私は会社で一つの修羅場を乗り越え、帰宅途中だった。 電車が亀有駅に着き、さて降りようかという時、 私は何か違和感を感じた。 プレッシャー!? いや、正確にはオーラとでも呼ぼうか。 それを発していたのは、私の目の前にいる紳士の髪だ。 前髪から後頭部にかけては黒々としているのに、 もみあげと襟足にのみ白髪が密生していたのだ。 さてはと思い、私はつむじを探しに目を走らせた。 やはり、つむじなしだ。 そしてその時、目の先にまたもう一つの違和感を覚えた。 それはその紳士の後ろにいる別の紳士の髪。 そこからもただならないオーラが発せられていた。 その紳士の髪には分け目があったが、それは あまりにも不自然なものだった。 そしてやはり、もみあげから白髪が覗いていた。 やはり、つむじなしだ。 ニアミス! あわや大惨事。だが二人の紳士は目を合わせる事なく 背を向け合っていた。 まるでお互いを無視し合うかのように。 そこには暗黙の了解があった、と私は信じる。 それはさておき、あの頭の上の物体は一体何なのだろうか。 最近、壮年期の男性の頭部に付着している黒い物体を よく見かけたりはしていないだろうか? その真実に、今日は迫ろうと思う。 あれこそ、宇宙からの侵略を示すサインなのだ。 あれは一見カツラの様に見えるが、実は違う。 精巧にカツラを模した、人間コントロールマシンなのだ。 昔、宇宙人に連れ去られ、体に何か金属片を埋め込まれる −インプランテーション−という現象があったのを 覚えているだろうか。あの手法は、金属片を X線撮影などで 発見されてしまうため、現在は行われなくなっている。 それに代わって現れたのが、オペレーション・ブラックバード、 即ち黒々とした黒髪を模した頭部を覆う物体なのだ。 これはインプラントと同様、宇宙人の母船から発せられる 電磁波によって、人間をコントロールするためのものである。 しかも脳に近い頭部へ装着する事で、従来のインプラントより 制御性が格段に向上している。 しかもそれを装着された男性は、"おお、奇跡だ" と勘違いし、 何も疑う事なく生活を続けてしまうし、自分は昔からこんな だったんだと信じようとしてしまう。 また、その男性の周囲の人々は、"ああ、そういう事か" と 無言の内にそれを受け入れざるを得ない。 こうしてオペレーション・ブラックバードは、 人心を巧みに掻い潜って浸透しているのである。 だからといって、この黒い物体を装着された男性を助けようと、 むやみに黒い物体を外そうとしてはいけない。それはとても 危険な事だ。緊急事態を感知した黒物体が男性の脳に働きかけ、 男性を凶暴化させてあなたに襲い掛からせる事だろう。 宇宙人の侵略は、着々と進んでいる。 私たちにはもう、為す術はないのだろうか。 この件に関して、ディープスロートと呼んでいる私の情報源に 接触してみた。彼は、とある機関の諜報員として活躍している。 彼は言う。 ああ、もう為す術はないね。なにしろ、政府の人間も、この後、彼は何者かに連れ去られ、消息を絶っている。 これ以上暴露してしまうと私の身も危険なので、今日は ここまでにしておきたいと思う。 おおっと、あなたはこのとこをここではじめて知ったのだ。 オフレコですよ。秘密です。まさに、ハッシュ・ハッシュ。 |
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