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"No Reply" words by Rim Jensen

5年越しの片想い

きっかけ

 皆さんは一目惚れをどう思うだろう。そんなことするヤツは軽い?信用できない?それとも、そうなってしまう気持ちもなんとなくわかる・・・・・・?

 いろいろ意見はあるだろうけれど、私の一目惚れの話を聞いて欲しい。5年に及ぶ片想いの話を。

 そう、あれはいつのことだったろう。正確な日付は忘れてしまったが、1999年の終わりか2000年の始め頃だったと思う。

 ADSLの世帯普及率はまだ低く、ISDN回線とNTTテレホーダイサービスが全盛の頃。そう、まだネットではGoogleの日本語サービスや2ちゃんねるさえ、生まれたか生まれてないかくらいの頃だった。

 当時、私が”少佐”と呼んでいたお方(※1)から、話題になっているというある音声ファイルをICQ(※2)を通じて戴いた。内容は漫談だった。そこで喋っていた人は正体不明ながらも「素人じゃないな」という感じがよくわかった。しばらく経って、同ファイルは人気となり、彼は「ペリーの人」「マルコの人」としてネットを席巻することになる。後で知ることになるが、それは劇団「大人計画」の宮崎吐夢氏が、雑誌『TechWin』の付録CD-ROMのコーナー、「さるやまハゲの助アワー」に掲載していた作品だった。(原題「ペリーのお願い」「マルコ・ポ−ロの帰還」)

※1:正式なHNは「ジョニー・ライデン少佐」。もちろん赤を駆るあのお方から取ったらしい。
※2:Yahoo!メッセンジャーやMSNメッセンジャーのようなもの。

 これが私と宮崎吐夢氏との運命的な出会い・・・・・・なのだが、今回は吐夢さんとはまた別の話だ。(笑)(※3)

※3:「宮崎吐夢記念館(CD)」「今夜で店じまい(DVD)」はもちろん持ってます。吐夢氏の外国人ネタは秀逸。喋っているのは日本語なんだけれど各国語の訛りを使い分けている。「クレヨンしんちゃん見て笑うの」をフランス語訛りっぽく「ケイヨンシンチューンミテワハウノン」と言う、あのセンスは凄い。w

 とにかくこれがきっかけとなり、私はネットに転がる面白い音声ファイルを積極的に集めるようになった。吐夢さんのようなネタものも探したが、私が主に集めたのは、ラジオやCDなどの音声を適当に編集し、面白おかしくした、所謂、「MADテープ」と呼ばれるものだった。

MADテープ

 そしてここからが本題。

 そのMAD音声とかMADテープとか呼ばれていた類の代物、今も探せばネットの至る所に落ちていると思う。もちろん大半は無許可の著作権違反物だけれど、中にはプロも唸るような職人技の光る面白い作品が少なからずあった。そんな作品に出会いたくて容量の小さいハードディスクが一杯になるまで貪るように探した。現在、素人作のネタFLASH探しにハマっている人はちょうどそんなものだと思って欲しい。

出会いと不幸の始まり

 そんなある日のこと。私は一つのMADテープに出会った。たくさんのネタをオムニバス形式でまとめた大きなファイル。内容は取り立てて秀逸というわけではなかったが、非常に印象に残ったことがあった。作者がファイルのエンディングに使っていた曲だ。

 音質は悪い上に原曲をだいぶん弄ってあるらしかった。フェードイン・フェードアウトを繰り返し、アニメの音声を挿入していたり、やりたい放題だったが、いい曲だった。一発で気に入ってしまった。曲名が知りたかった。

 今思えば、その時メールですぐ尋ねていれば曲名はわかっていたはず。しかし不幸なことに、―――――そういうファイルをUPするアンダーグラウンドなサイトにありがちな出来事だが、―――――運営者はさっさとファイルを引き上げて、サイトを閉鎖してしまったのだ。「いつでも聴けるだろうから今日はいいや」と高を括っていた私はバックアップをとることさえしなかった。もはや二度とその曲を聴くことは出来なくなってしまった。もう後の祭りだった。

偶然を信じて

 頭の中のみに残る、あのメロディ。一体誰が作った何という曲なのだろう。

 もう一つ残念なことにその曲はインストゥルメンタルで歌詞が無かったのだ。既に検索も人並みに使いこなし、ネット初心者は脱していた私だったが、これには参った。今日ですら動画や音声ファイルの検索というのは難しい。ようやく先日、Googleがそういった検索に力を入れ始めたというニュースが流れたばかりだ。

 歌詞があればその文言を手がかりに探すなり人に聞くなりはできる。しかしそれすら出来ない。

 鼻歌を歌ってそのWAVファイルを人に聴いて貰うという手もあるだろう。でもまだあのときはISDNの細い回線だったし、そんな恥ずかしいことをしてまで聞く勇気もなく、詳しそうな人が集まる場所を知る術も私にはなかった。

 私は考えた。ひょっとしたらあまり有名でない曲なのかもしれない―――――。第一、あのファイル以外で耳にしたことが無い―――――。プロが作った、何かの番組のテーマ曲ならいいが、万が一素人やセミプロの作品だったらアウトだ。二度と出会えることは無いだろう、と。

 私に残った唯一の救いはあの曲自体の素晴らしい出来、それだけだった。

 ルパン三世やスパイ大作戦(※4)を彷彿とさせる軽快なメロディー。冒頭からのワクワクさせるようなベース音。探偵ものや怪盗もの、スパイものの劇映画に似合いそうな曲だった。あれが素人の作ったものであるはずはない、演奏もそれなりに凝っていたし、きっとプロのものだ。だとしたら、いつかどこかでTVやラジオのBGMとして使われるのではないだろうか?その曲を収めたCDに偶然出会えるのではないだろうか?それだけが希望だった。

※4:ミッション・インポッシブルと言った方が有名だろうか。

目覚める旋律

 そして月日は流れ、2004年の年末。

 あれからずっとその曲のことを気にかけてはいたが、有線からもラジオからも、それが流れてくることはついに無かった。もう、諦めていた。

 そんなある日のこと。いつもどおりパソコンをいじっていた私の耳に、横で点けっ放しにしていたテレビからあの曲が突然飛び込んできた。

 飛び込んできたのだ。飛び込んできたのである。

 見たこともないアニメのDVDボックス発売のCMだった。

 CMだから15秒だったか30秒だったか。とにかくテレビから流れる情報に私は釘付けになった。

 すかさずその場で検索をかけた。

 それらしいタイトルのMIDIを見つけた。再生する。

 聴いた。

 間違いなかった。あの曲だった。

 目の前のMIDIが鳴り止んだパソコン、そのとき液晶画面を見ながら私は、実際には画面の5mくらい奥をぼんやり見つめていたような気がする。

 Amazon.co.jpで関連商品をブックマークして私は、歓声を上げるでなく、ため息を吐くでなく、しばらく部屋の中をただグルグルと歩いていた。ベランダに出てみた。

 空には星が出ていた。いつからか私の目は乱視で、眼鏡をかけないとダブって見えるのだが、その日は一層、ぼやけて見えた。

 「そうか、また会えたんだ。」

No Music, No Life.

 以上が、菅野よう子氏作曲の「Tank!」に対する、私の5年にもわたる片想いの話だ。同曲は98年に大人気を博したハードボイルドアニメ「COWBOY BEBOP」のオープニングテーマであることが後にわかった。

 後日、さっそくサントラを借りてDVDでアニメ本編も鑑賞した次第である。ああ、JAZZがちょっと好きになりそう。音楽って何て素晴らしいんだろう。

 「生きていて良かった」と感じる瞬間が人生には何度かある。もし私が誰かに「そう感じた瞬間って、どんなときですか?」と聞かれたとしたら、「あのときはまさにそうだった。」と答えるだろう。

 ・・・・・・貴方は音楽に恋したことがありますか?


あとがき

 http://d.hatena.ne.jp/madness/20050416に書いたものを加筆修正しました。

 人にはたくさん恋をしてきましたが、まさか自分が人以外のもの、単なる楽曲にここまで惹かれることになるとは思いませんでした。こんなに長い”生き別れ”にはその後遭ってませんが、今でもレコード屋の店頭ディスプレイで一目惚れをすることはたまにあります。(苦笑)<RED HOT CHILI PEPPERSの「By The Way」、LINKIN PARKの「SOMEWHERE I BELONG」など。

 逆の立場から言えば、それが有形無形に関わらず、これだけ人を惹きつけるものを作れたとしたらクリエイター冥利に尽きるでしょうね。羨ましい限りです。

 たまたまラジオを点けたら流れてたあの曲。街で耳に入ったあの曲。あれ、なんだろう、気になるな・・・。そう感じたことが誰しもあるはず。だからあのときの私の気持ちをわかってくれる人も、少なくはないんじゃないでしょうか。

 ちなみに私は昔からラジオっ子でして。ラジオを介してDJやリスナーが起こす、偶発的または意図的な奇跡のことを我々ラジオリスナーは”レディオ・マジック”と呼びますが、私と「Tank!」との出会いはまさに”インターネット・マジック”でした。

 出会いを大切に。人であれ、曲であれ、願わくばそれが貴方にとって素敵なものとなりますよう。お祈り致します。

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