それはとある電車の中、私が椅子に座っている時の事。 向かいの席には、席を譲ってもらうに相応しい爺さんが 座っていた。そしてその前の吊革には、ふらふらの酔漢。 そんなになるまで酒を食らいやがって、しようのない奴だ、 等と思って酔漢を見ていると、向かいに座っていた爺さんが |
いいから座れ! |
と言わんばかりに酔漢に席を譲った、というか、座らせた。 歩くのも大変そうなその足腰、俺が席を譲ろうかと思ったが、 きっと爺さんはそれを受け入れまい。そしてそれはは爺さんの 行動を台無しにしてしまうと思い、俺はただ敗北感を感じながら 爺さんを見つめるしかなかった。 まだ、私が信じるものが生きていて、それが間違っていない という事を実感する瞬間だった。敗北感を味わえる事が嬉しい 場合もある、という事を教えてくれる出来事だった。 格好いい江戸っ子は、まだ生きている。 |
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