ここでは、ドラムについて語りたいと思う。 といっても、音楽のドラムの事ではない。 洗濯機のドラムだ。 戦後の日本では、大きなたらいに洗濯板を立てかけ、 手で洗濯をしていたという。これはまことに重労働であり、 この作業から主婦を解放しようという事で、洗濯機が発売された。 …というのは建前で、 実際のところは、洗濯槽の中に入り、回わって遊ぶためである。 この遊びは "洗濯槽回転遊び" と呼ばれ、昭和の子供達に広く普及した。 それは、昭和20年代後半の事である。 そしてこの遊びは、洗濯機の発達と共に変遷していく。 昭和30年頃には脱水槽を備えた二槽式が登場する。 これにより、今まで一人しかできなかった洗濯槽回転遊びの 二人同時プレイが可能となった。 昭和40年後半には一槽全自動機が開発された。 洗濯から脱水、回転の反転など、多様な回転を楽しむための技術が導入された。 その技術は、かつて洗濯槽回転遊びを経験し成人した世代に高い評価を得た。 しかしそれと同時に、表向きの機能である洗濯機能も格段に向上していた。 そしてそれは一つの不幸を生む。 斜めドラムの洗濯機の開発である。 開発当時は、アクロバティク、エクストリームなどと称して 持てはやされはしたが、やはり難易度の高さから敬遠される傾向が強い。 中には無理に斜めドラムに挑戦し、途中気分を悪くし、 もどしてしまう者もいたと言う。 その時のそれは、遠心力を伴ってより遠くへ飛散した、 という悲劇も伝え聞かれている。 それに何と言っても、趣に欠ける。 洗濯機は垂直に回るからこそ楽しいのであって、 斜めにまわるなど邪道ではないか。 そうは思わないか? 技術の発展は、時には人の生活を豊かにする。 しかし時として、大切な物を失わせてしまう、 斜めドラムの洗濯機を見るたびに、そんな事を思っている。 |
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