母さんが夜なべをして、手袋編んでくれた "母さんの歌" の一説だ。これについてはこれ以上の説明は不要だろう。 この歌についてはやれジーンとくるとか母の深い愛を感じるとか、 そういった言葉が伴う事が多い。 この歌について、ふと思った事がある。 この日本に、こういう愛が本当にあったのだろうか。 この問いには、個々人人さまざなま思いがこみ上げてくるだろうと思う。 そして私の答えは、"きっとあったに違いない" という事だ。 それは歌になるほどのものなのだからきっとあるだろうというのもあるが、 私の両親を見ていると、多分そうだろうと思えるからだ。 今、果たしてこういう愛がそこかしこに溢れているかと問われると、 そこかしこにあるとは答え難い。 だが、昔の日本にはそこかしこに溢れていただろうと思っている。 そしてそれが徐々に失われているのではないかと考えている。 それは私が古い人間だからだろう。 あまりにもありふれた言葉ではあるが、人の生活は豊になったが、 それに応じて失った物もあるのだろう。 確かに今、私達の生活は豊になった。だがもしこの歌の歌詞の様な 愛が失われたのだとすると、私達はどこかで舵取りを誤ったのではないか。 手袋など、今ならほんの小額の金銭で買えるもので、夜なべなど する必要はない。冷たい手を温めるなら、幾らでも方法はあるだろう。 だのに夜なべをして手袋を編んでやりたいと思う気持ちは、一体どこから 沸いてくるのだろうか。 そういった気持ちが持てる様な人間になれると良いと思うが、 果たして私になれるものなのだろうか。 これはどんな良い大学に入るよりもどんな良い会社に就職するよりも もっと難しい命題に違いない。 |
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