東京中央郵便局 (改修イメージ図)
 
 東京中央郵便局の建て替え、再開発計画が問題となっている。
 2月26日の衆議院総務委員会で、民主党の河村たかし議員の「中央郵便局は奥山の巨木」のように貴重な建築である、という発言に対して、鳩山邦夫総務大臣が次のように答えている。中央郵便局を壊すのは「トキを焼き鳥にして喰ってしまうようなこと」であると。
 又、3月2日取り壊し工事の現場を視察した鳩山大臣は、「利益追求主義で文化を壊していいのか。国の恥で国辱ものだ」とも述べている。
 鳩山邦夫大臣が文化について語るのは、私としてはとても違和感があるのであるが、今回の一連の発言にはうなずくことが多い。けっして上品なもの言いではないけれど。
 東京中央郵便局は、日本の戦前のモダニズム建築の代表作品である。建築家吉田鉄郎の設計で、1931年に完成している。日本の伝統的な建築の美を『清純さ』と表現し、世界の芸術の中できわめてまれな特質であるとブルーノ・タウトは言っている。そのブルーノ・タウトが認めた作品が中央郵便局である。『清純さ』をモダニズム建築として完成させたのが吉田鉄郎の東京中央郵便局であった。
 すぐ前に建つ辰野金吾設計の東京駅赤レンガ駅舎が、オランダのアムステルダム駅舎のそのまんまのコピーであったことを考えると、オリジナリティーと日本らしさという点から見ても、中央郵便局の方が建築的に評価されるべきであろう。
 日本郵政による今回の中央郵便局改築案は、「JPタワー」と呼ばれる。吉田鉄郎の建築の外壁の一部を残して、中央に38階建ての高層タワーを建てる、いわゆる「かさぶた」保存という手法である。
 基本デザインはアメリカの建築家ヘルムート・ヤーンによるもので、ガラスの紙飛行機のような高層棟が吉田鉄郎の5階建ての建築の上に天から落ちてきて突きささった造型となっている。
 紙飛行機が日本建築の美へのオマージュというわけでもないだろう。むしろWTCビルに飛行機が突っこんだ9・11のパロディとしての建築と言えようか。どう考えても『清純さ』には程遠いデザインである。
 「日本中に平凡な建築をいっぱい建てたよ」というのが吉田鉄郎の最後の言葉であった。平凡と見える中からにじみ出てくる日本建築の美しさ。忘れてはならない大切なこと、『清純さ』という美徳を私たち日本人は失おうとしている。

 建築家 野口政司
 
2009年3月11日(水曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より

失ってはならない ― 東京中央郵便局

野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates