
大前研一研究
テレビで大前研一氏を見なくなって何年にもなるが、著述業の方では、相変わらずご多忙のようで、コンサルタント本や海外の翻訳本を頻繁に手がけている。そんな中で最近もっとも興味を魅いたのが、ダニエル・ピンク著の「ハイコンセプト・新しいことを考え出す人の時代」である。
ダニエル・ピンクの著作では、過去に「フリー・エージェント社会の到来・雇われない生き方」が有名だが、4人に1人はFAと云われるアメリカに比べ、日本では働く人の会社依存度が強く、独立系のFAやSOHOは全体の一部に過ぎず、思ったよりは伸びていない。むしろ最近は、非正規雇用者が生産人口の3割を超えて格差社会問題化さえしている。
さて、「ハイコンセプト・新しいことを考え出す人の時代」は久々の好著である。
訳者の大前研一氏が「第4の波」に改題したくて、「第3の波」の作者、アルビン・トフラーと掛け合ったと言うくらいだから、相当な思い入れである。農耕社会、工業社会、情報化社会を経て、21世紀はコンセプチュアルな社会(創造性と観念性)だというのだ。
21世紀、これからの時代に求められるものは、ロジカル(論理的)ではなくて、コンセプチュアル、すなわち、機能だけでなく「デザイン」、議論よりは「物語」、個別よりも「全体の調和」、論理ではなく「共感」、まじめだけでなく「遊び心」、モノよりも生きがい、という6つの感性だというのだ。ひとことで言えば、「左脳」から本格的に「右脳」で思考する時代を意味する。
もっとも分かりやすい車を例にとると、どの車も性能は同じくらいになって、これから購買力を高めるには、デザインの良さであったり、どういうコンセプト(概念)で創られたかであったり、環境との調和を果たしているかであったり、大衆の支持が高く、遊び心もあり、多様な付加価値を持っていることが重要であるという。
そういえば筆者のホームページの他のフィールドの中に、以前から「付加価値人財支援システム・まかせてネット」を発想しているが、まさにこれからのビジネスはこの多様な付加価値能力を求められているのである。
大前氏は、以前に「右脳革命」や「遊び心」という本を書いたこともある。この翻訳本はまさに「水を得た魚」のように思われたことだろう。
その昔、筆者も「大前&アソシエーツ」で企業家養成「上級」講座を受講したことがあったが、「仮説と検証」が専らの経営理論だった。今振り返ると、「右脳と遊び心の理論」の方が身についたかも知れないなぁ!?。
大前さんを知ったのはかれこれ10年前に遡る。「マッキンゼー・ジャパン」を退社して、当時の政治のあり方に義憤を感じた彼は、1992年「平成維新の会」を旗揚げした。生活者(決して消費者ではない。当時も今もこの表現が好きです)の視点で、世直しをしようと100万人の会員を募ったが、そんなには集まらなかった。
今思えば、バブルの終焉で揺れた細川政権の頃であった。でも一時は「平成維新の会」の推薦する議員が82人も衆議院選挙で当選した事もあった。たまたま北海道支部で、組織役員を2年ほどやったが会員数もジリ貧となり、その後有志で作った「北海道ルネッサンスの会」に衣替えとなり、地域活動を2年やった頃にこれもまた散会の憂き目となった。
彼とはその後もテレビの「ガラポン道場」から「頑張れ!日本」で、殆ど毎週お目にかかっている。東京都知事に落選して数億の借金をかかえ、大変だなと思ったが、見事に復活され、今や押しも押されもしない国際的経営コンサルタントとして、八面六臂の活躍ぶりである。マレーシアの情報化・スーパーコリダー計画でマハティール首相のコンサルタントをやったり、NTTが電話産業からマルチメディア産業に大きく舵を切った時のコンサルティングをやったりと、アイデアと世界的視点からのアドバイスは、多数の経営者から信頼を勝ち得ている。
昨年期せずして本人に直接会うチャンスに恵まれた。しかもナイキのCEOフィル・ナイトと同席していた時だった。大前さんのオフィス兼住宅は、東京千代田区の日本テレビの近くのオフィス街にある。「大前・アンド・アソシエーツ」で、スタッフによる短期研修を受講していた時に、二人で挨拶に見えられた時だった。余り背は高くないがガッチリした大前さんと会うのは、「平成維新の会」で北海道遊説以来、2度目であった。旧会員証を提示したら、維新の会がなくなったことを全然気にした様子もなく、フィル・ナイトにその当時のことを説明していた。世の中の動きに合わせ、変わり身の実に早い人なんだなぁとその時思った。ニフティ・サーブで「維新フォーラム」は続いているようだ。
マイクロ・ソフトに代表される「一人勝ちの経済学」やお台場のビーナス・フォートを素材にした「感動経営学」など、今を見る時代感覚に優れている人でもある。大前研一に傾倒する最大理由は、彼自身が強力なアイデアマンであることとその行動力にある。世の多くの学識者や批評家は時代や政治や経済を批判するだけでアイデアも既存の枠におさまったものが多く、しかも行動力の伴わないものばかりだ。
彼はいつも何気なく新機軸を打ち出す。キリストの生誕以後、西暦元年をAD(アフター・ドミニ)といい、それ以前をBC(ビフォー・クライシス)というが、1995年のWINDOWS95発売を起点にパソコンの本格的普及を記念してBG(ビフォー・ゲイツ)・AG(アフター・ゲイツ)とも命名した。更に1998年の12月25日のクリスマスからアメリカでオンライン・ショッピングが爆発的に売れ始めたのを記念して「ポータル革命記念日」と命名した。「遊び心」がないと出て来ないアイデアである。
型にはまった人はおもしろくないというのが、彼の持論である。セミナーで地方を訪れた時に、担当者との打ち合わせの会話の中で、「大前先生(俺は先生なんかじゃない・・・)ハンディはいくつですか?」と必ず聞かれると言う。オフロード・バイクや山スキー、スキューバー、釣りなんかが好きなのに、おかまいなしに突然の質問。クラリネット演奏はプロ級である。
「一人勝ちの経済学」の中で、「多様な選択肢があるにもかかわらず、我が日本人は極端な集中化をして、返って選択をしなくなる」とある。B’Zや宇多田ヒカルのCD、「タイタニック」現象、「だんご3兄弟」「携帯電話」等々。大前研一は日本人の無思考・無思索の現代の風潮に何か先行きの不安を感じている。
これからの時代、無思考・無思索ではますます国際的ナレッジ(知的)マネージメントの戦いから取り残されることを大前研一は危惧する。情報産業にしても日本は、アメリカの3〜5年は優に遅れている。ソフトウェアは相変わらず10年も引き離されている。
インターネットを核にして、次から次にE−ビジネスを展開させるアメリカに比べ、見るべきものの無い日本の情報産業。誰かが言っていた。日本にはアメリカの自由な風土から生まれる「レッツ・トライ」がないという。アメリカの親は、子供が野球で負けてきても「レッツ・トライ(よくやった!)」というが、日本の親は、「何で負けたんだ」とその原因を探ろうとする。お国柄の違いと言ってしまえばそれまでだが、次に繋がる「やる気」がトコトン違う。中国の有人衛星の前の日本のH2ロケットの2度の失敗も、何処かに「レッツ・トライ」が欠けているこの国の教育の失政に原因していないだろうか。
農業革命・産業革命と続いた歴史の中で、情報革命は今や古い秩序と倫理さえ破壊しかかっているように見える。今から先、10年も不景気が続くようであれば、社会は大きく変革し、ある意味で逆に歴史のターニング・ポイントが変わる千載一遇のチャンスになるのかも知れない。決してそれを望んではいないが、現に我々は1986年から始まったバブル経済を予測できなかった。その結果、金融ビッグバンが起きた。
山一証券がつぷれ北海道の拓銀がなくなった。何が起きるかわからない時代になった。
大前研一は語る。「今の日本を変えるには、教育を全部やり直さなければダメじゃないか。未だに役人になろうだとか、大会社に入ろうとかコンサバティブな空気が蔓延している。『お受験事件』があったばかりだが、親が既存の社会の安全な枠組みを子供に刷り込んでいるだけだ。僕はスタンフォード大学で教えたことがあるが、学生のほとんどが大企業に入るのは恥だという雰囲気があった。アメリカ人は一生に3回は職業を変えるのが当たり前の社会。その4割がベンチャー・ビジネスを経験している。しかも失敗を勲章にできる社会。新規事業の8割がエンジェル(個人投資家)からの財政支援を受けている。日本の国民資産1,300兆円の約7割を所有している高齢者、先行き不安で何処にも離さない資産と違って、失敗してもその損金を所得税から控除できるアメリカの『エンジェル税制』は投資の対象として経済活力の一翼を担っている。結果的に、廃業率が起業率を超える日本の8倍以上の起業率を維持している。スタンフォードの学生は就職せずにいきなり会社をつくる。」
日本でも2000年4月以降、やっと中小企業国会でこのエンジェル税制が施行される見通しとなった。
大前さん、超多忙はいいが、MSC(マルチメディア・スーパー・コリダー)に対して一部批判も出ていますよ。
次から次の著作出版、CS放送出演、海外取材、会社経営、コンサルタント、寸暇を惜しんでオフロード・バイクでの複雑骨折など、体がいくつあっても足りない感じ。あなたに限っては「余裕ある生活者の視点と、尽きることのない好奇心いっぱいの遊び心」に傾倒していた俺。あなたの存在そのものが、数少ない「日本を変える」具体的理論を持った大きな存在です。あなたは、もしかしたら永遠の帰国子女?かも知れない。
どうか、道なき道のパスファインダー(探求者)でいてください。
あなたの2人の息子たちも大学を中退してコンピューターCGの道にいる。
あなたがいつも言っている、「自分の人生を生きる」。俺の大好きな座右の銘です。