ある日、私はバイクである道を走っていた。その道はよく走る道だったが、最近はバイクで通る事が少々少なくなっていたと思う。だが、旧知の道だった。そしてある箇所の信号で停止し、ふと脇の、ある建物を見た。
そこには、今まで見たことのないのれんが貼られていた。これが貼られたのは何時だろうか?多分ここ数年の事だろうと思う。でなければ、こののれんの存在にとっくに気付いていた筈だろうからだ。
どんなに言葉を費やすよりも、見てもらうべきだと思う。とくと見よ。
葛飾区立石の駅近くに聳える "寅一" ののれんがこれだ。
八名信夫氏のニッカポッカ姿が勇ましい。
まあその、ニッカポッカ姿は善しとしよう。
問題はこの冠だ。どういう事だ!?
ああ、建築王とかそういう事か。建設業界のドンとかの。
名を為すした後でも、作業員だった頃を忘れないという、
叩き上げ根性や善し。
葛飾区立石といえば、昭和の香りが色濃く立ち込める現代の桃源郷としてしられる地だ。駅前でさえ高いビルも少なく、個人営業の小さな店が軒を連ね、気さくな住民たちが挨拶を交わす光景がよく見られる。そういう土地において、ニッカポッカ姿の建設作業員というのは、しっくりくる、そんな気がしないでもない。
がしかし、私の知る限り、こんな冠を被った建設作業員スタイルは今までにない、新しいスタイルなのではないだろうか。とすれば、この立石という土地柄とは少々矛盾を憶えなくもない。もしくは、コマーシャリズムにありがちなおふざけなのだろうか?
否!
それはこの、八名信夫氏の表情を見れば分かる。
この、八名信夫氏の真顔を見よ!
この顔を見て、おふざけだなどと感ずる者などいよう筈がない。
そう、これこそ立石流の、新たな建設作業員スタイルなのだ。21世紀、これからは "真顔に王冠"、これに決まりだ。