人は何故マスクを被るのだろうか?
マスクの歴史は、驚くほどに古い。私の記憶の中で最も古いものは、ツタンカーメンのマスクないしはアガメムノンの黄金のマスクだろうか。
ツタンカーメンは紀元前1334年にエジプト王に即位したが、その時既にマスクを被っていた事が壁画等に記されている。
アガメムノンの黄金のマスクは、トロイ戦争のギリシャ軍指揮官、ミケーネ王アガメムノンが出征の際に被っていたものだとされている。
また、大航海時代の航海家マスク・ダ・ガマは、喜望峰をまわってインドに到着した際、マスクを被って上陸の一歩を記したという文献もある。
日本では、戦国時代の武将、高坂弾正マスクが戦いに赴く際に兜の下にマスク状のものを付けていた事は有名である。
戦いに歴史あり
戦いにマスクあり
この様に、人類の歴史とマスクはとても綿密な関係にあるのだ。
そして現代でも、人のマスクに対する思いは深い。それは普段耳にする歌謡曲の中からも見て取る事ができる。以下に 2つの歌の歌詞を挙げよう。
被りたい (沢田知加子)今年もメキシコへ行くって部屋とマスクと私 (平松愛理)
いっぱいマスクも被るって
約束したじゃない
あなた 約束したじゃない
被りたい
部屋とマスクと私
愛するあなたのため
毎日被っていたいから
時々マスクを買ってね
愛するあなたのため
マスクでいさせて
関連して、芸能関係にもう少し言及してみよう。映画では Jim Carrey 主演、1994年、GAGA HUMAX の "MASK" はあまりにも有名だし、第一THE MASK、ミル・マスカラス氏が主演した "愛と宿命のルチャ" (1998) はまだ記憶に新しい。そういえば彼の "ハンニバル・レクター" さえも、皮製のマスクを被っていた。
日本の芸能界には元女子バレー選手のマスク・直美という人も居る。ドラマ "スケバン刑事" では南野洋子が鉄のマスクを被り話題を呼んだ。
文学では、三島由紀夫の "仮面の告白" があり、デュマの "ダルタニャン物語 10巻" の題名は "鉄仮面" だ。
"仮面ライダー" はマンガ界のマスクの代名詞だろう。他にはほりのぶゆき氏の "旅愁マスク" がある。そして何より "変態仮面" は鮮烈な記憶と共に残っているのではないだろうか。
動物にもマスク・ラットというネズミがいる。
果実の王様、メロンの中でも最も有名なのはマスク・メロンである。
半導体産業の分野ではマスクは欠かす事のできない物だし、マスク・ロムという製品もある。
この様に、現代においても人とマスクは切っても切れない関係にある事が分る。
人は何故マスクを被るのだろうか?
残念ながら私には、この問いに応える事はできない。
しかしそれは、答えが分らないという意味ではない。
人はマスクを被る、ただそれだけなのだ。人は人であるが故にマスクを被る。それは人が呼吸をする、食事を取る、眠るといったプリンシパルな事象と同系列であり、そこに理由などないのだ。登山家に何故山を登るのか、等と問うのは愚問である、というのと同じ事。敢えて言うなら、人は人である限りマスクを被る、そういう事なのだ。