about : ツリー作るよ


静止した闇の中で

年の瀬押し迫る、12月某日、家に付いた私を迎えたのは、青く光る謎の物体だった。異星人の侵略か!? と思いきや、それは体長 20cm ほどの、青く光るクリスマスツリーだった。だがしかし、それだけではなかった。ツリーは時間と共に赤へ、そして青へと点滅を繰り返す。幻想的な光景に目を奪われつつも、入浴のために裸体になる私であった。

それから数日の間、私の楽しみはと言えば、もっぱらそのツリーを見ることにあった。どんなに遅くなろうとも、必ずツリーを眺め、そして裸体になった。仕事で疲れようとも、苦にはならなかった。その輝きを守るためならば。

しかしそんなツリーの様子が、最近ちょっとおかしい。数日前まではあんなに輝いていたツリーに、どことなく陰りが見え始めたのだ。一体なにがそうさせたのか。それを思うと気が気ではなく、仕事も手に付かない。何とかしなければ。私が何とかしなければ。ただそれだけを思うも、どうしていいかも分からず途方に暮れる毎日だった。

なす術は無かった。いや、正確には、あった。だが、それはもうやらないと決めた事だった。なすべき事となさざるべき事が、正弦波の様に振動を続けている。それは多分 (2πCR)^(-1) の周波数で。しかしその振幅は、目に見えて小さくなっていく。

私は意を決し、ツリーと向き合う事にした。

ツリー、どうやら体力を消耗していたいようだ。単四電池 4本では、毎晩の過酷な労働にはムリがあった様だ。何だ、そんな事か。俺に任せろ。俺がやる。

光らないツリーを待つのは、もう止めよう。

光らない、ツリー

私はさっそく街中を走り回り、道具を手配した。

やる事は簡単だ。電池四本=6V の電圧をアダプタから供給し、ツリーを疲れ知らずのナイスガイに仕上げようという魂胆だ。

ちなみに上記 4点を購入した時点で約 4000円の出費。電池を沢山購入した方が安上がり、だなんてご指的は遠慮願おうか。しかも買ってきたワイヤーが細かったため、ワイヤストリッパーは結局役立たずだったとか、そんな細かいことは気にしなくていい。

接続は簡単。電池は 4本直列接続しているだけなので、その両端にアダプタを接続するだけだ。そこで登場するのがこのアダプターの受け。こいつからワイヤーを端子に繋げれば作業終了。作業時間はおよそ 30秒だ (主に半田ごての熱待ち)。

さあ、あの明るさを取り戻した姿を私に見せておくれ。そんな言葉を胸に、電源を入れた。

一瞬、まばゆく光ったかと思うと、それ以後ツリーは全く光らなくなってしまった。試しにアダプタを外して電池を入れてみても、その輝きは、戻る事はなかった。

何故なんだ━━━━━っ!

ツリーを胸に抱きつつ、澱んだ空に向かって叫んでみても、どしゃ降りの雨がそれを掻き消すばかりだった。

男の戦い

私は、ジャージを穿いていた。

私は、体育座りをしていた。

虚ろな目をした私の前に、ツリーは光る事を忘れ、横たわっている。

僕はちゃんとやったんだ。5Vで動く回路に 6V を加える様な回路を組んだヤツが悪いんだ。僕のせいじゃない。

心の中でそう呟き続けた。確かにそれは真実だったが、だからといってツリーが元に戻る訳ではない。そう、その通りだ。分かっている。

そこへ、私の耳に何かが囁きかけた。"君には君にしかできない、君にならできることがあるはずだ。"

"ダメだ、逃げちゃダメだ。"

私は意を決し、"私にできること" と向き合う事にした。

秋葉原へ出掛け、部品を手配した。

やる事は簡単だ。NE555 のカウンタで 2秒の矩形波を作成し、それでツリーを点滅させようという魂胆だ (回路図は→ 仮に "S2回路" と呼称する)。

ちなみに本来は2相の正弦波振動にして赤と青が交互に、しかも重なりを持つような点灯をさせたかったのだが、部品点数の関係上これは諦めた。

絵図が決まったところで作業に掛かる。久しぶりに持つ抵抗に抵抗を覚えつつ、ワイヤーストリッパーで足を切り揃え、基板の上に載せていく。配線を頭に思い描きながら部品を半田付けしていく。すると配線が足りなくなったので、ワイヤーとストリッパーを捕ろうとした瞬間、悲劇は訪れた。ワイヤーストリッパーが私の手から滑り落ちたのだ。制御を離れたそれは、空中を回転しつつ落下する。"止まれ、止まれ、止まれ"。しかしそれは、私の目の前に置き去りにしてあった、ワイングラスを直撃した。

飛び散ったクリスタルグラスを見て咆哮する私。もう私を止める手段はない。

狂ったように半田付けを続ける事数分、ようやく回路 S2 が完成した。

後はアダプタを繋いでツリーに装着して概観も整ってほぼパーフェクトだ。

まごころを、君に

こうして私は、心のよりどころを取り戻した。ツリーが点滅する様子を撮影した動画もあるのだが、容量の都合でお見せする事はやめておく。しかし私の手で作った回路によって点滅するツリーの様は、私に十分な満足を与えてくれた。

ただ一人部屋の中、ジャージで体育座りをしながら観ている自分には、満足はできなかったが。

そこへ、私の耳に何かが囁きかけた。"何が欲しいの?"

その答えは決まっている。それは君の…


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