about : 亀有・旅酒場


記憶の断片に

そう、俺には確かに見覚えがあった。だからだと思う。俺がここへやって来たのは。だがそれはあまりにもおぼろげで、頼りない、そんな記憶の断片でしかなかった。だからだと思う。俺はここへ、それを確認しに来たんだと思う。けりをつけようと。

記憶の断片が

確かあれは、ちょうど今頃の、暑くもあり湿り気もあり、空の色は鉛のような、昼でも薄暗くて、しかし夜が来るのは遅い、そんな時期だったと思う。あまり歩き慣れていない通りを歩いていると、何やら賑やかな光が目に入ってきた。小さな家の軒先に幌を張った間仕切りともいえない中から、男共が奏でる喧騒が聞こえてくる。ちょっと覗いてみれば、そこは酒場の様だ。居酒屋でもなく、バーでもなく、酒場だ。厨房を囲んだ長いすに男共がひしめき合いながら、酒を飲んでいる。この平成の時代に、昭和の中枢へと引き戻されたかのような、由緒正しい酒場の光景だ。

記憶の断片を

そう、俺はここへやってきた。

亀有旅酒場


亀有旅酒場


俺はすっかり忘れていた。いや、何度かはその光景を思い出し、探してはみた。だが、ついぞここへ辿り着く事はできなかった。それには訳があったのだろう。今こうして辿り着いたからこそ、このインパクトがあるのだ。店はきっともう、やってはいないのだろう。いつやめてしまったのか、どれだけの歳月が過ぎたのか、推し量る気にもなれない。今はただ、このインパクトがあるのみだ。


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