「ジャ、ジャ、囓じらぇだが、痛ぐしたが。」
「プルルルルルル。」
「舌抜がれだが。」
「プルルルルルル。」
「なにした、なにした。なにした。じゃ。」
「ふう、ああ、舌縮まってしまったたよ。」
「なじょな味だた。」
「味無いがたな。」
「生きもんだべが。」
「なじょだが判らない。こんどぁ汝ぁ〔うなぁ〕行ってみろ。」
「お。」
おしまいの一疋がまたそろそろ出て行きました。みんながおもしろそうに、ことこと頭を振って見ていますと、進んで行った一疋は、しばらく首をさげて手拭を嗅いでいましたが、もう心配もなにもないという風で、いきなりそれをくわえて戻ってきました。そこで鹿はみなぴょんぴょん跳びあがりました。
「おう、うまい、うまい、そいづさい取ってしめば、あどは何〔な〕っても怖〔お〕っかなぐない。」
「きっともて、こいづぁ大きな蝸牛(なめくずら)の旱(ひ)からびだのだな。」
「さあ、いいが、おれ歌うだうはんてみんな廻れ。」
その鹿はみんなのなかにはいってうたいだし、みんなはぐるぐるぐるぐる手拭をまわりはじめました。
「のはらのまん中の めっけもの
すっこんすっこの 栃だんご
栃のだんごは 結構だが
となりにぃからだ ふんながす
青しろ番兵は 気にかがる。
青しろ番兵は ふんにゃふにゃ
吠えるもさないば 泣ぐもさない
痩せで長くて ぶぢぶぢで
どごが口だが あだまだが
ひでりあがりの なめくじら。」
走りながら廻りながら踊りながら、鹿はたびたび風のように進んで、手拭を角でついたり足でふんだりしました。嘉十の手拭はかわいそうに泥がついてところどころ穴さえあきました。
其の七