでこの噂に関する話題がありましたら、誤解を解くためなら、 このページへの直リンクOKです。とくに連絡の必要ありません。
 もしまだ噂を信じ、当ページへの反論がありましたら、 録画したビデオを用意してからでお願いします。

おまけ
2007/8現在
 ついに見つかったという情報がありますが、結局のところ勘違いだらけでした。 この映像に関する真偽は一切問いません。 勘違いさん達が、これを見て納得できるなら一向に構いません。
http://uso8oo.com/

 ここで紹介されている噂は、すでにずいぶん形を変えて別物になっています。 3年前と申していますが、実際はさらに前です。 上記で、私が記述しているように、少なくとも2000年頃にはかなり噂になっていました。 その当時、ネットは今ほど普及していなかったので、そんな噂を知らないのは無理もありません。
 そもそも噂の最初は映画公開時に見たというものあり、静止画ではないというのが前提でした。 つまり、映画館で見ても、スタッフロールを見ても、勝手に妄想しても、勘違いが起きるということがよく分かります。噂が出た初期の頃、「映画館で見たけど、テレビでは放映されないのはなぜ?」とさんざん言っていた人達、これを見てどう思うのでしょうか。「そんなこと言っていない、あれはテレビ放映だった」と宗旨替えしそうです。