「もはや菊姫に向けられた呪いは菊姫を飲み込み松平伊豆守にまで届き伊豆守に死神を宿らせている。」
「昨日は最後だと思っていたがお前らの仲間に邪魔されたよ・・・・・・・・・・・・・・。」
「お前たちがここに来たと言う事は川音は死んだのか、・・・・・菊姫と伊豆守の髪の毛を預かり・・いないか・・・それを渡してくれ。」それっきり牛鬼は黙ってしまった。
朧と青龍は何を思い、何を考えれば良いか分からなかった。怒っていいのか悲しんでいいのか。哀れだ無残にも嬲り殺しにされた山音や娘たち、 山音の仇討ちと宗朝の助命を願い殺された川音と弟子、 娘を惨殺されなが相手が権力の長であるため訴え出れない宗朝の様な親や兄弟姉妹たち、 父親の悪行の為に肉欲の虜となり淫魔に嬲られ気高い心を失い命を削る美しい女、 呪詛に抗い死んだ侍たちと淫女に堕ちた女たち。
三人は涙を流していた、鳴き声を堪えていた。いやもう一人涙を流すものがいた方円の外にたたずむ干からびた塊。
「宗朝さん、まだ生きているよ。」青龍が涙ながらに言った。
「宗夕・・お前の娘は・・・すまなかった、それより・・・力を・・・・・、力を貸してくれ・・・あと少しなんだ。」ミイラが念話でうめいた。
朱雀が感じた怒りと悲しみは娘を惨殺された宗朝の例え様のない無念だったんだ。
「朧さんと千代さん、いや今は玄武と青龍と呼ぶのか。世の中には苦しくても判断しなければならない事がある。菊姫とその父親である老中松平伊豆守は助けようが無い、菊姫は衰弱した体でわずかに残る良心と宗教心で呪いが見せる淫夢と戦い苦しんでいる、もはや逃れようがなく肉体にまで死相が現れている。老中様も致命傷だ、僅かな日数の間に命の火消えるであろう。」
「幸い今宵はみなが恐れをなしてしまい菊姫と老中には護衛はつかぬという、私がここに来た事で娘と白虎二人に危害は及ばぬであろう。」
「坊主は殺生を禁じられているが、兄弟子である宗朝とこの魔物たちの思い、哀れに嬲り殺しにされた娘達の仇を遂げさせたやろうと思うがどうだ。」宗夕が泣きながら言った。
玄武と青龍はしばらく考え込んだが、玄武は川音から預かった菊姫と伊豆守の髪の毛を巻いた手ぬぐいを宗朝の手に握らせた。握らせた手は力強く閉じられた。
「助けを与えよう。」と宗夕がいった。
「なにを?」
「念を与えてやろう。」
三人は宗朝を取り囲み、腕も伸ばし手の平を向け念を送った。宗夕がバラモンの真言を唱えた、暫くすると突然宗朝の体にひび割れが走り割れ目から凄まじい光がもれた。一瞬光で目がくらんだ後、それはそこに立っていた。昨夜白虎と朱雀が見たであろう式鬼が円陣の宗朝の対面に立っていた。牛鬼の体に首から千触蛸の触手を伸ばし、足の間には宗朝の顔が浮かんだ丈は八尺は有ろうかという怪物だ股間の顔が高笑いを始めると本堂の天井と屋根を突き破り江戸城に向かい式鬼が空を駆けていった。
宗夕と玄武と青龍がその廃寺に辿り着いついたのは夕刻が迫る暮れ六に近かった。朽ち果てた本堂に入ると即身仏の様に乾いた死体が胡坐をかいている。その前に描かれた方円、中心に牛鬼と千触蛸の死体があった。
川音とおそらく宗朝の弟子であろう僧が無理をして髪の毛を手に入れようとした理由が分かった。
牛鬼は千触蛸を肩車するように朽ち果てていた。
「呪詛の方円だ。」
「滅死の法を使ったな。滅死の法とは呪詛の為一切の穀と水を断ち、飢餓と渇きの苦しみを呪詛に乗せる。場合によっては自らの体を傷つけてその苦痛も怨念に加え相手を呪う禁じ手だ。」宗夕がいった。即身仏の前に描かれた円の中には意味のわからぬ梵字が描かれていた、そして牛鬼の蹄と足には鉄の踵は打たれていた。
「この牛鬼生きている。」青龍がいった。
「山音と川音は慈悲と愛を俺とこいつにくれた。・・・・・・・人を食いに逢魔ヶ森から江戸に来て人に追われ深手で負い寺に逃げ込んだとき・・・・救ってくれた・・・。それから人を食うのを やめた。傷が癒えて逢魔ヶ森に返った後も山音と川音の声を聴くのが好きだった。」念話で牛鬼は話しかけてきた。
牛鬼は続けた「ある日山音の声が聞こえなくなった。心配になりこいつと二人で江戸に戻り山音を探した、そしたら江戸城の濠に住む鬼亀が教えくれた山音が松平伊豆守に責め殺されたことを
鬼亀は濠に住んで濠に打ち捨てられる死体を食っていた。鬼亀の能力で食った死体の残留思念を取り込む事が出来る・・・・山音は伊豆守に全裸にされ髪の毛で吊るされ鞭打たれ、乳首を焼かれ 、木馬責めで股を裂かれた・・・・。そして死にゆく山音の顔に歓喜の声を上げ射精したんだ。」
牛鬼が景色を送ってきた。玄武と青龍は戦慄した、同じ年頃の娘たちを伊豆守が打ち、焼き、引き裂いていた。
「止めろ、こんな物を見せるのは!!」宗夕がいった。
「山音は心も顔も体も飛び切り美しい娘だった。山音を責める前に伊豆守は無理矢理見せたんだ。」
「父宗朝の祈禱の手伝いで大奥にくる山音と川音にあの悪魔は目を付けたんだ。宗朝は娘を一人小姓に寄こせと言われれた・・・・拒めば大奥出入り禁止だ。
療養所を寺でやっている宗朝には大奥勤めが無くなると収入が止まり療養所を維持できなくなる。」
「何かと悪い噂の多い男だ、最初宗朝はためらったが山音は父の為に自ら進んで悪魔の生贄になった。俺たちも人間の生贄を食う・・・がそれは生きるためだ。伊豆守は楽しみのために若い娘
を殺すんだ。おまけに伊豆守に嬲り殺しにされた娘は 一人や二人ではない・・・・・鬼亀が濠に住み着いた事を知り鬼亀の住処の近くに死体を捨てるようになった。二十人以上の娘の死体
を鬼亀は食ったと言った。」
「そんな悪行を行うとは伊豆守は魔物の血を引くのか?」青龍が問うた。
「ふふふ、いろいろ調べたが伊豆守は正真正銘の人間だった。人間だよ。」
三人は何か言いたかったが、黙って聞いた。
「山音の父である宗朝に全てを話した。死んだ山音の双子の姉妹である川音は心が山音と繋がっていて山音が酷い苦痛と恥辱を味わいながら死んだ事を知っていた。宗朝は自らを鬼神になると誓った。
そして俺たちは伊豆守と一番のお気に入りの菊姫を呪い殺すことにした。菊姫は悪魔が産ませた菩薩のような女だった、将軍の妾になる女だったが仏に傾倒し・・・・
優しく慈悲深く操正しい女だった。将来は仏を敬い、夫に従い、子を産めば愛情を注ぎ立派に育て上げ、家臣を大切にして幸せな大往生が待っている女だ。
その女を辱めて山音が味わったような恥辱を与え肉欲に溺れる畜生に堕とし、それを伊豆守に見せながら二人を殺すことにした。
・・・俺たちは魔物だ、山音の敵を討ち地獄に落ちようぞ。」
「待て、菊姫に罪はなかろうが!。」玄武がいった。
「ふざけるな、伊豆守に嬲り殺しにされた娘たちにも罪はない!!。」
「俺たちは業の欲が深い。美しく理性や知性を持ち深く仏に傾倒する菊姫を弄ぶのにちょうどよい式鬼を怒りと肉欲と色欲の塊で作った。
最初に式鬼が菊姫を襲った時、菊姫のやつ異形の怪物に犯される恐怖に力ずくで操を奪われた恥辱と受けた快楽で混乱して泣きながら自分で自分の命を断とうとした。
しかし、言語に絶する苦痛と恥辱を味わいながら死んでいった山音の事を考えるとそんなに簡単に死なせてたまるか逃がしはしない。逃れなれないように金縛りで体の自由を奪ってやった。
二回目は快楽に抗う意思を突き壊し命を削りながら畜生に堕した。それで我々は分かったんだこの女、強い意志を持ち仏の邪淫の戒を守ろうと快楽に必死に抵抗しながらも心と肉の淫蕩な部分が
快楽を楽しんでいた事を、業の深い女であることを知ったんだ。戒めを守ろうとすればするほど身に染みて快感を味わえることを覚えたしまった、本当の意味でこの女自分で畜生に堕ちたんだ。
だから昨日の夜は試してみたのだ、嫌がりながらも菊姫は快楽をくれる魔法の突棒を見ると嬉しそうに大好きな玩具を貰った子供のように、純粋にはしゃいで、自分で尻を突き出し足を開き命を吸い
取る毒蛇を体の中に招き入れ尻を振ったんだ。高貴な心を持っていた娘が淫女と化し淫乱な痴態を晒す様を伊豆守に見せ、伊豆守自らの罪の深さを思い知らせてやった・・・・・。」
結局夜が明けてしまった。
月影と玄武と青龍は江戸城の内堀を一晩中泳いだが鬼亀を見つける事は出来なかった。実は三人だけではなく月影の水棲族の部下が二十人遠まきにしていた。
つまり玄武と青龍は鬼亀を誘き出すための囮だったのだ。
月影が念話で部下たちを集めた「鬼亀は夜しか動かない。明るい間は鬼亀は濠のどこかに隠れて動かん、残念ながら戻るぞ。」
月影の部下たちが集まり、今いる乾濠から平川濠を通り地下水路の入り口がある三の丸にむかった。青龍が「にやにやして私たちこと見てるやつがいるよと。」念話でひそひそ話をしてきた。
女褌一つで銛を持っている、乳房も露わに出している。でも、裸を男に見せるのは私も青龍(千代)も12の時から父殿と先代の青龍、その部下たちと江戸湾で沈んだ船を荷の引き上げだとか
ど座衛門の捜索だとかをしていたので慣れっこになってしまっていた。それで水棲族の男が”ニヤニヤ”して水棲族の女を見るのは少し人間とは違う、水棲族の女の美人とは泳ぎが上手いこと
と硬質化した肌が綺麗かである。綺麗の意味は肌が綺麗とかの意味と違い色が綺麗かになる。そこに行くと青龍は鮮やかな青色をしていて泳ぎも上手いので水棲族の女の中では超美人だ、私は
紫いろの肌をしているので美人の範疇に入るらしい。それにしても青龍は長身でもあるので泳ぐ姿は本物の龍の様に見える。
私も早いほうだし泳ぎや硬質化した肌も美人の部類に入るそれなのにそれを見ないで、私と青龍が城婆たちに決まっただのなんだのと言われ、それが気になっていた可愛い乙女心とはこんなものなのかなと。
そんな事を考えたいて竹橋に差し掛かった時、玄武は女のど座衛門を見つけた。仰向けで顔が水からでている、水中から泳いで近づくと背中に棒手裏剣が二本刺さっている、心臓の音も弱いがまだある。
月影が「捨て置け、厄介に巻き込まれるぞと。」と近ずいていった。
「でも、息まだあるぞ。」玄武が言い返した。
玄武は水をでて水かきの付いた手でその女を捕まえた。年のころなら十六~八と言うところだ。
「変だな、巫女の装束をしているな。」月影が浮き上がっていった。
玄武が両腕で下から抱えると娘が反応した、薄目を開け握った右手を玄武の胸にあて「これを父に・・・・・、隅田川・・・上るとりう・・うん寺・・。」頑張ってぎりぎりまで耐えていたのであろう娘はこと切れた。
青龍が浮き上がってきて、娘の死に顔をみるなり「私、この娘知ってる朱雀の父殿宗夕の兄弟子の宗朝の娘だ。」
死体ではあるが人間を地下水路を通すのはいかがなものかと思い、三の丸の石垣にある人用の出入り口から娘の遺体とともに玄武と青龍は入った。月影が先に連絡してくれて着物が用意されていた。
着替えに小部屋に入ると赤鬼の部下のくノ一が入ってきて私たちは夕べの式鬼の騒ぎと私たちが運んできた娘の遺体の事を着ながら聞いた。
髪は結う暇がないので垂髪にして後ろで結わいた。私は一本角が見えてしまうが大奥のご法度だとか言っている場合ではなかった。
着替え部屋を出ると娘の遺体の顔を見て耳打ちする奴がいたが、取るものも取りあえず自分たちの裏長局の自分たちの部屋に向かった。
部屋の木戸を開けるとそこには式鬼と僧侶が胡坐をかいて座っていた。
怨嗟の鬼 終わり
あああ
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