about : 鉄拳サイン会に行ってきた



序章-ジェラシー-

 それは会社で仕事をしている時のことだった。一緒に仕事をしている人がいきなり

"鉄拳のサイン会行くんですか?"

と切り出してきたのだ。私は何のことやらという表情をしてはいたが、内心穏やかではなかった。なにせ鉄拳のサイン会だ。私が知らないというのに、なぜアナタは知っているの!? 驚きと募るジェラシー。私はハンケチを取り出し、ぎゅっと噛みしめた。
 というのはウソですが、詳しく聞いてみると鉄拳の本 "こんな○○は××だ!" を購入した人先着 100名にサイン会の整理券を配るとの事。鉄拳サイトに link を設置している程のこの私が、参加しないわけにはいかないだろう。という事で、まず "こんな○○は××だ!" を購入しに行くこととなった。ただ、販売は翌日からとの事であり、鉄拳サイン会を心に描きつつ、明日の到来を待つのであった。

第 1章-買う-

 翌日、鉄拳本 "こんな○○は××だ!" を買うその日。しかし今日は金曜日、平日。出勤時間に書店は閉まっており、購入は昼休みないし退社時まで待たなければならなかった。
 いざ昼休みになると、購入をすっかり忘れて普通に食事。気付くと書店へ行くには時間が足りない。そこで不安を紛らわせるために職場の方と雑談。

ひろき:"まあ、帰りの時でも大丈夫だよね?"
他の方:"いや、でも鉄拳って一応 TV 出てるし…"
他の方:"それに川崎は結構人多いし…"
他の方:"多分午前中にハケちゃうんじゃない?"
ひろき:"いや、でも、鉄拳だし…"
他の方:"帰りだと、まず無いでしょうね。"

不安を解いてくれる人は誰一人居なかったという。

 夕闇が迫るころ、仕事を終えた私は早足で書店に向かった。鉄拳本 "こんな○○は××だ!" を発見するも、サイン会の告知や説明が見当たらない。

整理券はハケてしまったのか!?

書店内を一周すると、鉄拳本は三箇所で平積みになっており、数はそんなに出ていないようだ。そしてサイン会の告知ポスターやら何やらも見当たらない。そこでサービスカウンターで聞いてみることにした。

ひろき:"鉄拳のサイン会なんですが…?"
店員A:"はい? "
ひろき:"あの、鉄拳の本を買うとサイン会の整理券を貰えると聞いたんですが…"
店員A:"それでしたら購入してからこちらへ来て下さい。"
ひろき:"じゃあまだ整理券はあるんですね?"
店員A:"(笑顔)"

満面の笑顔を湛え、私は "こんな○○は××だ!" を購入した。
サービスカウンターでは先ほどの店員さんが対応してくれた。
頂いた整理券の番号は 34番だった。

"全然ハケてねぇじゃねぇかー!"

三十路男の慟哭が、天を貫いた。

第 2章-あやうく-

 今日は鉄拳サイン会の日。そのためにやや早めに起床し、身支度をした。
しかしあまりにも時間があるので PC などいじり始める。最近気になっているセキュリティ関係をちょろっと調べつつ、その関係の本など読み始める。そしてふと気付くと

只今の時刻は 13:40

鉄拳サイン会は 14:00〜15:30、場所は川崎。移動には概ね 1時間 30分を要する。すると、悪魔が囁いた。その顔は白塗りに黒の隈取りがなされ、本という字が逆さに書いてあった。

悪魔 :"今からじゃ間に合わないって。止めちまえ、止めちまえ。"
ひろき:"いや、でも急げば間に合うかも…"
悪魔 :"じゃあ百歩譲って間に合ったとして、所詮鉄拳だぜ? そんな価値があるのか?"
ひろき:"まあ、多分数年後には紙屑になってるかもしれないけど…"
悪魔 :"ああ、きっとそうさ。止めちまえって。"

その時、天使が光臨した。その顔は白塗りに黒の隈取りがなされ、本という字が書いてあった。

天使 :"こんなひろきはイヤだ! 整理券を貰っておきながら、サイン会に来ない!!"
ひろき:"解りました。只今伺います。"

危うく負けるところでした。

第 3章-サイン会-

 普通家から川崎へは 1時間 30分を要する。しかも休日の昼間となれば電車の間隔も長くなるから、サイン会には間に合わないのではないかと思っていた。しかし奇跡が起こる。夢は現実となる。
 亀有駅に着くと丁度電車が到着するところ、そのあと京浜東北線の快速に丁度乗る事ができ、サクサクっと川崎に到着。その間約 1時間。思いが深ければ、それを成し遂げることは叶うのだ。神は存在するのかもしれない。

 そして私は時間に間に合い、サイン会会場入りを果たす。

 サイン会会場では既にサインが始まっており、数十人の人だかりがあった。暫く様子を伺っていると、どうやら整理番号 80番台の人がサインしてもらっている模様。遅かったか!? などと思っていると、こんな話し声が聞こえてきた。"さっきはネタやってたんだぜ。" なんてこった! ジーザス!! 生でネタが見れたかもしれないというのに!!! しかしそれは過ぎた事。問題はサインをしてもらえるかどうかだ。そこで人だかりをかき分け、スタッフを捕まえて質問した。

ひろき:"すいません、私 34番なんですけど…"
スタフ:"列に並んで下さい。"

 あっけない。何のこともなく、サインを貰える運びとなった。
 列に並び約 10分、ある意味さらし者となりつつ順番を待った。
 そして、鉄拳が私の前にやって来た。(相対的表現)


事も無げに黙々とサインをする鉄拳。するとあの頼りない声が聞こえてきた。

鉄拳 :"首吊りはどうしますか?"

どうやら首吊り絵がデフォルトサービスになっているらしい。しかもキャラを選ばせてくれるという。そこで


ひろき:"じゃあいつものヤツでお願いします。"
鉄拳 :"じゃあ僕でいいですね。"

とサラッと言ってのけた。自分の首吊り絵を描くことに疑問を覚えたりはしないのだろうか?


そこへすかさずカメラを構え、

ひろき:"写真いいですか?"
鉄拳 :"どうぞ。"

といってポーズをとる鉄拳。サービス満点だ。


そして最後に固く握手をした。
鉄拳の手は案外大きく、乾いていて、冷たかった。

鉄拳 :"よろしくお願いします。"
ひろき:"はい。"

かっこいい台詞とはいえないが、これが一番誠実な答えだと思った。
そして私は、会場を後にした。

その時、サイン会会場でこんなアナウンスがあった。
"会場でも本をお買い上げの方に整理券を配布しております…"

"100枚サバけてないんかーい!"

それは鉄拳の人気が、日本の人口の 1ppm 未満であると判明した瞬間だった。


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