イミテーションはどっち



「見ろよ、ロイエンタール」
遠い、高い空を指さすミッターマイヤー。
遙か彼方の高みに、ぽつりと鳥の影。
「あんな風に飛んでみたいな」
蒼く澄んだ空を眩しげに見上げる瞳は輝くグレイ。
「飛んでいるだろ、いつも」
「戦艦なんて無粋なモノに乗るんじゃなくてさ、自分の翼で飛んでみたいと思わないか?」
谷間を渡る風に吹きさらされた蜜色の髪がふわりと舞った。
…黄金色の翼の小禽。
「例えて言うなら、卿は雲雀か」
「なんだよ、それ」
「ただひたすら高みを目指す」
言ってみて、あまりにミッターマイヤーのイメージにぴったりだと、一人ロイエンタールは可笑しくなった。
「その笑いは雲雀に失礼だろ!」
「ヒトフタマルマル、EWall異常なし。帰るぞ、ミッターマイヤー」
まだ笑いを含んだ声で哨戒任務の終了を報告すると、ロイエンタールは踵を返す。
碧空の彼方を舞う鳥の影に名残惜しげに一瞥をくれ、ミッターマイヤーはロイエンタールの後を追った。

満月が、谷底にある小さな前線基地を真昼のように明るく照らしている。
月明かりの中、安らかな寝息を立てているミッターマイヤーをそっと窺ってから、ロイエンタールは音を立てないよう窓辺に座り、手にした煙草に火を付けた。
揺らぐ紫煙が青白く光る。
…高みを目指す禽…か…。
いつか何かで読んだことがある。
空に憧れ、飛ぶことに焦がれ、蝋で固めた無様な翼で太陽を目指した若者の話を。
さしずめ自分に持つことが出来るのは、その醜い偽物の翼だ。
いつか太陽に灼かれ、墜ちていくだろう。
…所詮イミテーションだ…。
たとえそれが人類の知恵の全てをかき集めて作られたものだとしても、本当の翼にはかなわない。
天上へ届くのは純粋な本物だけ。
それは予感。

「どうした?ロイエンタール」
眠たげな声にロイエンタールは我に返った。
「済まない、起こしたか」
煙草を消し、寝台へと近寄る。
「早く寝ろよ」
もぞもぞと寝返りをひとつうつと、乱れた髪をシーツからはみ出させて再びミッターマイヤーは眠ってしまった。
…まあ、偽物には偽物の空がある…行けるところまで行ってやる。
「なあ、ミッターマイヤー」
囁きに答えはなかった。


いろは企画 「ゐ」 イミテーションはどっち 2003.10.22
「…はどっち」というお題とズレてる(T^T)
イミテーションは入れたから勘弁して貰おう(^^;;;
見えないモノにじたばたする男、ロイエンタール。
「なあ、どっちが本物なんだ??その右目と左目」にっこり笑って悪魔みたいな事を言うのはミッターマイヤー。
…いろいろ煮詰まってて、訳の解らないことを書いてみたりしました~(>_<)ノ

↑までが、当時のコメント。今読み返してもズレてるなぁ(滝汗)。

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