その日、俺は銀の玉を弾いていた。 別に金玉を弾いていたのではない。 痛いからな。 ああ、まあそれはいい。 少々の出球で景品交換所に駆け込む俺を 待ち構えていたのは長蛇の列。 どうやら休憩時間明けらしい。 しかたなく、列の最後尾で交尾する事もなく待つ。 するとそこへ、ろれつの回らない声が響く。 "兄貴どこいくんだよ?" "次、ここ入ろう。" 酔った男 2人連れの声が、18:00 の亀有の街に響く。 入った先は風俗営業店らしい。 兄貴と呼ばれた方が一足先に店に入る。 "ああダメだよ、どうせ勃ちゃしねぇ" 何とも切ない言葉が飛び込んでくる。 そしてその男は酔いつぶれているのか、 その店の前でヘタり込んでしまった。 丁度、列に並んでいる俺の目の前に。 俺は音楽を聴きながら、遠くを見つめた。 そういえば、猿は目を合わせると襲ってくるという。 しばらくすると、男はクダを撒き始めた。 "何なんだこの行列は?" "どうしてこんなに並んでんだ?" "おま"ピ─"か?" 勘弁して欲しい。 笑ったらまずい。 俺は顔をそらし、 必死に堪えたが、 肩で笑っていた。 すると兄貴と呼ばれた方が痺れを切らせて外へ出てきた。 "ああ、これはパチンコの両替だ、いいから入ろう" "両替って何だ?" 酔いがひどくて状況を理解できていない様だ。 兄貴が立たせようとしても、ヘタり込んだまま動こうとしない。 さすが "勃たない" とカミングアウトしただけの事はある。 そこへ店のマネジャーが様子を見に来た。 男の様子を見るなり、マネジャーは判断した。 "お客さん、すいませんが今日はお断りします。" 酔客に騒ぎを起こされてはたまらない、冷静な判断だ。 兄貴と呼ばれた男は一度は食い下がったが、 連れの男状態が状態だけに、すぐに諦めた。 そして男 2人、店を追われる様に立ち去っていった。 こうして、ようやく私に、平穏が訪れた。 … 列のはけが悪く、俺はまだ並んでいた。 すると俺の背後からこんな声が聞こえてきた。 "お客さん、すいませんが今日は…" 振り返ってみると、またあの男たちが 別の風俗店への入店を断られていた。 2連敗。 しかしきっと彼らは、この先も負け続けるのだろう。 俺は、彼らを楽天ブラザースと心中命名する事にした。 |
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