俺ももう中年と呼ばれるに十分な歳になった。 中年になるとどうも体のそこかしこにガタがくる。 だから、人間ドックを受ける事にした。 身長体重からX線検査まで一通りこなすと、最後に 待ち構えているのは直腸検診だ。 肛門への異物挿入、それは男としての未体験ゾーン。 興奮や期待よりも、むしろ恐怖感と背徳感が俺を襲う。 そしてそれはこの、カーテン一枚隔てた向こうに待っている。 深呼吸一つ、俺はカーテンを潜った。 そこには、一台の機械が置いてあった。 よく見てみると、機械の側面に説明書きがある。そこにはこう書いてあった。 <<使用法>>愕然とした。 何と恥ずかしい。しかも医者にやってもらうならともかく、 自らが挿入し、しかも回転するとは。 だがこれは医療行為だ。しかもこれをやらなければ会社から 怒られてしまう。ここはぐっと我慢だ。俺は恥ずかしさを堪え、 事に望む決心を固めた。 緊張で口にたまる唾液をごくりと飲み干し、機械に跨った。 ゆっくり腰を下ろし、くるりと一周した。 "ブー" 機械から音が発せられた。そして液晶ディスプレイには "Error!" の文字が浮かんでいる。読み取りに失敗したのだろうか? 仕方なしにもう一度回るも、"ブー" という音が無情に響く。 どうした事だ!?回り方がまずいのだろうか? そこで回転スピードを変えたり角度を変えたりしてみたが、 何度回っても同じ音がなるばかりだった。 途方に暮れる俺だったが、それとは別の、とある感情が ふつふつと湧き上がってきている事に、俺は気付いた。 この全裸で、器具に跨って一周するのは、実は楽しいのだと。 そして両手を挙げて笑顔になれば、もっと楽しいに違いないと。 意を決して、俺は両手を上げた。 そして最高の笑顔で、くるくると回転し始めた。 一周、"ブー" という音の代わりに、"ピンポン" という音が響く。 やはりだ!やはり間違ってはいなかった!! この装置の設計者も、きっと同じ感情だったに違いない。 俺は調子にのって、二週、三週と回り続けた。 その時、病院のスタッフがドアを蹴破って一斉に駆け込んできた。 |
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