今年は猛暑と言われ冷夏と言われ、そして結局猛暑だった。 そんな夏といえば思い出す、黒い影。 家具の隙間、壁の角、ふと見ると蠢いている、6本足の難いヤツ。 今年はヤツと出会ったのは一度きり。それも上首尾に撲殺に成功。 その時のヤツときたら、腸を出してピクリとも動きやしなかった。 よし、今年の夏は上々だ。そう思った。いや、そう思っていた。 そんな夏が終わりを告げようというある日、お世話になっていたティッシュが 残り少なになってきているのに気付いた。そしてその、最後の一枚を シュッと引き上げた時、箱の中でカラリと音がした。 おやおや、ティッシュのダンナも赤球ですかい? 私はひげた笑いを浮かべながら、その音源を確かめようとした。 ティッシュの箱を振る私。 箱からはカラカラと音が聞こえてくる。 その時、黒い影が、 見えた。 水分が完全に飛び、精気の欠片すらないままに、ヤツは箱の中いた。 一体いつからそうしていたのかは分からない。 ただ、私が鼻をかんだり、尿とは違う何かを放出したりした時に、 かすかなエッセンスとして触れていたであろう事は、想像に難く無い。 嫌なほど真っ青な空を見上げると、そこには入道雲なんて無くて、 無数のうろこ雲が広がっている。ヤツの姿を空に思い描いてみた。 無数の雲が、ヤツの大群の様に思えた。 夏ももう終わりだな、そう思うしかなかった。 |
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