それは、いつもの通勤途中の事だ。東京駅から乗った東海道線の窓の外、流れる光景の中、低層ビルの外壁を工事する1人の男性の人影を見掛けた。だがそれには、何とはなしに違和感を感じた。電車から見た、ほんの一瞬の景色であったにしても。そこで私は、現場を調査する事にしたのだ。
現場は大井町から大森へと向かう途中、JR線路の西側。元々この地域には土地勘など無く、よくよく考えてみれば大森で下車した事などないし、車バイクで赴いた事のない地域だった。いつも野生の堪を頼りに行動する私だが、今回ばかりは現場へ辿り着けるか少々不安を持っていた。
大森についた。私の不安を映し出すかのように、空はどんより曇り、16:00 頃だというのに辺りは薄暗い。
駅からしばらく北へ歩いていると、えもいわれぬオーラを放つ路地に辿り着いた。私は吸い寄せられるように路地へ入っていく。
路地の先に線路が見える。現場は線路沿いだ。ここから線路沿いへ向かうとしよう。
オーラの発生源は、コレか?。
進学はよしとして、能力開発って何だ?
超能力とかか?
ヘッドギアとか付けるのか?
あやうく能力を開発されてしまう危機から逃れ、路地を通り抜け、線路沿いの道に来た。するとそこには、彼(か)の現場が待ち構えていた。そしてそこには、私の想像をはるかに超える光景が広がっていた!
人数が多かったので、気乗りはしないが、仕方ないから 1人づつ紹介していこうと思う。
左端の彼がレイザー(仮名)。窓拭きモップ担当だ。窓ではなく壁面を拭いているところに、彼の人並みはずれたセンスが伺える。
中央の彼がブレーザー(仮名)。彼がこの 3人のリーダーだ。担当はペイント・ローラー。
リーダーに相応しく、仕事も軽快・余裕すら感じる。ここまでになるのに 5年の修行が必要らしい。
彼はその修行時代の苦労話を私に語ってくれたのだが、クソ面白くもないのでここでは割愛する。
右端の彼がブレイド(仮名)。まだ見習いだけに、担当はない。ぱっとみ仕事をしているようだが、実は何もしていないのが写真をよく見ると分かる。
何故仕事をしないのか理由を尋ねてみたところ、"そんな事オレが知るか! お前が考えろ!!" という回答を得た。
私があの日目撃した光景は、目の錯覚ではないことが確認できた。そしてその時違和感を感じたのは、決して間違いではなかった。何故なら、彼は、1人ではなく 3人だったからであり、その内 1人は何もしていなかったからだ。
現場に到着するまでは、行った事もない街に赴いてまで現場を確認する事に疑問を感じていた私だが、現場へ来た今となっては、ここまで足を運んだ事に大変満足している。やはり現場百篇、現場へ行かねば確認できないこともあるのだな、と大いに感心した次第だ。